開かずの扉。
僕らはその扉をそう呼んでいた。
正確には引き戸だったから開かずの戸なんだろうけど、幼かった僕らはその間違いにも気付いていない。
あれは小学校2年の夏休みの事だ。
その扉は親友の家にあった。
親友の名前はN。
スポーツ少年団では野球部のピッチャーで、校内のマラソン大会はいつも一位の活発な奴だった。
小学校の時は運動神経のいい奴がモテたから、当時はすごくうらやましかったもんだ。
話を戻そう。
夏休みと言う事もあって、僕と友人YとでNの家にお泊りに来た。
昼間のうちはスーパーファミコンのドッヂ弾平をして盛り上がった。
特に持ち主のNはプレスショットの連発で、僕の珍念を事ごとくヒットした。
スーファミに飽きた頃、Nのお母さんが昼飯を作ってくれた。
そうめんだったが、みかんの缶詰やらチェリーやらが乗ってて、すげぇ豪華に見えた。
うちのは具なしだったからさ。
それで次は誰がそうめんを一番食べれるか大会に変わって、驚異的な食欲を見せたYに優勝が決まった。
昼飯を食べ終えて、台所でテレビを見ていると、Nのお母さんが夜勤に行くと言って、家を出た。
Nのお母さんはおっきな病院で看護士長をしてるからだ。
そして家を出る時に、Nのお母さんはいくつか僕らに注意事項を伝えた。
火の元に気をつける事。
外に遊びに行く時は鍵を閉めていく事。
鍵は牛乳箱に入れる事。
そしてあの扉から中には入らない事。
そう、あの扉は開かずの扉の事だ。
僕らは、「はーい。」と元気良く返事をしてお母さんを見送った。
家の中には子供3人だけとなり、好き放題遊び散らかした。
NとYは勢い余って、障子を破いてしまったり。
そのうち流れで隠れんぼをする事になった。
ジャンケンをしてYが鬼になり、Nと僕は逃げる役になった。
僕は隠れんぼと缶蹴りに命を掛けていた時期だったので、見つかる=死 だと自分に言い聞かせていた。
今思うと痛い子だったんだな。
僕は絶対に見つかりたくなかったので、簞笥の中や浴槽の中を考えたが、そこでは安心しきれず、Nのお母さんに注意されていた禁断の扉に手をかけた。
引き戸は思いの他、簡単に開いてくれた。
中に入ると真ん中に細い廊下が有り、左右に四畳半くらいの和室が並んでいた。
そして廊下の突き当たりには、もう一つドアがあり、ドアの形から馬鹿な僕でも洋室だろうと想像がつく。
僕は迷わずドアノブをひねり、中に入った。
部屋の様子を確認する前に、こちらに背を向けた人がいた。
その人はテレビを見ていたが、形がおかしかった。
背を向けていたが、両手と両足がないのだ。
僕はパニックになり、少しオシッコもちびってしまった。
その形のおかしな人は、僕が部屋に入ったのに気付いてか、ゆっくりと振り返ろうとした。
時間にすると一秒もなかったと思う。
僕は顔を見たら殺されてしまうと感じた。
そのまま一目散に逃げて、台所まで戻った。
ちょうどその時、Yに見つかってしまい捕まった。
YはNも簡単に見つけて、次は僕が鬼になる番だったが、懇願して早めのお風呂にしてもらった。
二人は何で急に?って顔してたが、あまりに僕がお願いするので渋々お風呂に入ってくれた。
とりあえず、オシッコをちびった事はばれなかったが、まだ形のおかしな人についての問題が残っている。
結局、僕は形のおかしな人の事を言い出せないまま、お泊り会を終えた。
多分、僕はアレが幽霊だと思ってたし、二人は信じないだろうから。
万が一話すと、確認に行こうと言い出すかもしれない。
もう一度、開かずの扉に入る勇気は持ち合わせてなかった。
Nにはかわいそうだが、幽霊屋敷によく住めるなーなんて思ってた。
でも僕が高校に入ってから間もない時に真相を知る事になった。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話