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短編2
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恩猫話

幼少より猫好きの私は、大学からの独り暮しで、遂に猫を飼うことが出来た。

ペット可のアパートは動物好きが集っており、隣にも元ラグビー部でイカついのに、犬に赤ちゃん言葉で話すサラリーマンが住んでいたりした。

猫にはコマと名付けた。

よくなついてくれたが、自分の名前を覚えてくれず、

「コマ」

「ニャア」

「メリー」

「ニャー」

「ケイト」

「ニャ~」

という具合。

返事をしてくれるだけで私は大喜びしていたが。

ある夏の日、アパートに下着泥棒が出た。

私の部屋ではなかったが、ベランダにいたコマが喚き、それを聞き咎めた人が泥棒を目撃して通報し、逮捕に至った。

コマのお手柄と誉められ、誇らしかった。子供を誉められるとこんな感じだろうか。

少し経ち、初秋の夜。

ベランダでコマが酷く鳴いた。

様子を見に行こうと立つと、

ばん。

ざきざき。

と妙な音が響き、コマの声が止んだ。

「コマ…?」

返事が無い。

代りに、少し開けていたガラス戸とカーテンが動き、痩せて目の血走った男の人が侵入して来た。

「あの猫のお陰で酷い目にあった」

私は驚きで半ば放心していた。

「仕事はクビ。結婚は絶望的だ」

男が迫る。

「少し気を晴らさせてくれよ」

丸腰の女が夜、狂気の男に迫られる恐怖は、男性には理解出来ないかもしれない。

歯がガチガチと鳴る。

へたりこんだ際にベランダが見え、毛波が戸の陰にチラと覗いた。

あれがコマだろう。

でもそうだとしたら、

何故、

何故、

あんなにも赤い?

男の手が、打ちのめされた私の肩に触れそうになった時、部屋のドアがノックされた。

「隣の者だけど。何かあった?」

私はドアに飛び付き、鍵を開けた。

「助けて!」

ラグビーさんは私と男を一見して事態を把握し、すぐに男を取り押えてくれた。

男はあの泥棒だと警察に聞いた。

コマは私に見せられる状態ではなく、ラグビーさんと大家さんが亡骸を収めてくれた。

埋葬を終えた後、ラグビーさんに聞いた。

「あの時何で声を掛けてくれたんです?」

「君の部屋から、コマちゃんの凄い喚き声が聞こえたから。

でもその時にはもう…アレだった訳だから、タイミング的に不可能だよな。空耳かな」

今でも、適当な名前を連呼して、あの小さな家族の気楽な返事を聞きたくなる。

案外あっさりと応えてくれそうな気がして。

あの時は助けてくれて有難うと、伝えられたら嬉しい。

まだ、新しい猫は飼っていない。

怖い話投稿:ホラーテラー わさ子さん  

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