中編5
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見てはいけないモノ

「君、霊とか見えるかい?」

僕「いいえ。怖いとは思いますが、見たことはありません。」

短い面接でこんなやり取りを最後に、この不況の中で僕は警備会社に入社した。

怖い話は好きだ。

夜、電気を消してホラー映画も観る。

ただ、肝試しで心霊スポットには行く度胸は無い。

怖いから・・・

「霊」を見た事はない。

いや、「なかった」

僕は現在、30歳のフリーターだ。

大学や高校の新卒や、職にあぶれた失業者がうようよいる時代、簡単に仕事を見つける事は難しい。

ハローワークなんてものは、企業が無料で求人ができる媒体みたいなもので、実際に人材を欲しているかは疑わしいものだ。

それなら「求人誌」でお金を払ってまで、人材を募集している企業に応募した方がよっぽど効果的だと思っていた。

毎週、求人誌に目を通していると分かるんだが、大体同じような企業が載っている。よほど長続きしないような仕事か、使い捨ての営業か。

僕が真っ先に目をつけるのは「新しい募集」だ。小さい枠でもしっかりした内容で、本気で募集しているような求人。

「施設警備員募集」

「深夜から朝まで」

これだ!と直感した。僕はカラオケ屋で深夜の仕事をしていたので、昼夜逆転の生活には慣れている。しかも交通誘導の警備員のアルバイトをしていた経験者だ。

なにより給料が高額だったので、絶対に入社したい!という意気込みで面接に臨んだ。

そして合格した。

面接に受かり、入社したのは3名だった。

驚くことに、仕事の引継ぎが終わり次第、僕たち新入社員と入れ替わりで、現在勤めているベテラン警備員さん達は全員退職するそうだ。

初出勤の日、待合室で顔を合わせた僕たち3人は簡単な雑談をしながら自己紹介をしていた。

ここで新入社員を紹介しておく。

30歳の僕。

元葬儀屋

35歳のAさん。

元ヤンキー

24歳のBくん。

仕事内容は簡単だった。

警備時間は夕方6時から朝9時まで。

一人は警備室で監視カメラや、防犯ランプを見ながら施設全体を監視する。異常があった場合は巡回している警備員に連絡する。

一人は施設を巡回しながら、警備室から異常発生を知らされた場合は、その場所に向かう。

一人は交代で仮眠する。

日曜日は他の警備会社に委託し、全員休日になる。

勤務開始から一週間後・・・

僕たちは完全に仕事を覚え、前任のベテランさんたちが無事に退職する日だった。

僕に監視カメラの操作方法を教えてくれていた年配の警備員Oさんが、人気の無い場所に僕を連れ出した。

周りに人がいないのを確認すると、深刻な顔で忠告してきた。

O「これは君にしか言わないぞ?」

O「夜中、エレベーターのカメラに変なものが映ったら、そのモニターを消せ。」

僕「え?それって異常発生じゃないんですか?」

O「違う。人の様に見えるが人じゃない」

僕「見たらどうなるんです?」

O「いいから!絶対にそのモニターを見るなよ?」

僕「え、えぇ。わかりました。」

Oさんが言うには、警備室にある無数のモニターの中で、エレベーターの監視カメラに「変なもの」が映るらしい。

その話を聞いた時、僕の中では「見たい」という気持ちが大きかったのを覚えている。

次の日の勤務開始時、僕はさっそくOさんの忠告を他の2人に話した。

この話を聞いた二人が、一体どんな反応をするか知りたかったし、この話が本当なら2人に話すべきだと思ったからだ。

A「こわいなぁー。エレベーターに乗れないじゃないかw」

B「Oさんがエレベーターから泥棒に入ろうとしてるんじゃないすかw」

と、意外と怖がらない。無理もない。この施設は都会のど真ん中で、朝まで施設内の照明はついている。

近所では知らない人がいないような大きな建物で、エレベーターも複数ある。なにより近代的で病院の様なホラーな雰囲気はなかった。

そんな話も忘れかけていた一ヵ月後だった。

僕「おはよーございます!」

元気良く遅めに出社した僕が、着替えの為に更衣室に入った時だった。

AさんとBくんが、なにやら新聞を広げて見入っている。

僕「なんか事件ですか?」

A「Oさんが事故で亡くなったぞ!」

新聞をとっていない僕には知る由も無かったが、その日Oさんは近所の事故に巻き込まれて亡くなっていた。

親切だった「Oさんの死」に、その日の僕たちは非常に暗い気持ちで勤務に入った。

その日の深夜1時くらいだったと思う。

・・・Oさん。いい人だったのになぁ・・・

Oさんの忠告を思い出しながら警備室にいた僕は、巡回中よくサボってしまうBくんの動きを監視カメラで追っていた。

今にも巡回しながら寝そうなBくんに無線を飛ばしていた。

僕「ジ・・こちら警備室。Bくん。眠いのかー?ふらふらしてんぞー。」

B「ジ・・・Bです。タバコ吸いたいっす」

「ジ・・・・ぅぁ・・・ぃ・・」

僕「ジ・・ん?Bくんなんか言った?」

B「ジ・・いえ?なんにも?」

僕「ジ・・そう?じゃ次5階ね」

B「ジ・・了解。」

そういうとBくが乗り込もうとしているエレベーターに視線をうつした。

僕「・・・ん?」

監視カメラで、Bくんがエレベーターのボタンを押しているのが確認できる。

エレベーターがBくんの階まで上がってきている。

僕「・・・なんだ?」

次の瞬間

無線越しに絶叫した

僕「Bくん!Bくん!」

完全に施錠された施設の中。

Bくんを迎えにきたエレベーターの中に

いるはずのない人影が

モニターに映し出された。

僕「にげろ!Bくん!!!」

しかしBくんは全く無線に気づきませんでした。

Bくんはまるで聞こえていないかのように、エレベーターの到着を待っています。

僕「やばいやばいやばい!」

「ソレ」は真っ黒な人型の影のように見えた。

「ソレ」はエレベーターの中で、扉に身体の正面をピッタリ貼り付け、Bくんの階で扉が開くのを待つように立っていた。

監視カメラはエレベーターの奥に設置されている為、後ろ姿しか見えない。

「ソレ」は完全に静止しているかと思えば、異常なスピードで壊れたように手足をウネウネ動かしたり、頭を左右に激しく振っていた。

まるで、ビデオの早送りと一時停止を交互に繰り返している様な、見ているだけで気が狂いそうな動き・・・

・・絶対に

・・・人間じゃない。

「夜中、エレベーターのカメラに変なものが映ったら、そのモニターを消せ」

同僚のBくんに迫る脅威に、Oさんの忠告を思い出す余裕などありませんでした。

エレベーターがBくんの居る階に到着し

扉が開いた瞬間

あまりの恐怖に僕は目を瞑ってしまいました。

続きます。

怖い話投稿:ホラーテラー 店長さん  

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