空はどんよりと曇っていた。
その日は妻の実家から荷物が送られてくるという事で、家路を急いでいた。
電車を降りバス停に向かったが、あいにくバスは出発したばかりだった。田舎なので次のバスまで一時間近くも間がある。急いでいたのでタクシーを拾い、家のある町名を告げた。
陽気な運転手はあれこれと話しかけてくるが、適当に聞き流していた。
「あれ。とうとう降って来ましたね。」
見るとフロントガラスにポツポツと水滴が落ちてくる。ワイパーの動きをボーっと眺めていた。
突然、
「あっ」
という叫びと急ブレーキ。それに続き軽い衝撃があった。
「すみません。ちょっと確認して来ます。」そう言って運転手は車を降り、後方へ走っていった。
しばらくして運転手は戻って来た。
「猫を跳ねたみたいです。真っ黒な猫でした。まだ子猫だったのに。かわいそうな事をしました。」
そう言うと、再び車を発進させた。
十分程走り、家まで続く暗い一本道に入った頃だろうか。それまで色々話しかけてきた運転手が、急に静かになった。車のスピードも速くなる。よく見ると微かに震え、頻りにミラーを見て後方を気にしている。
「まさか、そんな…」と呟き始めた。
「運転手さん。どうしたの。スピード出過ぎてない。」
話しかけるが、返事は無い。相変わらずチラチラとミラーを見ている。
後方に何か在るのか。咄嗟に振り向いた。
降り頻る雨の中、よく見えないが後続車との間に何かいる。
真っ黒な子猫をくわえた、真っ黒な親猫が追いかけてくる。
思わず前を向く。
「さっきからずっと追いかけてくるんです。スピードを上げてもぴったりと。」
震える声でそう言うとまた車を加速させる。
「ほら、まだついてくる。」
振り返るとクロネコも同じスピードで走っている。
運転手は震えながらスピードを上げていく。少し距離があいた様だ。
「もう追ってこれないだろう」
「いや。運転手さん。落ち着いて。」
声を掛けるが、聞き入れない。
「運転手さん、前。」
猛スピードの車は急カーブを曲がり切れずにガードレールへ突っ込んだ。
「大丈夫ですか。」
後続車の運転手が声をかけてきた。
「何か凄いスピードでてましたけど、何かあったんですか。」
クロネコヤマトのドライバーは不思議そうな顔をしていた。
怖い話投稿:ホラーテラー 廿卅さん
作者怖話