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中編3
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忘れの階段

中学の時、13階段の噂が流行ったことがあった。

12段の筈のA棟階段が、24時に上ると13段になり、数えた人には死神が迎えに来るといったものだ。

昔教師に振られた女生徒が、錯乱してこの階段で包丁を振り回し、首を突いて自殺した事が所以らしい。

ある日級友のチカコが、噂を試してみようと誘って来た。

気は進まなかったが付き合うことにして、夜学校で待ち合わせ、校内に忍び込んだ。

問題の階段に着き、二人で生唾を飲みながら一段ずつ上がる。

1、2、3…

10

11

12

13…!

踊り場に足を乗せた瞬間、目眩のせいか転びそうになった。

「どうしよう、チカコ…」

「数え間違いかもしれないでしょう、もう一度試そう」

踊り場から2階に足を踏み出す。

1、2、3

13!また私はよろめく。

「チカコ!やっぱり」

「待って。変じゃない?」

「何が」

「何でまた踊り場なの…」

言われて気付いた。

私たちはこの時また踊り場に立っていた。

本来ある筈の2階の廊下も教室も無い。

混乱したまま私達は更に上った。

階段はまた13段、そしてまた踊り場!

取り乱しかけた時、チカコが呟いた。

「ねえ、何か聞こえない?」

耳をすますと、階下からコツコツと足音が響いている。

そっと下を覗くと、髪の長い女が階段を上って来るのが見えた。

顔は見えないが、右手の辺りが光っている。

「チカコ、あれって、包丁持ってる…!」

揃って悲鳴を上げ、私達は階段を駆け上がった。

いくら上っても踊り場は続き、13段目に着く度に何故か二人でたたらを踏んだ。

最早パニックに陥っていた。

足音は追って来るが、体力の限界は近い。

「ねえ」

「何、チカコ!」

「下りたらどうなるのかな」

「え?」

「アレをかわして下りたら1階に着くかな…!」

「分かんないよ、チカコ、そんなの、やめてよ」

「どの道もう上がれないよ、足が限界。あたし、やってみる」

チカコが駆け降り、踊り場で翻り、姿が見えなくなった。

一間置いて、彼女が私を呼んだ。

「今だよ、下りてきなよ」

あの足音も止んでいる。

私は急いで後を追った。

下りの踊り場で折り返す。

すると、

目の前に居たのは階段に立つ泣き顔のチカコと、その首に包丁をつきつけた女だった。

女の首は刃物で削られたようにえぐれている。

目はただの黒い穴だ。

チカコの足から酷く出血している。切られた様だ。

「ごめん…ごめん…」

泣き声でチカコが詫びてくる。

女の包丁が私へ向いた。逃げられる気がしない。

足をすくませながら、私は叫んだ。

「あなたの先生は、もうあなたの事なんて忘れてる。

誰もあなたなんて覚えてないの。

今のあなたは、無意味よ!」

女が怯んだ気がした。

私はチカコの手を取り下りようとした。

女が振り返り、チカコに覆い被さってくる!

しかしチカコは足の傷で歩ける状態ではなかった。

それを悟ると彼女は私の手を振り払った。

勢いのまま私は階段から落ち、1階の廊下に倒れた。

階段を見上げると、そこには誰もいなかった。

翌夜、私は24時に再び同じ階段を訪れた。

一段ずつ上る。

疑問があった。

この中学はミッション系ではない。

ならばキリスト教に由来する13という数も特別不吉な数ではない筈だ。

恐らく肝要なのは、13段という数字ではなく、1段増えるという処だ。

何故1段増えるのか。

昨夜13段目を踏む度によろけた理由は、その時だけ妙に足場が柔らかかったからの様な気がする。

あの13段目は何だったのか。

私達は何を踏んだのか。

見当はつく。

それを確かめたい。

そして、チカコを…

上り終えた。

今夜の階段は、

やはり、

14段あった。

足元を振り返って見下ろす。

「…!」

13段目の位置には首の千切れかけたあの女が横たわってこっちを見ていた。

私達はこれを踏んでいたのだ。

それを合図に、あの迷宮と追っ手が現れるのだろうか。

14段目の位置には真っ青なチカコが横たわっていた。

首に深々と包丁が刺さっている。

起こそうとしたら、チカコがかぶりを振り、そのせいで首が完全に千切れ、踊り場に転がった。

私の足元で首は止まり、チカコの唇が

「ごめんね、忘れてしまってね」

と動いた。

目はただの黒い穴だった。

怖い話投稿:ホラーテラー さわさん  

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