続き。
その時背中に違和感を感じた。
何か柔らかいもので背中を押されているような感じだ。
完全にビビり上がってた俺は、声も出せなくなって、押されるまま歩いた。
そのままどこかの家の中に入ったようだった。
背後の何かが去って、ほっとした俺は手探りで周りを確かめようとした。
手が何かに触れた。壁とか棚って感じじゃない。
その時ようやく携帯で明かりをつけようと気付いた(この時は今ほど携帯が生活に密着していなかった)。
明かりをつけるとそこには、
無数の人形が積み上げてあった。「うわああああ!」
不気味さに悲鳴を上げた。
フランス人形や日本人形みたいな小さく精緻なものじゃない。
豪勢なカカシという感じの、人間サイズの物が乱雑に積まれていて、
しかもそのどれもに顔がない。
…
いや、ある!
よく見ると全てに顔がある!
さっきまであったか!?
俺を見ている!
動いている、近付いてくる!?
俺は恐怖で混乱し、うまく呼吸が出来なくなった。
息が吸えない。過呼吸ってやつか。
苦しくなりうずくまって視界が限られると、人形たちに背後から首を絞められている気さえする。
(いや、これ、下手すりゃ死ぬんじゃねえの…!?)
あの時の恐怖感は今でも忘れられない。
濁った意識の中で、犬の声が間近で響いた。
「ドンか!」
それをきっかけに正気を取り戻した俺は表まで来てくれていたドンと合流し、洞穴を見つけて、佐伯さんの家まで逃げ戻った。
あれは俺が勝手におかしくなっただけなのか、それ以外の何かによるものなのか、
今では解らない。
あの村と人形についてはスーパーのパートさんたちに由来が聞けたが、ちょっと難な話なので割愛する。
あれからドンには頭が上がらない。
俺なんかよりずっと男らしいヤツだった。
最後に少し余談を。
佐伯さんの奥さんによると、佐伯さんは一つ伝言を残していた。
死後にあのガキ(俺)が訪ねてきたら、感傷に浸って家の周りをほっつき歩きたがるだろう。
暗くなると危ないから、ドンをボディーガードに着けてやれ、と。
佐伯さんに、最後まで、お世話になりました。
怖い話投稿:ホラーテラー 触さん
作者怖話