長いです。
中学の時に、Aという友人がいた。
そいつは小学時代から探検とかが好きで、よく秘密基地とかも一緒に作った。
Aの最も好きなことは廃墟探検だった。
僕の住んでた町は、いわゆる「昔は栄えてた」というやつで、
近所には新旧関わらず人の出入りのない建物が、
ゴロゴロあった。
Aはそういう近所の廃墟のほとんどに行ったことがあって、
どこから簡単に入れてとか、何階にアレがあってとか、とにかく詳しかった。
ある日僕は、Aに廃墟に行かないかと誘われた。
それはいつもの町の方ではなく、学校の裏山にあった。
山を少し登った所にポツンとある、小さな一軒家がそれだった。
見た目はただの一軒家だった。
壁もそれほど汚れておらず白いままで、全体的にこざっぱりとした家だったけど、
窓が割れていることや、玄関の戸が半分開いていることが、人の住んでいないことを表していた。
何よりも、家の裏にある竹林の葉が、
屋根全体を覆っていて、
何ともいえない雰囲気を醸し出していた。
Aは全く躊躇せず玄関の戸を開け、中に入った。
自分も慌てて続けて入り、驚いた。
綺麗なのだ。
Aと今まで何度か行った廃墟は、どれもゴミは散らかっているわ、
落書きはあるわで、ひどい有様だった。
この家はそうではなかった。
埃っぽいがゴミも落書きもなく、住民の生活の跡がほぼ完璧に残っていた。
綺麗に並べられた靴や、靴入れの上に置かれた子供が作ったであろう、
木彫りの人形が静謐に佇み、まるで住民が突然いなくなり、
そのまま時間が止まってしまったかのような印象を受けた。
「おい、U!見てみろよ!」
玄関の先にあるリビングに先に向かっていたAが叫んだ。
リビングには異様な光景が広がっていた。
角机の上には、食事(だったもの)がそのまま残っていた。
茶碗は全部で4個あり、1個は子供用の小さなものだった。
それ以外にも魚を乗せていたであろう平皿や、味噌汁の椀などが、
机の上に並んだままだった。
しかしそれよりも異様だったのは、その上に撒かれていた「砂」だった。
いや机の上だけじゃない。
それはリビングじゅうに満遍なく撒かれ、
地が出ていない所は無いくらいだった。
「砂」はすごく薄い茶色をしていて、すごくサラサラしていた。
例えるなら、泥団子を作る時に使うさら粉。
あれの色をもっと薄くしたようなものが、リビング全体に積もっていた。
床の上に紙が落ちていた。
拾って見ると、クレヨンで絵が描いてあった。
子供が、父親らしき大人と電車に乗っている。
ずっと見ていると、妙なことに気づいた。
色のついた部分が、でこぼこしている。
「…これ、砂?」
「上に砂がかかったんだろ」
「でも、砂の上から描いたように見える・・・」
「まさか。こんな砂まみれの所で子供が絵なんか描くかよ?」
砂はなおも部屋全体を覆っていた。
リビングから繋がる書斎。
大きな箪笥と仏壇の置いてある和室。
どれも余すところ無く砂に支配されていた。
「なんか、砂に飲み込まれたみたいだよね・・・?」
一番奥の風呂場に辿り着いた時、
僕達の不安と恐怖は確実なものになった。
浴槽は砂で満たされていた。
コテでならしたように、縁に沿って平坦になっており、
その四方には、砂よりも白い蝋燭が、1本ずつ立っていた。
「・・・U、帰ろう」
この異常な空間と空気から、一刻も早く逃れたかった。
でも僕は、玄関まで戻る最中に見つけてしまった。
食器の残された机の上に、子供の小さな手形が残っていることに。
それはそこにだけ異様にはっきりと残っており、
まるで本当に砂の中で生活した跡のようだった。
でも親の足跡などは全く見つからなかった。
Aも僕も、後ろを見ずに玄関を出て、
真っ直ぐ山を降りた。
ずっと無言だった。
家に帰って何日かした後、あの砂について調べてみた。
流石に家の中に砂を撒く、なんて話は見つからなかったけど、
玄関に置く盛り塩、という話が目に止まった。
盛り塩はもともと塩ではなく、白い砂を用いていたのだそうだ。
魔除けとして、鬼門である玄関と、裏鬼門である裏口に、それぞれ盛るらしい。
あの家は、玄関には盛らずに、家の一番奥(裏口は無かった)に、
異様なほど砂が盛ってあった。
そんなことしたら、魔は玄関から入ってきて、
裏から出ずに家の中でどんどん増えていくのでは?
しかも本来の白砂でも塩でもなく、薄茶色い砂では、
余計に魔は除けられず、
一ヶ所に溜まるのでは?
僕はあの家の雰囲気を思い出し、改めてゾッとした。
あれ以来Aは廃墟探検をやめてしまったらしい。
僕もAとは疎遠になって、そのまま違う高校に行ってしまった。
裏山はまだある。恐らくあの家もある。
でももう行きたいとは思わない。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話