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中編5
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昔ばなし

子どもの頃には夜寝る前によく昔話をしてもらったものだ。

桃太郎、鶴の恩返し、猿蟹合戦…おとぎ話の世界は子ども達に夢と安心感をくれた。

それは遠い昔から伝え次がれてきた物語だからこそなのだろう。

そして、それらが小さな子ども達に与える影響はとてつもなく大きく、インパクトは計り知れない。

そう。

それが、時に安心感と真逆の感情を聞き手にもたらすのであればなおさらだ。

あの頃から十何年もの月日が流れた現在。

大人になった今、けっして語られることのなかった昔話について聞くこととなった。

懐かしさが甦ると同時に、幼い頃に聞いたあの昔話に隠されたおぞましい真実が心の奥底に刻まれることとなってしまったのだ。

むかしむかし、あるところに子どものいない老夫婦がいた

老婆がある日、川へ洗濯に行くと、川上から大きな瓜が流れてきた

老婆は、その大きな瓜を拾いあげ家に帰り、切ってみると中からかわいい女の子が生まれた

「おお、これは大変じゃ…」

「瓜から生まれたから瓜子姫じゃ。大切に育てることにしよう…」

二人はうなずき合った

やがて、姫は美しい娘になり、老婆が機織を教えると、瓜子姫はたちまち上手になった

トッキンカタリ カタリ

トッキンカタリ カタリ

瓜子姫は毎日のように機を織っていた

すると、なんといい娘だと評判がたち、隣村の長者の家から、ぜひとも嫁にくだされと頼まれた

嫁入り支度に赤い着物の一つも買ってやらねばならないと老夫婦は町へ買い物に行くこととなった

二人は瓜子姫のことを案じて、固く言い置いた

「わしらが家に帰ってくるまで、けっして、誰が来ても戸を開けるんじゃあないぞ」

その頃、村人の間で、あまのじゃくが人さらいに来るという噂が広まっていた

トッキンカタリ カタリ

トッキンカタリ カタリ

瓜子姫が機織をしていると声が聞こえてきた

「瓜子姫、瓜子姫、いるか」

何者かが作り声をしながら戸を叩いている

……来た……

瓜子姫が知らぬふりをしていると、あまのじゃくは、ますます猫なで声を出して、

「瓜子姫、瓜子姫、ほんのちょっとでいいから、開けておくれ」

瓜子姫は震える声で答えた

「誰が来ても開けられません」

「それなら、爪の先ほどでいいから、ここを開けておくれ」

…爪の先

爪の先ぐらいなら平気かもしれない

生来、純真無垢に育った瓜子姫の心は動き、爪の先ほど開けてやるとあまのじゃくはそのすき間に長い爪を突き入れ、あっという間に中に入ってきた

「瓜子姫や、長者殿の屋敷の裏にある桃をもぎに行こう」

あまのじゃくは嫌がる瓜子姫を尻目にせがんだ

何度断っても聞き入れないあまのじゃくに促され、とうとう瓜子姫は長者の屋敷の裏まで行った

まず、あまのじゃくが桃の木に登って、うまそうに熟れたやつにシュルシュルとかぶりついて食い、瓜子姫には青いのやら、かじりかすやらペッペッと吹いてよこすので、

「おじいさんとおばあさんに差し上げるんだ」

とこんどは瓜子姫自身が器用に木に登った

あまのじゃくは下から見上げて、もっと上に熟れたやつがあるよと高い枝に登らせた

そして瓜子姫が桃を取るか取らないかというときに、

「そら長者殿の婆が来たっ」

と脅かしたため、瓜子姫はその高い木から真っ逆さまに落ちてしまった

頭を強打した瓜子姫が目を開くと、手に鎌を持ったあまのじゃくが仁王立ちに立っている

あまのじゃくは瓜子姫の着物を脱がして裸にすると手にしていた鎌で瓜子姫の足と手を刎ねた

「ギャアアアアアア」

瓜子姫の悲痛な叫びが野原にこだましたが、誰も助けには来ない

どの家も固く錠をかけて息をひそめているのだ

「誰か助けてぇ」

声にならない声をあげているとあまのじゃくは笑いながら、

「うるさい首だねぇ」

と鎌を振るり下ろした

グシャッと鈍い音がして吹き飛んだ瓜子姫の首は桃の木の枝に突き刺さった

血しぶきをこぼしながら、ぶらぶらとそこで揺れている

「熟した桃みたいだねぇ」

あまのじゃくはそう言うと瓜子姫の着物を着て、瓜子姫に化けると、老夫婦の家にもどって機織を始めた

トッキンカタリ キンカタリ

トッキンカタリ キンカタリ

「瓜子姫や、いま帰ってきたぞ」

「はぇい、はぇい」

返事の声が、どうもいつもより太い

老婆が風邪でもひいたかと心配してうまい手料理をだしてやると、あまのじゃくはそれをぺろりと平らげた

やがてめでたい婚礼の日が来た

偽の瓜子姫は、かごに乗って長者さまの家に輿入れすることになった

するとその朝、家のそばの木にカラスが飛んで来て鳴き声をあげた

瓜子姫のかごに あまのじゃくが乗ってゆく

ああら おかし

ガァ ガァ ガァ

老夫婦は、二人で顔を見合わせると道を途中で折れ、偽の瓜子姫を裏の泉に連れていった

「瓜子姫や、化粧を落としてくれんか?」

「どうしてですか?」

あまのじゃくが尋ねると老婆はこう言った

「お前には化粧など必要ないからじゃ」

老婆は舌なめずりをしている

老婆がその手をつかまえて顔をゴシゴシと洗ってやると、ついに化けの皮がはがれ、あまのじゃくがあらわれた

「お、お前は…」

老夫婦の怒りは頂点に達した

二人はあまのじゃくを萱原に引きずり出すと、そこで引っ張り回した

「助けてくれ…助けてくれぇ…うぶわあああ」

あまのじゃくは血を吐きながら助けを求めたが、老夫婦は走るのを止めなかった

そのうちあまのじゃくの耳がちぎれ、目玉はこぼれ落ち、腕がとれ、足がもげた

萱原は血まみれである

「はぁ、はぁ…」

「じいさん、死んだぞ…」

「ああ…死んだ」

「もう生き返らないかねぇ…」

「大丈夫だ、婆さん。わしらが喰ってしまえば生き返りはせんじゃろう」

「ああ、それがいいね」

老夫婦は萱原に散らばった、あまのじゃくの死体を拾い集めることにした

「ほんに取り返しのつかないことをしてしまったねぇ。このあまのじゃくは。なぁ、じいさん」

あまのじゃくの足を拾い上げながら老婆は老人を見上げた。そして悔しそうに呟いた

「嫁入り前が一番うまいと楽しみにしておったのに……喰えなくなったのはこいつのせいじゃ」

怖い話投稿:ホラーテラー アルファロさん  

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