中編4
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呪文

死ね

俺はこの言葉を誰よりも愛している。

小学生当時の俺はかなり気のよわいやつで友達と呼べるやつは1人もいなく、話しかけてくるやつといえば俺をイジメていたいじめっ子くらいだった。

イジメを経験したことのないやつには想像もつかないだろうな。内容を話すつもりはない。

大人になりイジメの傷も癒えたころに職場での集まりで俺の過去を聞かれたので正直に話したことがあった。

「可哀想…」と同情ごっこするアホ。

「男ならやり返さな!」と自分の価値観をおしつけてくるアホ。

話した俺も悪かったのかもしれんが、そんなことは関係ない。

気にくわなかったのでそいつらには死んでもらった。

まぁそんな感じでイジメられることの気持ちもわからないようなやつに内容を話しても楽しませるだけなので話さない。

ただ、書きたくてもそれは筆舌に尽くしがたいものがある。

それほどのイジメをうけておいてそれがトラウマにならなかったのは、俺が今後一生どんなことがあっても誰からもイジメられることがないとわかったからだ。

小学生時代の俺をイジメていたいじめっ子グループの大将を仮にジャイアンとしよう。

当然、俺は当時ジャイアンを憎んでいた。毎日毎日夢にまであらわれて俺をイジメるジャイアン。

俺はいつしかジャイアンの死を強烈に願うようになった。

1日中ジャイアンを殺す光景や不慮の事故で死ぬ光景などを想像した。

意識的に想像していたわけではない。望んでいることを脳が勝手に想像しているのか気がつけば想像している そんな感じだった。

そしてある時きづいた。その想像中、俺は恐ろしいほどの幸福感に満たされているということに。

想像上でそれだけの幸福感だ。現実にそれが起こればどれほど幸せだろう。

俺は想像の光景が現実におこることを強く願うようになり、四六時中ジャイアンに向けて心の中で「死ね」と唱え続けた。いや、叫びだとか請いといったほうが正しいか。

寝ても覚めてもその呪文(?)を唱える日々がつづいた。

夢の中にまであらわれて俺をイジメていたジャイアンとの立場は完全に逆転し、俺がジャイアンを殺す夢をみるようになった。

その頃には現実のジャイアンも様子がおかしくなり、元気の塊で授業中もやかましかったあのアホが日々口数もへり、病人そのもののように青白い顔をし、学校も休みがちになった。

俺は嬉しくなりますます呪文に精をだした。

その甲斐あってジャイアンは最後に学校に顔だしてから2週間後のある日、自宅で息をひきとった。ちなみに原因不明。死ぬまえの2週間は1言も喋らなかったとか。

ジャイアンが苦しみもがいて死ぬ様を見れなかったのは残念だったが、俺は歓喜に包まれた。

リーダー格がいなくなり多少度合いはマシになったもののいじめっ子グループのイジメがやむことはなかった。

だが俺は苦しくなかった。当時、小学生ではあったが子供の俺でもハッキリわかっていた。

ジャイアンは俺が殺したんだ。

だがジャイアン以外のやつらを殺すのにはジャイアンの倍以上の時間がかかった。(そいつらの詳細は省く)

これは後々研究するにつれてわかったことだが、憎しみの度合いが弱いと効力も弱まるらしい。

だが、これも実験してわかったんだが憎しみの度合い…つまり質が悪くても量が多ければそれを補える。

つまり呪文を唱える回数でカバーできるという事もわかった。

憎しみを増大させ質を向上させる方法もみつけた。

こうして俺はこれまで16人の気にくわないやつを殺してきた。

これは、便利だ。法では裁けないし、手も汚れない。相手が悪いのだから罪悪感もない。

何故この話をするのかというと、もうすぐ俺が殺される番だからだ。

16人のアホたちを俺は呪文で死なせてきたが、それは誰も想像ができない世界だ。どんな時でも「死ね…死ね…死ね」と唱えつづける。

風が吹こうが雨が降ろうが槍が降ろうが骨が折れようが…

実際、俺はインフルエンザにかかったさい疲労困憊のなかそれを対象への憎しみに変え呪文を唱えた。

16人目を終えたあと俺は憎むべき相手がいなくなってしまった。呪文を唱えない日々が1週間を過ぎたあるときふと気がついた。

頭の中から呪文が消えない。俺の思考とは別に呪文が脳内でこだましつづけるんだ。

勝手に頭に浮かぶその声は初め自分の声で聞こえていたのだが気づけば様々な人間が俺にむけて言ってる言葉だということに気づいた。

最も大きいのはジャイアンの声だ。

俺は呪文の質や回数の方程式がわかっている。

もってあと1月か…1月半か…

でも俺はあいつらと違う。

「死ね」

この言葉に俺は助けられ幸せを築いてきた。

この言葉があったから今の俺がいる。

この文章を打つ今も頭に流れるこの呪文は俺にとって子守歌のようなもんだ。苦痛はない。この言葉とともに俺は生きてきた。

「死」という言葉を愛すようになった俺は死に憧れをもつようにもなった。

思い残すことはない。

もうすぐ俺は天国へと旅立つのだ。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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