ある日の午前。
15年来の親友3人で久々に集まった。
メガネ、マッチョ、そしてこの僕だ。
みんな30歳をとうに過ぎているが、集まればアニメやゲームの話で盛り上がる、幼稚な趣味を持った大人たちだ。
その流れで、久々にサバイバルゲームをしようということになった。
ようは、エアガンを使った戦争ごっこだ。
防護用のメガネやマスクなどは、メガネがちょうど人数分持っていた。
エアガンは僕が持っている。
数年前、ラインナップした全種類手に入れてやろうと大人買いしたものだ。
結局、全て集める前にマイブームは去ったが、その数、全部で9丁。
といっても全てエアコッキング式のしょぼいやつだけど。
それでも、久々に握り締めるエアガンに心は躍った。
3人とも迷彩模様の普段着に身を包み、メインウェポン1丁、サブウェポン2丁を装備すると、シュワちゃんやスタローンにでもなった気分だ。
いざ、戦場へ!と行きたいところだったが、なにせみんな30過ぎ。
メガネと僕の2人は所帯持ちだ。
誰かに見つかれば「いい大人がサバゲーなんて」と冷ややかな視線を送られるに違いなく、とりあえず車に乗り込むと、戦場を探しに人気のない農村地帯の方へ車を走らせた。
マッチョは農家の息子で、片田舎に住んでいるので、田舎道には詳しい。
途中、コンビニで買った昼食のパンをかじりながら、マッチョの案内のもと、人気のない山道に向かうと、仮想ジャングルにはちょうどいい雑木林をみつけた。
道路の端に車を停め、3人とも外へ出た瞬間、いくつになっても遠慮を知らないメガネが2人に発砲。
たまらず森に逃げ込むと、3人入り乱れての銃撃戦が始まった。
戦場の緊張感。
それはある意味、快感に近い。
久々であれば、なおさらだ。
3人とも時間を忘れて、サバゲーに没頭した。
しかし、昔から極度の方向音痴の僕は、逃げ隠れしたり、どこかに潜んでいるだろう他の誰かを探している内に、森の中で迷ってしまった。
一体、ここはどこだ?
はじめは楽天的だったが、いくら探しても二人の気配はなく、聞こえてくるのは木々のざわめきばかり。
心細くなった僕はとりあえず森を出ようと、薄暗い森の中をさまよい歩き続けた。
すると、急に視界が開け、崖が出現。
しかし、崖だと思ったそれは急傾斜の法(のり)面だった。
10メートルほど下には道路が見えた。
少し安心した。
とりあえず道に出ようと
、法面に足を一歩踏み出した瞬間、石につまずいてバランスを崩し、法面の下に真っ逆さまに落下。
「イテテ」
死ぬかと思ったが、法面には一面深いササが生い茂っていて、それがクッションとなり大きな怪我もなく、何とか道路のそばまでたどり着くことができた。
しかし、そこで違和感が。
お尻に何かが触れている、というか下敷きにしているようだ。
確認しようと視線を下に向けると・・・人形?
よく見ると、それは紛れもなく人間だった。
「死んでるぅぅぅ!!!」
それは死体だった!
「うわぁぁぁ」
反射的に起き上がったはいいが、あまりの恐怖にその場で腰が抜けてしまった。
気持ちとは裏腹に、僕の目はその死体を凝視してしまっている。
死体の首はおかしなほうへ曲がっていて、血に染まった口を大きくあけ、白目を向いていた。
男性だ。
そして、嫌な考えが頭をよぎった。
「どういうこと?落ちた衝撃で、僕がこの人を殺してしまったの?え?え?えええええ!!!」
その直後、パニック状態の僕をさらに追いつめる事態が!
遠くからだんだんと近づいてくるパトカーのサイレン。
警察だ!
「いや、僕じゃない。
僕じゃないよ、たぶん」
この場から逃げ出したかった。
しかし、震えが止まらない足腰は、もう僕のいうことを聞いてくれない。
しかも、手にはおもちゃとはいえピストルを握り締めている。
誰がどう見たって不審人物だ。
不審人物の言うことなんて、誰も信用しちゃくれない。
ほどなく、パトカーが僕の近くに止まった。
「もう終わった。
僕の人生終わった」
脳裏に家族の笑顔が浮かぶ。
「妻よ、子よ。
お父さん、人間として一番やっちゃいけないことをしたよ。
しばらく会えなくなるけど、ごめんね」
ほとんど無意識に両腕を前に突き出し、覚悟を決めた。
「どうぞ、逮捕してください」
しかし、警察は僕に一瞥をくれただけで、あわてて茂みの中に分け入り、死体を見つけると、パトカーから一般人と思しき中年女性を呼び寄せ、なにやら確認作業のようなことをしていた。
女性は激しく泣いていた。
少し経って、救急車も到着。
男性の死体と女性を乗せると、サイレンの音を消したまま、Uターンして走り去っていった。
全く事態が飲み込めなかった僕に、警察が色々と説明してくれた。
おかげで、事の顛末を知ることができた。
事の真相なんて、分かってしまえば、たいしたことはなかった。
憶測や推論だけで、事態を悪いほうへ悪いほうへ考えてしまった自分がアホらしかった。
真相はこうだ。
実はこの日の朝、この場所で乗用車2台による交通事故があり、一方の車に乗っていた若い女性が病院に救急搬送されたが、数時間後、搬入先の病院で亡くなった。
母親は病院に駆けつけたが、どうしても父親とは連絡がつかなかったらしい。
そこで母親が言った。
「もしかしたら同乗していたのかも?」
その言葉にハッとした警察は母親とともに、現場に戻って確認しにきたところに、たまたま僕がいたってわけだ。
もちろん、事故直後に事故処理のため警察も現場に来ていたが、事故の際、車外に大きく投げ出された父親は、人目のつきにくい道路の側溝の茂みの中に飛び込んでしまったため、発見されることはなかったようだ。
現場を見立てた警察によると、男性は車外に投げ出された時点で即死状態だった可能性が高いそうだ。
何より、その言葉にホッとした。
僕、人殺しにならなくて良かったよ、ほんと。
サイレンの音に気づいて駆けつけた二人と、この場で合流することができたんだけど、全てを話したら大笑いされたよ。
でも、昔からなんだよね。
ほんと、間が悪いんだよ、僕。
怖い話投稿:ホラーテラー ホラテラなんて大好きだ!さん
作者怖話