続きです。
その後、適当な理由をつけてAさんと部屋をかわってもらいました。
Aさんはすんなり部屋をかわってくれました。
荷物の移動もAさんがしてくれ、私達は気持ち悪い部屋から逃れることができたのです。
「大丈夫?突然泣き出すからビックリしたよ。」
「すみません。」
「何か見えたの?」
「…霊的なものですか?」
「霊感とかあるの!?」
「いえ、ないですし、何も見えませんでした。でも、やっぱりこの部屋の方が落ち着きますね。」
「そう?アタシはこの部屋のほうがかなり気持ち悪いけど…。」
そう言ったM子さんの顔がひきつっていました。
今思えば、確かにその部屋は気持ち悪かった…というより明らかに女性の部屋だったであろう形跡が残っていました。
大きな鏡台や綺麗な装飾が施された照明。
でも、私はその部屋にとても安心感を覚えました。
そして夜。
ふと目が覚めました。深夜の2時くらいだったと思います。どこからか「うぅ…」といううめき声が聞こえたのです。
ぱっと目を開け、声のする方を見ると、あのお手伝いさんがM子さんの首を絞めていたのです。M子さんの上に馬乗りになり、全体重をM子さんの首にかけているのです。
うめき声はM子さんのものでした。私は「ひっ!」と声をあげてしまいました。お手伝いさんはゆっくりと首だけをひねるようにして、こちらに顔を向けました。
「なっ…なにするんですか!?」
私は飛び起き、お手伝いさんを突き飛ばしました。
「M子さん!!M子さん!!」
私は泣きながらM子さんを必死に起こそうとしていました。
「なんでこんなことするんですか!?」
私はお手伝いさんに向かって色々なことを叫んだと思います。
でも、お手伝いさんは私には見向きもせず、ベッドから少し離れた所に立ち、首をかしげたままM子さんのことをじっと見つめています。
…なにこの人…
その普通じゃない姿を見て、背筋にツッと冷たいものが伝いました。
とにかくM子さんを起こさなきゃ。そう思い、M子さんの肩を揺らし、必死で呼び掛けました。
「M子さん!M子さん!!起きて下さい!!」
私はゆさゆさとM子さんの肩を揺らしました。
「M子さん!!」
その時です。
「何してる!?」と怒鳴り声が聞こえ、私は突き飛ばされました。
「なんてことするんだ!?」
Aさんでした。
私はM子さんを揺り起こしていただけです。酷いことをしようとしていたのはあのお手伝いさんです。
「私は何も!」
するとM子さんが震えながら、
「T子(私)に突然首絞められて…」
そんなバカな。
首を絞めていたのはあの…
そこにはもうお手伝いさんの姿はありませんでした。
結局、私が寝ぼけていたということで話はまとまりました。
翌朝。
朝食の準備が出来たと、M子さんに起こされました。
私はあんなことがあったのに、熟睡してしまったようです。あれは夢だったのか。ふとそんな事を思ったのですが、M子さんの首にはくっきりと指のようなあとが残っていました。
「M子さん…あの…」
「いいのいいの!もぅ寝ぼけすぎでしょ〜(笑)」
そう言って笑ってくれましたが、なんとなくギクシャクしていました。
ダイニングに行くと、すでにAさんが席についていました。なんとなく気まずい雰囲気でしたが、元気におはようございますと挨拶し、席に着きました。
「昨日はすみませんでした。でも、なんで私達の部屋に来たんですか?」
私は笑い話にしようとしたのですが、失敗してしまいました。Aさんいわく、夢を見たのだと。私が、誰かを殺す夢です。その夢で目が覚め、いてもたってもいられなくなり、私達の部屋にきたのだそうです。
気まずい雰囲気が一層濃くなり、そのままキッチンに逃げ出してしまいました。
キッチンでは、お手伝いさん朝食の準備をしていました。
「あの…、すみません。昨日の夜、私達の部屋に来ませんでしたか?」
私は思いきって聞いてみました。しかし、お手伝いさんは私の顔を見てニッコリ微笑むだけで何も答えてくれませんでした。
結局、その件はうやむやになり、帰宅時間になりました。
帰り際、社長が集合写真を撮ろうと言い出しました。
「ちょうど使い捨てカメラを持っていてね。記念にね」
私が一番下っぱなので、カメラマンに志願し、社長が持っていた使い捨てカメラで集合写真を撮ることになりました。
社長の使い捨てカメラの残り枚数1枚。
ペンションの前に集合し、みんな私の方を向いています。
あのお手伝いさんもちゃっかり並んでいます。
…撮ってくれてもいいじゃん…
でもまぁいいか、と思いながら掛け声を掛けました。
「じゃあ、いきますよ〜!!はい、チーズ!!」
社員旅行から約1年後、会社倒産の報告を受けました。
私は幸いにも、比較的早く就職先を見つけることができました。しかし、あれから色々なことがありました。
すみません。
次で最後になります。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話