短編2
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大変だ

「大変だ!大変だ!」

大通りの交差点の一角で、一人の男が叫んでいた。

年齢は30代後半といったところか。髪はボサボサ。

身なりは汚らしく、伸び放題の無精ひげが男の不潔さを物語る。

「大変だ!大変だ!」

それは絶叫と言ってもいい程だった。

一点を凝視し、目は見開いたまま、あらん限りの大声を出していた。

近くを通りがかる人はその余りの異常さを怖がり、煙たがり、あるいはほくそ笑んだ。

そして次第に時が経つと、幾人かが男を遠巻きに囲み、その異常さについて陰口をたたき合うようになった。

「何ですかね、あの人は」

「気狂いでしょう。ヤク中かもしれませんね」

「精神病院から抜け出してきたのでは」

段々とその数は増えていき、男の周りには何十人かの人垣ができた。

男が立っていた場所は交通の障害にはならなかったが、こう人が増えてくると、それを窓から覗く車もあった。

次第に交通は渋滞となり、それを察知した警官が駆けつけた。

「どうしたんですか」

警官は人垣の一人に聞いた。

「あの人ですよ。あの人がさっきから叫んでいるんです」

警官が人垣を掻き分けると、その中心では男が依然として叫んでいた。

「大変だ!大変だ!」

警官は男の異様な様子に驚きつつも、男に近づき、話しかけた。

「どうしたんです。何が大変なんですか」

すると、男はピタリと叫ぶのを止め、警官の方に振り向いた。

そして警官の耳にそっと顔を近づけ、何やらボソボソと言葉を発した。

その時、奇妙なことが起きて、観衆は一様に驚いた。

警官が突如として血相を変え、男と同じように叫び始めたのだ。

「大変だ!大変だ!」

以前から叫び続けている男と、その隣で同じように絶叫する警官。

二人の男達が血相を変えて叫んでいる。

周りで見ていた人々は、一体何が起きたのかを理解できず、お互いに顔を見合わせた。

そしてその内、一人の青年が絶叫を続ける警官に尋ねた。

「一体どうしたんですか」

警官は先ほど男にされたのと同じように、青年の耳元でそっと何やら囁いた。

「大変だ!大変だ!」

これで叫ぶ男は三人となった。

すると彼らは申し合わせたかのように、突如としてバラバラの方向に走り出した。

依然として叫び続けながら。

「大変だ!大変だ!」

彼らがそれぞれ向かった先では、人々が彼らを見かけて、こう尋ねた。

「どうかしましたか」

怖い話投稿:ホラーテラー オオカミ少年さん  

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