M下君は、会社の二ヶ月先輩で3コ下だ。お互いに敬語で話し、釣りとお酒が大好き。
自分からはあまり言わないけど、みえるらしい。
いつものように、仕事終わりにM下君の部屋でお酒を飲んでいると、M下君が発情した。
「Y内さん、僕、彼女欲しいっす!」と急に言う。
そんなの僕だって欲しい。
しかし、僕たちの勤める会社は製造業…。事務のおばさんでさえチヤホヤされるくらい。
徹底的に出会いがないのだ。(他にも原因は多々あるのは重々承知しておりますが、出会いがないせいにさせて下さい…)
「合コンとやらを開催してください!」いつになく本気の目だ。
「いやいや、僕もそんなツテないですよ。女友達なんて1人しかいないですし…。」
「いるじゃないですか!その人に頼んで下さいよー。」甘えてきた…。
僕の唯一の女友達であるK藤は、サバサバしてて非常にいいヤツなのだか、何せ太い。
類は友を呼ぶというから、K藤に頼んでもあまり期待はできない。そう伝えると、
「会社の人とかなら大丈夫じゃないっすか?いくらなんでもデブばっかり集まんないですって!」
必死だ…。
その日は遅かったので、後日連絡して頼んだところ、会社の同期と後輩を連れてくると言う。
M下君に報告したところ、作戦会議と称して飲むことになった。
最初の議題は、あと1人は誰を連れて行くかだ。
向こうは3人でくる。こちらもあと1人必要だ。あまり男前を連れて行っても持ってかれるし、下ネタばっかり言うヤツを連れて行ったらブチ壊される…。
ここは、人畜無害でいつもニコニコしてるだけの後輩のH君で決定する。
次の議題は、2人の目標がかぶった場合だ。
お互いの好みのタイプを確認する。M下君は派手なギャルっぽい娘がいいらしい。僕は控えめな感じの娘がタイプだ。これでメガネをかけてれば完璧だ!しかも一見、地味なのにスタイルがめちゃめちゃ良くて、脱いだらスゴいみたいなギャップがあれば、もう……。
お互いのタイプを確認し、目標がかぶった場合は、少しでもタイプに近い方に譲ることにした。
例えば、メガネなら僕。茶髪ならM下君って感じで無事にまとまった。
いよいよ当日、M駅で待ち合わせ。
K藤から電話がかかる。
「あー、Y内ぃ?ゴメン、1人増えたんだけどいい?」
「こっちは構わないけど…。」むしろ、成功(性交)確率も高くなるし歓迎だ。
「あっ、来た!ゴメン、本当にゴメンね。」と、あわてて電話を切られる。
少し、嫌な予感がする。
約束よりも少し遅れて、K藤達がやってきた。
こんばんはーと挨拶しながらも素早くチェックする。
4人の中の1人に目が止まる。やけにケバいのがいる…。真っ白に塗った顔に、真っ赤な口紅。やたら細い目。どぎついピンクのワンピース。
僕達の視線を察して、ひきつった笑顔を浮かべるK藤。
とりあえず、お店に移動する事に。女の子達から離れたところでK藤がこっそり声をかけてくる。
「ホントにゴメンねぇ。更衣室で今夜の話してたら聞かれちゃってさぁ、私も行こうかなぁって…。先輩だし断れなくて…」
「まぁ、来ちゃったもんはしょうがないけど、ちょっと変な人?」
「うん…。でね、途中で怒って帰ったりして欲しくないんだ。」
「まぁ、一応M下君にも言っとくよ」
予約しておいた居酒屋へ到着し、男女で向き合って座る。僕から簡単に男性陣を紹介し、K藤が女性陣を紹介しようとすると、真ん中に座ったケバ女が立ち上がり、
「私の右がA(名前を忘れてしまったのでAとさせていただきます。以下も同じです。)、左がB。向こうにいるのが、K藤。まだまだ、みんな仕事できないけどね」
女性3人、苦笑い。
「私はZ。一番先輩だけど、年齢はK藤とAと一つしか違わないわ。よろしくね」
確実にもっと上だろ!と目で僕に訴えるM下君の気持ちが手に取るようにわかった。以心伝心だ。
その後は、こっちが何かを他の女の子に聞くと、全ての質問に食いつき、しゃべらせないクセにAやBに、引っ込み思案なんだからぁ。と言う始末。
そんな状況下でも、M下君は正面の一番若いBをロックオンした様子で、頑張って話かけてる。
が、BはZの視線が気になるようで、お座なりな返事しかしない。
この状況を打破できるほどの、合コンを仕切る能力などあるはずもなく、心をポッキリ折られ酒に逃げる僕。
Zが何か言うたびに、恨みがましく見る僕の視線をかわしながら、ひたすら食べ続けるK藤。
何が楽しいのか、ニコニコしてるH。
苦笑い丸出しのA。
健気にも、頑張ってBに話しかけ続けるM下君。
ついに、そのM下君のパスをダイレクトでZに通し始めたB。
そのパスを受け、延々と自分のタイプと恋愛観を語り始めたZ。
相づちをうち始めたAとB。
舌打ちをし始めたM下君。
AとBからの追い風を受け、ぐんぐんと加速するZ。
酒が進み、どんどん荒んでいく僕の心…。
とうとう、心を折られたM下君。
テーブルの上の料理も僕らのやる気も大体なくなり、じゃあ、そろそろ…という雰囲気になってきた頃、
「じゃあ、ごちそうさまー」とさっさと席を立つZ。
「ごめん!私達多めに出すから…」
キレそうになるが、落ち着いて考えれば、女の子達も被害者なのだ…。
「いや、いいよいいよ」何とか感情を抑えて、男3人で割り勘にする。
「申し訳ないし、このあと6人でカラオケでも行きませんか?今度は私達が奢りますから…。いいよね?K藤、B」そう言ってくれたAが天使に見えた。
会計を済ませて、外へ出るとZが上機嫌で鼻歌を歌っている…。
ま、まさか…!?
K藤を見ると、深々と礼をしている。Aは目を合わさない。
先に外に出ていたM下君を見ると、大きく首を振った。
もう、いいや…。M下君もHも置いてっちゃえ!
何かを察したM下君が近寄って来て、
「僕、まだBさんの連絡先聞いてないっす。だから、一緒に行って下さい!」
なんと、M下君はまだ立ち上がろうとしている…。不死鳥だ…。
僕は彼のために最後まで戦うことにした。
Zの飼い犬のかわいらしさ、そして、そんな犬をかわいいと愛する私がかわいいと言いたげな話を聞き流しつつ10分ほど歩くと、カラオケボックスにたどり着いた。
すると、部屋へ入るなり、Zが言い出した。
「あっ、私ダメだ…。いるじゃん、ここ。」
僕は、こういう自称霊感人間が好きではない。空気が読めない、もしくは読まないヤツは特に嫌いだ。
えー、ホントですか?やだ、こわーいと言い始めた女の子達。
「うん、こっちの男の人は顔が半分しかなくって、向こうの女の人はすっごい髪が長いよ」
明らかに、話を盛り始めたZ。
さらに「えーっ!」となる女の子達。
しかし、ここはチャンスだ!
「お前だけ帰れ!今すぐ徒歩で帰れ!で、帰りに事故にあえ!仲間入りしろっ!」という言葉を飲み込み、「あっ、じゃあ、Zさん帰った方がいいんじゃないですか?」と冷たく言い放つ僕。
「そうしたいけど、私がいないと盛り上がらなさそうだし、部屋変えてもらおう」
お前がいるから、盛り上がらないんだよっ!とみんなが視線で会話する。素晴らしいアイコンタクトだ。
それからは、歌いなよーと言いながらも、連続で入力し1人で歌い続けるZ。
変な振りまでついてる。
しかも、M下君がBに話しかけてると、歌いながらも目ざとく監視してるようで、
「Bも一緒に歌お」と邪魔するのだ。どうも、自分以外の人間がチヤホヤされるのが許せないらしい…。
もうテーブルの上は、僕とM下君が飲み続けたビールの缶でいっぱいだ。今日はなかなか酔えない。
「あー、歌い疲れた。ゴメン、ちょっとトイレ行ってくる」と言って、Zが部屋から出て行った。
チャンスだ!M下君!
しかし、M下君は無言で出て行ってしまった。
「ねぇねぇ、彼、大丈夫かな?」心配そうにK藤が言う。
「たぶん、大丈夫だと思うけど…。まぁ、殴りかかってたとしても、おもしろいしいいんじゃない?」といい加減に返事しておく。
それから数分後、自動販売機で買った飲み物を持って戻ってきたM下君。
その後に戻ってきたZのテンションは楽しいくらいに下がってる。
息を止めて、Zの様子をうかがう女の子達。
わー、確実に何かあったぞ、こりゃ。と、今日一番楽しい僕。
「ゴメン、私帰る…」
Zがそう言い残して、またしてもお金を払わずに帰った後、
「すいません、僕もそろそろ…」とHまで帰ってしまった。
Zが嫌な空気にして帰った後で盛り上がれるハズもなく、解散することにした。
M下君は、K藤によると彼氏がいないはずのBに「すいません、私、彼氏いるんです」との理由で連絡先を教えてもらえなかったようで、帰り道は無口だった。
M下君彼女大作戦は大失敗に終わった。
後日、M下君にZに何かしたのか聞いてみると、
「いや、ただ忠告しただけですよ。」さらりと言うM下君。
「何をですか?」
「その肩で泣いてる赤ちゃん供養してあげた方がいいですよって」
そのまた後日、K藤からの電話で、
「ちょっとちょっとー、H君とZさん付き合い始めたらしいよー!カラオケの後、追いかけてきたH君とそのままホテル行っちゃったって、自慢気に言われたんだけどさぁ」
「マジでっ!?」Hの広すぎる守備範囲と、M下君に水子のことを忠告され、へこんでたはずのZの切り替えの早さに衝撃を受ける僕。
「別にH君に興味があったわけじゃないけど、私達3人よりアイツを選んだのかぁって、みんなしてめっちゃへこんでるんだけどさぁ」
僕とM下君も、なんとも言い知れぬ敗北感を感じ、その夜は荒れた。
怖い話投稿:ホラーテラー Y内さん
作者怖話