パアン!
火薬音で目覚めると、僕は白い部屋の中にいた。
寸法は10M四方程か。勿論僕の自室ではない。
「なんだここ。どうして…?」
うろたえながら床を見ると、
「うわ!」
うつ伏せになった人がいた。
女性の様だ。
側頭部に穴が開き、血がドクドクと出ている。即死だろう。
「自殺死体…?今の銃声か!?」
傍に拳銃が落ちている。
事態が把握出来ず、とにかく周囲を見渡した。
部屋は正立方体、中央に三つ机があり、うち二つにに何かが乗っている。
向いの壁には床から1M程の高さに、一辺1Mくらいの正方形の扉がある。
扉には紙が貼られていた。
「字が書いてある…」
部屋の見取図も書かれていた。
僕と相手の部屋は、この扉の先で細い通路で繋がれており、丁度鉄アレイの丸い
両端を立方体にした様な形になっているらしい。
空の机にはさっきの拳銃が置いてあったのだろう。他の机には、バット、それと15cm
程の長さの銀筒を二本束ねた器具がそれぞれ置かれていた。
「冗談だろ…」
状況は概ね飲み込めた。
そしてぞっとしながら悟る。
少なくともこの部屋には他にドアの類は無い。ここへ僕が運び込まれたのはあの
扉の向こうからなのだ。
「どの道あの扉を抜けなきゃならないんだな。くそ…」
床の死体を見る限りでは、この場での命のやりとりは冗談でもなんでもない様だ
。
死ぬのは御免だ。
少し前に、恋人と別れた。
遊び癖があった僕は、凄まじい借金を作ってしまい、取立が彼女にまで及び、危
害を加えられた事が原因だ。
「本当に酷い目にあったわ。死にたい。楽になりたいの」
「死んだら元も子もないよ」
「今でもあなたが好きよ。でも心から憎んでもいる。死ぬ時はせめて精一杯あな
たに復讐してやりたいわ」
「後ろ向きなんだね」
ひっぱたかれた。
でも、生き抜いてこその人生だろう?
今はまだ僕は元気だ。
だが遠からず、飢えや疲労に蝕まれ『敵』との対決は不利になる。
即行動だ。
僕は武器を選ぶことにした。
やはり銃か。他の武器は頼りないし。
いや待て。
武器は一つだけ選べとは書いていない。
いっそ全部携帯しよう。これで有利になればいいけど。
ふと死体をみた。やはり大変気になる…
!
この人は先日別れたあの恋人だ!
顔を確認する。血まみれだが間違い無い。
僕は彼女と共に閉じ込められたのか。
そしてあの文面によれば出られるのはただ一人。
生きたがりの僕と死にたがりの彼女。
「僕を生かす為に…?」
彼女は真面目で、復讐なんて出来るはずのない人だった。
結局、人の為に身を削るような生き方しか出来なかったのか。
「それが、後ろ向きだっていうんだ…」
僕は唇を噛み締めた。
一人しか脱出出来ないのなら、僕は彼女を殺しただろうか?
「何て悪趣味なゲームだ…!」
理不尽さに怒りがこみ上げる。
考えながら気付く。
『敵』も二人の可能性が高いのだ。
しかし、もう、負けられない。彼女の為にも。
僕は全ての武器を携帯して扉を開けた。
通路を這って進む。向こうの扉に手が届く。
蹴破り、銃を構える!
めくら撃ちに、前、右、左に発砲した。
白い立方体の部屋。
三つの机と武器。
しかし…
(誰もいない!?)
向かいの壁に長方形のドアがあり、ノブに何かが架かっている。
手に取ってみた。液晶パネルのついた機器で、画面には部屋の見取図が表示され
ており、そこに光点が二つ点き、端にマジックで「key position」と書いてある
。
ドアには鍵がかかって開かない。
この機械はいわゆるレーダーで、このドアの鍵が、光点の位置にあるようだ。
画面内の光点の一方は僕の体の位置と重なっている。
ポケットを探ると金具が一つ入っていた。
形状から見て、別の金具と合体させて鍵が完成するらしい。
もう一つの光点は…
僕が目覚めた部屋を指していた。
「そうか」
気付く。
この部屋にいた『敵』こそ彼女だったのだ。
この部屋の机の武器は鞭、ハンマー、そして何のつもりかマチ針が残っていた。
「これじゃどの道勝負にならない…」
それで彼女は、僕の銃を使い、自害したのだ。
彼女の死体まで戻り、鍵を捜す。
おかしい。
無い。
ついに裸にした。
それでもレーダーは彼女の体を示す。
「まさか」
体内か。
飲み込んだのか。
これが…
「復讐のつもりか!」
僕の為の自殺などでは無かった!
彼女の部屋の武器には刃物が無かった。
彼女は刃物無しには鍵を取り出すことは出来まいと、この復讐を決行したのだ。
しかし、彼女は無知だ。
僕の部屋の武器に、刃物がある。
「この銀筒はね、開くと刃が出て来るんだよ。
バタフライナイフっていうんだ」
そんな知識は持ち合わせて無かったのだろう。
躊躇いはない。彼女を解体する。ナイフを手に取った。
瞬間、小さな爆光が閃き
僕の右手とナイフが弾け飛んだ。
「うあああッ!?」
そして悟る。
「そうだマチ針がおかしいんだ!くそ!ああ!
バタフライナイフの事も知ってて!」
マチ針はきっと彼女の私物、僕へのフェイクだ。
彼女の武器の一つは、恐らく小型の爆弾の類だ。
それをナイフに取りつけてあった。
「やられた…!」
致命的な怪我ではないが、血が吹き出る。
刃物無しで、利腕を失い、彼女を解体なんて。
「不可能だ…」
僕は絶望感で脱力した。
何時間経ったろう。
出血は治まりつつあるが激痛は止まない。
誰が何故僕らを閉じ込めたのかは分からない。
彼女の意志なのだろうか?
そして、目覚めた時には、僕は既に終わっていたのか。
「撃ち殺してくれれば良かったのに…」
大怪我したままで餓死など御免だ。
吐気がする。
もう楽になりたい。
拳銃をこめかみに当てる。
「まさか、僕が自殺するなんてな…」
カチリ。
しかし、弾は切れていた。
「生きたがりなんでしょ?」
と誰かに笑われた気がした。
怖い話投稿:ホラーテラー クナリさん
作者怖話