A「なあ、呪いのビデオって知ってるだろ? あれの本格版が最近出回ってるらしいぜ」
いつものように俺と友人ABCが下らない話で盛り上がっていたところで、ふとそんな話が出た。
A「出たよ本格版w 一体いくつ聞いたかわかんねえよ」
B「まあ聞けって。何でもそのビデオっつかDVDは、何も書いてない黒い箱に入ってて、いつのまにか
誰かの家のポストに入れられてるらしい。んで、見た奴はその日か、せいぜい翌日に死んじまうんだと」
俺「へえ、で、どんな内容なんだよ?」
B「それは俺も聞いてない。大体見た奴みんなすぐ死ぬなら内容知ってる奴いるわけないだろ」
C「まあ、そりゃな。んで、DVDと箱はいつの間にか消えてるってオチか?」
B「そうそう。俺の先輩の友人の友人が実際に来て死んだらしいぜ」
俺「でもその友人の名前はわからねえんだろw」
B「まあなw でもその理由がな、名前聞く前にその話をした友人が死んだからなんだってよ」
A「おいおい、話題に上げただけで死ぬとか言わないだろうな」
B「俺も先輩も生きてるからそれはない。でも、ただのやつより少しはリアルっぽいだろ?」
そう笑いながら語っていたBとAが死体になって発見されたのは、その数日後のことだった。
場所は二人ともBの自宅のアパート。Bは体中を包丁でめった刺しにされた、見るも無残な死体だったらしい。
対してAは首を真一文字に切り裂かれていただけで、右手に血まみれの包丁を握っていたことから、警察はAがBを
殺した後に首を切り裂いて自殺したと見ているようだ。
だがそんなはずはない。普段からAとBとの仲の良さは目にしているし、数日前のあの時も、そんな惨たらしい
殺人に至るような確執は見受けられなかった。
(まさか・・・・・・な)
一瞬脳裏に浮かんだ考えを俺は打ち消した。呪いのビデオなんてものが実際にあるわけがない。
だが、AかBの元に黒い箱に入ったDVDが届けられ、片方に相談した挙句、一緒に見た結果死んだ。
こう考えた方が、少なくとも俺にとってはしっくり来るのだ。
ふと、自分の家の郵便受けが気になった。馬鹿な、そんなことがあるわけないと思いながらも、不安感がどんどん
膨れ上がっていく。
(どうせあるわけないんだ。それならそれを確認した方がこのままここにいるよりいいだろう)
俺は部屋のドアを開けた。
もう日没近く、わずかに赤みがかった薄暗がりの中を、アパートの入り口横にある郵便受けに向かう。
電灯がつかない程度の暗さのため、なまじ夜に向かうより余計に恐怖を煽られそうな中、自分の郵便受けを開いた瞬間
俺は二、三歩後ずさった。
薄い暗闇より黒い、黒色と呼ぶよりは闇を固めたといった方がそれらしい色の、小さい箱がそこにあった。
「何で持って来てるんだよ俺は・・・」
郵便受けから逃げるように走り、部屋に飛び込んだ俺は、手にした黒い箱ごと頭を抱えた。
こんなものはさっさと戻すか、そこら辺、いっそ窓からでも投げ捨てた方がいい。
それがわかっていながら何故か手放せない。AとBの死の真相を知りたいという興味がないわけではないが、そんなものより
もっと強い「何か」が働いているのか、どうしても捨てる気になれないのだ。
(取り敢えず開けてみるか。可能性は低いけど、DVDじゃないかもしれんし)
頭の片隅でよせ、やめろと叫ぶ声を無視して俺は箱に手をかけた。
内側も黒一色に染まった箱の中央に、くっきりと浮かび上がった灰色のDVDが見える。
(ああ、やっぱり・・・)
思わず膝をついた時、ふと違和感が俺を襲った。
「え?なん・・・」
俺が膝をついた場所。
それはテレビの前だった。つい今しがたドアのすぐ側に立っていたはずなのに。
(嘘だろ? このままじゃ)
焦る俺の心をよそに、俺の腕はゆっくりとテレビのスイッチを入れると、その前にあるDVD再生機能付きのゲーム機を起動した。
(よせ! やめろ!)
自分の体が自分の意思に関係なく動く。
言葉だけならあっさりしているのが、いざ実現した時の恐ろしさを俺は知った。
額を汗がつたう。そのことが間違いなく今動いているのが自分の体だとわかり、それが余計に恐怖を増大させていく。
(やめろ! やめろおおお!!)
俺の心の叫びを反映しているのか、小刻みな震えが走るものの、俺の腕は止まらない。
ゆっくりとDVDを載せると、開閉ボタンを押した。
(うわあああああああああああああああああああああああああ!!!)
DVDが収まっていく。目を閉じたい! なのに瞼が痙攣するだけで、俺の目はテレビの画面に向かっていった。
「・・・・・・・・・・・・へ?」
だが、DVDが再生されてから数十秒後、俺はそんな間抜けな声を出していた。
画面には一面真っ白な空間の中を、アニメ調の亀が歩くという、ひたすらしょーもない画が流れている。
呆ける俺を置き去りにいきなり画面が切り替わり、画面一杯にCの顔が映し出されると、
「亀はのろい。亀ののろい。のろいのビデオ。な~んちてw」
死ぬ程下らないことを言って爆笑したかと思うと、おもむろにぷつんと途切れ、それ以上はもう何もなかった。
しばらく画面を凝視した後、俺は自分でもびっくりする程大量の息を吐きながら脱力した。
「何なんだよもう・・・」
そうつぶやいた瞬間、不意に笑いがこみ上げてきた。
「ははははは、亀はのろくてのろいのビデオ? くっだらね。はははははは」
ひとしきり笑った後、俺は立ちあがった。
「脅かしやがって。ちょっと文句言ってやらなきゃな」
そう言いながら台所の扉を開けると、中にある包丁を俺は無造作に懐に突っ込んだ。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話