小学生のころ、私は九州のとある辺境に住んでいました。
その町の殆どが田、又は森でうめ尽くされています。
ようするにド田舎です。
そんな町に住んでいた私は小さい頃からよく両親や、近隣の住民から良く言われていたことがありました。
『双子池には絶対に近付くな』と。
双子池は、どこにでも普通にありそうな、かつての私の家の近くの池のことです。
そしてそこには、伝説がありました。
昔、日本に邪馬台国あった前後ぐらいころに、その池に龍が2頭いたそうです。
いつも田畑をその2頭が見守ってくれていたそうで、おかげでその周辺の土地はいつも豊かで満ち足りていました。
そして、それへの感謝を示すため人間たちも収穫の一部を御供え物にし、双子池に献上することで、お互い争うことなく共存していました。
しかし、ある日、村の誰かが殺人を犯してしまい、その死体を村の連中から隠すため、双子池に死体を投げ入れました。
そして池の中の2頭は、それを御供え物と勘違いして、その死体を食べてしまったのです。
2頭は気が付いてしまいました。
一番の美味は人間であることに。
それからというもの、豊作だった村々は豹変し、飢饉やら疫病やらが流行だし、死人が続出しました。
勿論、2頭の龍の仕業でした。
そして、死体を見たくない心理はいつの時代も同じだったのでしょう。
村人たちは2頭の思惑通りに、まるで芥川の羅城門のごとく、次から次へと量産される死体をどんどん双子池に投げ込むようになりました。
そんなある日、飢饉の噂を聞きつけた、或る九州の権力者がやってきました。
それは一説には巫女だったそうです。(自分の勝手な憶測では卑弥呼だったのではないかと思います)
そしてその巫女は村人に命じて池に案内させ、2頭の龍と対面しました。
そこで巫女はある契約を交わし、2頭の龍を封印(?)しました。
2頭の龍がまた村を昔のように繁栄させる代わりに、毎年に収穫の一部を献上し、五年に一度人間を二人捧げるという内容のものでした。
村人たちはそれに頷き、ちゃんと契約を守りました。
それから村は飢饉もすぎ、また昔のように繁栄しました。
以上が伝説の内容です。
このこまやかな内容は、私が大学生になってから文献等を読み漁って初めてわかったことです。
それまでは祖父母たちからの『悪いことしたら、双子池に連れて行くぞ~食べられるぞ~』等の脅し文句などとしてしかしりませんでした。
なので当時小学生だった私が知っていたことは双子池には2頭の龍がいたことと、龍が人間を食うことだけでした。
だから、親や近所の人が『双子池に行くな』って理由を、私は幼心なりに『龍に食べられるから』と解釈していました。
前置きはこれくらいにして、私の恐怖体験にはいります。
小学三年生の夏休みのことでした。
私たちは『なつやすみのおやくそく』なる規則プリントに毎年必ず書かれている『双子池の近くには行かない』という規則を破る計画を立てていました。
原因はドラゴンボールです。
誰かがドラゴンボールの漫画を学校にもってきたのを切っ掛けに、ドラゴンボールブームが巻き起こりました。
男性ならおそらく理解頂けると思いますが、ハマってから良く『かめはめ波』の練習等したものです。
今回の計画もそれの延長線上で『神龍を探しに行こう』みたいなノリだった気がします。
三年生になったこともあり(?)、またドラゴンボールの神龍を思い描いていたので、『龍が人間を食べるわけないじゃないか』と思っていました。
そして、探検には四人でいくことに決めました。
まず私と、
当時一番背が高くて力持ちでありガキ大将でデジモンが好きな奴(以下、デジモン)と、
背は低いけど空手を習っていて、唯一デジモンに対抗出来るイケメン(以下、イケメン)と、
当時からアニメ漫画好きで、確かドラゴンボールブームの張本人な気がする奴(以下、天津飯)です。
私たちはドラゴンボールがそろわないと神龍がでないことを知っていたので、まずドラゴンボールらしきものはないか探してみました。
ドラゴンボールはなかったけど、デジモンと天津飯が2頭の龍の模型があるほこらを見つけました。
私たちは神様が神龍の模型をどうにかするシーンを思い出して、これに準ずるものだと感動し、何故かお祈りをしました。
そして、私たちはこれで夜に池の近くに行けば、神龍が出て来ると勝手に思い込んでいました。
なぜ夜だったかは、神龍は暗いときにしか現れないと天津飯が言っていたのをおぼえています。
ほこらを見つけた後日の夜に池の近くに行くことが決まりました。
当然、小学生である身分で夜に友達と遊ぶことは認められていませんでした。
しかし、この町に何年に一度か行方不明者がでて、その人を探すために大人が駆り出されることがあります。
元々老人が多い村なので、どこか森の中で倒れているとかの原因が多いです。
そして、運良く(不謹慎ですが)その出発の日には私の両親は捜索に行って、僕のお守りに祖母が家にきましたが、
祖母はすぐ寝てしまったので楽々抜け出すことができました。
ゴミ広い活動で先生たちと何度か真昼間の双子池にいったことがありました。
双子池の上にはバイパス道路が通っていて、そこの下以外の周りは落ちないように柵に囲まれています。
つまり、そのバイパスの下でしか直接池に行けませんでした。
その上、前日に雨が降っていて大変危険で、もしもの雨対策も必要でした。
だから各自で自衛道具と傘、またはフードとか懐中電灯を持って行くことになってましたが、私は親が持って行ってしまったため、仕方なく道場で愛用している竹刀を持ってフード付きの服を来て行きました。
集合場所につくとすでに天津飯とデジモン(この二人は門限がなかったらしい)がいて、そのあとイケメンが来ました。
イケメンの家も捜索に行って、懐中電灯がなかったため二つだけでした。
捜索中の大人に見つかるとまずかったので、コソコソ歩いてそこまで行きました。
その道すがら、各自の自衛の道具を披露しあいました。
デジモンは爆竹、イケメンは何も持って来ていなく、天津飯は兄から借りたという電動ガンを持って来てました。
ハンドガンではなかったですが、m16みたいに大きくはなかったと思います。
そして、バイパスの下への入口らへんについたときに奇妙なものを見ました。
バイパスの下はトンネルみたいになっていて、そこを抜けると双子池の浅いところに着くのですが、その双子池の少し手前のトンネル内でオレンジ色のものが光っていました。
私は一見『ドラゴンボールだっ!!』と思いましたが、他の皆はまだ分からないし、宇宙人かもしれないとかを想定して、気付かれないために懐中電灯を付けずに、ゆっくりに進むことになりました。
先頭の私とデジモンは真っ暗な地面を手探りで音を発させないように障害物をとりのぞき、その後ろは遠くからでも攻撃ができるように前を向いたまま電動ガンを構えた天津飯、後方の見張りはイケメンに、それぞれ役割分担しました。
いざというときのために懐中電灯はイケメンと私に預けられました。
トンネル内には何か水が滴るような音が不定期に響いていました。
そして、向かっている途中で天津飯がふいに言いました。
「えっ………誰かいるくねぇ?(誰かがいるのではないか?)」
その囁きで私たちの動きが止まりました。
トンネル内が夏なのに極度に冷えていることをこの止まったときに実感しました。
確かに天津飯の言うとおり目を凝らして前を見てみると、オレンジ色が何かを照らしているようにも思えました。
それに先ほどの水滴の音より、ズズとか何かを引きずる音の方が大きくなっていました。
デジモンが
「引き返そう」
と一言だけ囁きました。
私たちはすぐに了解し、イケメンを先頭に帰ろうとした時でした。
「が、が、が、が、が」
という恐らく声であろう音が、バイパスの中に響いて聞こえました。
バイパスの車がちょうどとおってなかったのか、キレイに響いていました。
私は思わず怯んでしまい、懐中電灯を地面におとしてしまいました。
途端に『が』の声(?)が消えて、懐中電灯を落とした音が木霊しました。
私は手探りで懐中電灯をさっさと広いあげて、オレンジ色の光の方へ向くとすでに光は消えていました。
かわりに
『たったったったっ』
という音だけ聞こえていました。
無意識の内に、懐中電灯を付けると私たちは我先に逃げ出しました。
何かがこっちに来ていることだけは確認できましたので、逃げる理由には十分でした。
奇跡的に誰もこけることなく外に出られましたが、ホントに怖かったのはその後でした。
怖い話投稿:ホラーテラー 生生生生さん
作者怖話