僕が初めて幽霊を見たのは高2の春休み、クラスの仲間木戸と2人で田中の家に遊びに行った日の晩、彼の部屋でだった。
その日家には田中一人しかいなかった。
「他はみんな泊まり掛けで出てるから安心して酒もタバコをやれるぜ」という彼の誘いに喜んで乗ったのだ。
当時ホラー映画【リング】が劇場公開中でクラスでも殆どの者が観ていた。
ゲームしたりして夜も更けてくると何となくその話題になる。
「あれ以上のホラー映画はもう出ないんじゃないか」僕が興奮して捲し立てていると、田中がポツリと呟いた。
「そうでもないさ。だってあれって作り物だろ?」
元々がオカルト好きの僕は当然その言葉に食い付いた。
「なんじゃそれ?本物を知ってるみたいな言い方だな」
「見たいか?」
「見たい!見たい!」
僕と木戸はワクワクして次の言葉を待つ。
「今まで黙ってたんだけど…実は俺霊感あるんだ」
「うっひょー!まじかよ」
「今日お前ら呼んだのは、霊感の欠片もない人間でも見えるものなのかどうか、ちょっと確かめたくってな。それくらいはっきりしてんだわそいつら」
「かーたまんねえ!早く見せろ!」
「まだ早い。もっと遅くなってからだ」
「・・・心霊スポット行くとかじゃねえのか?」
「いや、この部屋で見れる。まあ、待ってなって」
「・・・・ここに出んのか?」
「だから待ってなって!そのうち解るからよ。俺さあ、生まれは九州って言っただろ?親父の仕事の都合でこっちに越して来たんだけど、後で知ったんだけどさ、ここら辺土地がめっちゃ安かったらしいんだわ」
「いわくがあんのか?」
「江戸時代は刑場だったらしい。もちろん土地買った時には親父もそんな事知らない。俺がこの町で最初に見たのは腸(はらわた)引きずりながら歩く片腕の無い男の姿だった。あと、長襦袢ていうのか、真っ赤な着物を着たガリガリに痩せた女とか。まだ五歳の時だったな」
「・・・・・・」
「この家見たら屋根に生首がいくつも乗っかって俺たちを見下ろしてた。屋根だけじゃない。誰もいない家の窓から女が顔覗かせてるんだ。閉め切ったサッシ突き抜けてな」
「・・・・まじかよ」
「怖くて泣いたよ。ここに住むの嫌だってな。住むどころか家ん中入るのも勘弁!て感じだった。でも親は駄々をこねてるとしか思わない。まあ、当然といや当然だけどな」
「でも今住んでるじゃん」
「それがさあ…今思い出しても不思議でしょうがない事があったんだよ…」
木戸が妙にそわそわし始める。「俺、何か怖くなってきた」などと言いながらしきりに部屋を見回している。
僕も何となくあちこちから視線を感じて落ち着かなかった。田中からその話を聞くまでは何ともなかったのに。
まあ、今から思えば気配なんてのは気の持ちようでどうにでもなるって事なんだろう。
「俺は泣いてばかりいた。家ん中至るところにいたんだ。居間にも台所にも風呂場にも寝室にも。常に母親と手を繋いで行動してたな。そうしないと歩けないんだ。怖くて目瞑ってるから(笑)。そしてついに母親が見たんだ。天井を飛び回る生首を。俺も親父もいない、たったひとりの時に」
「・・・・・・」
「こうなると母親はもう俺の味方だ。母親は片言を話し始めた時からおかしな事ばかり言う俺を内心気味悪がってたそうだけど、やっと信じてもらえたってわけだ」
「前置きなげーよ!ビビらそうとして嘘言ってねえか?お前に霊感なんてどうも胡散臭いし、今まで黙ってたてのも納得いかねえ」
「だって言っても信じねえと思ったし・・・馬鹿にされるの嫌だかんな」
「・・・・・・」
3人何となく気まずくなって、テレビ見ながらさほど美味いとも思えないビールをチビチビやってた。
「そろそろいいかな」
突如田中が窓を指差し言った。
「開けてみ」
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話