その日、その町ではとある式典が開かれておりものすごい数の人が町にあふれていた。
その中を一人の老人が、楽しそうに歩いている。
ふと、老人は女の子の泣き声を耳にした。
老人はあたりをきょろきょろと見回す。
そして、一人の女の子を見つけた。
老人はにやりと笑った。
「どうしたんだい、おじょうちゃん。こんなところで?」
老人は警戒心を抱かせないよう、笑顔で女の子に近づき声をかけた。
「ママとパパからはぐれちゃったの」
「そうかい、そうかい、じゃぁ、おじいちゃんが一緒に探してあげよう」
「ホント!?」
女の子はパッと笑顔になった。
「実はおじいちゃんは、お嬢ちゃんのパパとママの知り合いなんだ」
「??」
老人は女の子を安心させようとして言った言葉だったが
女の子には良く意味が分かっていないような表情をした。
(それとも普段から両親にこのようなことを言うのは
誘拐犯だと教え込まれているのだろうか?)
老人は少しでも女の子に不審を持たれたくなかったので
「お譲ちゃんのパパとママなら、さっき向こうの方で見たから連れていってあげるよ」
と言葉を続け女の子の目の前に手を出した。
女の子は少し考えるような顔をした後に
「うん!!」
と元気よく返事をするとその手を握った。
そうして、しばらく二人は歩いていると
前方から老人の知り合いと思われる、これまた老人が歩いてきた。
「やぁ、玄さん。どうしたんだい?その女の子は?」
「おお、哲さんか。まぁ、ちょっと迷子らしいんでね」
哲さんと言われた老人はにやりと嫌な感じの笑顔になった。
「あ、なるほど。この子が例の子かい。ふぇっふぇっふぇっふぇ。」
その哲さんの笑い方があまりに気持ち悪かったのか、女の子は老人の裏に隠れてしまった。
「なんだい、変な笑い方すんなよ。怖がってるじゃねぇか」
「なんだい、悪かったな。じゃぁもう行くよ。また後でな玄さん
しかし…・・・この子がねぇ…。ふぇっふぇっふぇっふぇ。」
笑いながら、その老人は去っていった。
「あのおじいちゃんはだれ?」
「おじいちゃんの友達だよ。」
「ふーん、わたしなんだかあのおじいちゃん怖い」
「そうかい・・・・・・。おじいちゃんも・・・怖いかい?」
「んーん。おじいちゃんは怖くないよ」
女の子のその言葉を聴くと老人はにやりと笑いまた歩き始めた。
しばらくすると、今度は女の子が何かに気づいたように
「あ!パパとママだ!!」
女の子が駆け出そうとするのを老人は必死に止めた。
「違うよ、パパとママはもっと向こうに居たんだ。
こんなところにはいないよ。」
「えー、だってあれ絶対パパとママだよ!!」
老人は、足を止めて辺りを見回した。
人ごみのせいでそれらしい姿は見えない。
ましてや、背の低い女の子には見えないはずだ。
老人は女の子が自分のことを不審者と疑いを持ち始めてるのではないかと焦った。
(ここでこの子に逃げられることは避けたい)
「どこにも居ないじゃないか、ほら行こう」
女の子は無理やり手を解こうとした。
老人は慌てて、女の子の手を強く握る。
「痛い!!痛いよ!!おじいちゃん!!
それにおじいちゃんの手なんだか冷たい!!」
「ああ、ごめんよ。でもお嬢ちゃんが勝手に動いて
また迷子になっちゃうといけないから」
「もう迷子にならないよ!!だって、あそこに居るのは絶対パパとママだもん!!」
「そんなことないよ。パパとママはもっと向こうに居たんだから。」
「じゃぁ、ちょっと見てみてよ!!」
あまりにしつこく言うので、老人は再び女の子の指差す方を眺めた。
「あ、あれは・・・・・・」
その瞬間老人は手を緩めた。
女の子はその瞬間手を引き抜くと両親の方に去っていく。
老人は呟いた。
「そうか、子供が居なくなって探し回らない親なんか居ないか・・・」
「パパ!!ママ!!」
「どこ行ってたの!?探したじゃない!!」
「ごめんなさい」
「ホントに人騒がせだな。大丈夫か?一人で怖くなかったか?」
「うん、おじいちゃんが一緒に探してくれたの!!」
「おじいちゃん??」
両親は顔を見合わせた。
「ダメじゃない。いつもあれほど、知らない人について行っちゃいけないって言ってるでしょ?」
「知らない人じゃないもん!!」
「誰だろう?隣の家のおじいさんも来てたっけか?」
「さぁ、私は聞いてないけど・・・」
「となりの家のおじいちゃんじゃないよ!!
うちのおじいちゃんだよ!!
おぶつだんに置いてある写真と同じ顔してたもん!!」
再び、両親は顔を見合わせた。
「しかし、よく見つけたよなぁ。この人ごみで」
「パパとママの声が聞こえたから
でも、おじいちゃんはなかなか気づかなかったみたい」
「あなた・・・お義父さんってたしか……」
「・・・ああ、確かにちょっと耳が悪かったな……
それにちょっと、ぬけてるところがあったなぁ」
『なぁ、玄さん』
『なんだい哲さんかい』
『本当にいいのかい?』
『何がだい?』
『本当はもっとここに居たいんじゃないのかい?
さっきだって本当はもっと孫と一緒に居たかったんじゃないのかい?』
『ああ、それはそうだよ。哲さん』
『だったらもうちょっとここに残ってもいいんだぜ?』
『いや、いいんだ
10年て、みんなで決めたことじゃないか。それに・・・・・・』
『それになんだい?』
『この町を見てみろよ。
あれから10年、もうどこにも瓦礫なんて無いし。
停電する事だって無い。
それに、汚染された水が海に垂れ流されることもない。
もう、完全に復興したんだ。
彼らは俺達が思ってるより、強い。
俺達が見守る必要なんてもう無いさ。
いや・・・・・・ひょっとしたら最初からそんな必要なんて無かったのかもしれない。』
『そうだな・・・・・・。
それにしても・・・玄さんが孫と一緒に手をつないで歩く姿、面白かったなぁ』
『うるせぇやい』
広場ではすでに式典が始まっており
10年前の犠牲者に対して、集まった人たちが黙祷を捧げていた。
子供には少し退屈だったのだろうか……女の子は目を開けてしまった。
「あ!!パパ、ママ見て!!
あそこにおじいちゃん達がいるよ!!
お空に昇っていくよ!!
いっぱいいっぱい、人があがっていく!!
おじいちゃぁーんまたねー!!」
怖い話投稿:ホラーテラー 園長さん
作者怖話