「……どうだ。嘘みたいだろ」
「こんな事があるなんて……」
私はN先生の空洞となった腹部を見て驚嘆した。漆黒のそれは、ぽっかりと口を開けていた。
でもそれとベストセラー小説『トリカゴの鳥』との関係が分からない。
「この腹にトリカゴごと鳥を入れてみたんだ。そしたらね、沸々とアイディアが湧いてきたんだよ。
遅筆で有名な私が信じられないくらいスラスラと書けたんだ」
「つまり、それは『トリカゴの鳥』ですか?」
「ああ。その通りだよ」
その後も、N先生はヒット作を量産し続け、一躍人気作家の仲間入りを果たした。
そんなある日、N先生の最愛の奥様が亡くなった。それからというもの、編集者の私との連絡は一切途絶えた。
数ヶ月後、何の前触れもなく、編集部のパソコンにN先生の新作が届いた。
『私の頭の中』と題された小説は、N先生の苦悩が描かれていた。間違いなくキャリア最高傑作である。
私はそれがどういう事かと気がつくと頭がおかしくなりそうになりながら、急いでN先生の家までタクシーで向かった。
先生宅に着くと、玄関は施錠してあり、何度呼び鈴を鳴らしても音沙汰は無い。
家の裏に回り、窓から中の様子をうかがった。
首の無い先生と思しき胴体がパソコンの前でだらし無く突っ伏していた。
怖い話投稿:ホラーテラー 薄荷飴さん
作者怖話