大学も新学期が始まり、
構内は一時的に、
フレッシュな新入生と盛んなサークル勧誘の坩堝と化す。
でも僕は、その光景を見ても微笑ましい気持ちにはなれない。
2年前のことを思い出してしまうからだ。
2年前は僕も、これからの学生生活に期待する新入生だった。
事務で入学手続きを終えた僕は、
そのまま構内を散策することにした。
もう日は傾き始めており、
茜色に染まる構内は、
とても感動的だった。
最後に正門からメインロードを歩いた。
早くもサークル勧誘用の立看板が乱立し、
肉体労働担当と思しき人々が忙しそうにその近くで、
紐を縛ったり板に釘を打ち付けていたりしていた。
メインロードが終わり、
看板も途切れがちになってきた頃、
不意に声をかけられた。
個々の学部棟に繋がる横道に、男性が1人立っていた。
道の端には特に大きい看板用の板が、
沢山積み上げられており、
男性はそのうちの数枚を起こそうとしているようだった。
「縦に立たせたいんですけど、
1人じゃちょっと厳しそうなんです。
悪いんですけど片側を持って、
手伝ってもらえませんか?」
眼鏡をかけた細めな人で、
確かに1人ではきつそうだった。
僕は了解して、男性の向かい側にかがみ、板の下に手を入れた。
「いいですか?持ち上げますよ。せーの!」
僕の合図で、4枚の板を一気に持ち上げ、縦へ方向を変えた。
左手で板の下を、右手で側面を抱える格好になり、
縦に長く厚い板で、
一瞬目の前が塞がれた。
板を地面に立てた時、
目の前に来た側面に、
何か白いものが貼りつけられていることに気づいたけど、
もう遅かった。
自分のくしゃみで目が覚めた。
暗い空が見えた。
わけもわからず起き上がると、
自分がさっき板を起こした場所が見えた。
物置きになっている道の端の、
向かい側にあるベンチに、
寝転がっていた。
4枚の板は少しずれていたけど、
変わらずその場所にあった。
その側面、抱えるとちょうど自分の顔の位置に来る部分に、
何かを貼っていたテープの跡が僅かに見えた。
起きてからずっと頭がガンガンしていた。
そして、ポケットの中に何も入ってないことに気づいた。
「ガーゼに染み込ませた麻酔をかがされて、
財布と鍵を奪われた」
もう閉まっていたので、翌日事務に訴えたけど、
麻酔の証拠が無いため、
事務は本当に事務的なことしかしてくれなかった。
財布には、新生活を始めるにあたって張り切っておろした、
4万円が入っていた。
入居したアパートの鍵も、
その日に大家さんにもらったものだった。
あれ以来僕は、
サークルの勧誘準備を見る度に、
苦々しい気分になる。
しかし僕は毎年この時期になると、
髪を茶色に染め、伊達眼鏡をかけて、
放課後の構内を巡回して、
あいつを探している。
あいつは常習犯だ。
そして絶対にまたやる。
去年は見つけられなかったけど、
それは恐らく1年前に僕をはめたばかりだったからだ。
今年は去年よりも、
あいつに再会する可能性が高い。
僕は、その時あいつに、
何をしてやるかも、
もう決めている。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話