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長編8
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息子と黒い影

この話は、私の息子に起きた出来事です。

長いし、あまり怖くありませんので、スルーされた方がいいと思います。

この春中学に入学する息子ですが、

その時はこんなに元気にすくすくと成長するとは想像もできませんでした。

息子の名前は以後Kとします。

Kは生後数ヶ月で高熱をだしました。

発熱に気付いてすぐにKが生まれた総合病院へ運びました。

夜中でしたがすぐに小児科の先生が診てくれる事になりました。

Kは私が抱いていましたが激しく泣き続け、顔色は土色に変わっていました。

寝台に寝かせると少し泣き止みましたが、弱々しく喘いでいます。

診察の結果、高熱、大泉門(前頭部のペコペコした頭蓋骨の隙間)の腫れ、

状態の悪さから髄膜炎が疑われるので、腰椎尖刺をして髄液検査をするということで、

私達夫婦は退室を促されました。

そばについていたいと申し出ましたが、かなり痛い検査で可哀想なので、

見ない方がいいと先生に言われて(暗に邪魔だと言われ)

前の廊下で夫と待つ事にしました。

程なく、激しい泣き声と、合間にむせかえる咳が聞こえて、

我が身が代われるものならば、と泣きながらウロウロとしていると、

さっきまでいた夫の姿がありません。

待合室かと覗いてみても見当たらず、

トイレかなと考えしばらく待つことにしました。

廊下に戻ると、まだ間欠的に激しい泣き声が聞こえていました。

だんだんと弱々しい声に変わっていくのが不安で、

10分ほど経って再び夫を探そうとトイレへ向かい、

男性用トイレの前で声をかけました。

さすがに夜中で夫しか居ないと思っていても入るのはためらわれたので。

「○○ー?いるの?」

返事はなく、他を探そうとトイレに背を向けたとき、後ろから足音がしました。

多分夫だと(あまり返事をしない人なので)振り向こうとした瞬間、

振り向いた反対側を何かぬるい風のような、

黒い影のようなものがバサーッと通り過ぎるのが分かりました。

振り向いたそこには誰もいません。

前にも誰もいません。

なにが起きたのかよく分からないまま、とにかく夫を探そうと待合室へ行くと、

ナースが尖刺が終わった事を伝えてくれ、診察室に入るように言われたので、

とりあえず入ると、夫が涙や鼻水で汚れたKの顔を拭いてやっていました。

なんでもういるの?と思いながら、

先生の話が始まったのであとで聞こうと保留する事にしました。

先生の話では、

髄液がなかなか出て来ないので、場所を変えて何度も針を刺したので時間がかかった、

髄液が出にくいのは流れが詰まっているせいで、これも髄膜炎の症状だろう、

髄液の検査結果を待てないほど重篤な状態なので、

今すぐ抗生剤の大量投与を始めて、毎日髄液を検査して抗生剤の種類を決めていく

髄液を毎日抜く事で脳圧が下がり、治療にもなる

抱くと泣くのは、抱かれて体が曲げられると脳圧が上がり、激しい頭痛がするからだ

…と肝心な、治るのかどうかを話してくれないので、こちらから聞くと、

「全力を尽くします」

「それは助からないこともあるということですか!」

「…どんな病にもその恐れはありますが、今のKちゃんは非常に危険な重い状況にあります。

抗生剤がうまくマッチすればいいですが、そうでないと覚悟しなければならないことになるかもしれません」

…夫の涙を見たのは初めてでした。

とにかく先生に治療をお任せするしかない、よろしくお願いしますと頭をさげ、

Kの入院に24時間付き添うことになりました。

その時にはすっかり先ほどの出来事を夫に聞くのは忘れてしまい、

それどころではなくなっていました。

けいれんを防止するために病室の灯りは常夜灯のみで、ブラインドを閉め、テレビなども禁止でした。

ツラいのは授乳も禁止と言われた事でした。これは、吐くと体力が奪われるので絶食を指示されたからです。

Kのために、何かできることはないか。考えながら、ベッドに横たわるKを抱いてやることもできず、ただ泣きながら夫と見つめていました。

やがて私は泣きながらウトウトしてしまい、気がつくと暗い病室には夫はいませんでした。

そのうち戻るだろうと少し待ってみましたが、不安感に耐えきれず、廊下を覗こうとドアを開けた瞬間、

さっきのぬるい風のような黒い影のようなものが私の顔の横をバサーッと通り、

ビックリしてベッドに振り向くと、

Kの上に覆い被さる黒い影が一瞬見え、まばたきすると見えなくなっていました。

慌ててKに駆け寄ると、顔色は土色ですが呼吸は少し落ち着いた様子で眠っています。

でも動揺は収まらず、夫の居場所もわからないので、まずはナースステーションに行ってみることにしました。

病室のドアを開けるのが少し恐かったですが、今度は何事もなく、無事に出られました。

夜勤のナースが私を見て、

「旦那さんは入院に必要なものを取りに帰られましたよ」

聞く前に教えてくれました。

なんかおかしい。

帰る前に私を起こして、なにが必要か聞くもんじゃない?

と、解せないまま、

電話を掛けてくるからとナースに告げてロビーに向かいました。

エレベーターのドアが開くと目の前に夫がいました。

「うわっ」

電話しようとした相手が唐突に現れたので驚きましたが、

「適当に色々持ってきたから。

また足りないものがあったらメモしておいて。

それからコレ。」

と熱い缶コーヒーを手渡されました。

さっきまでの夫の行動が解せなかった事も、きっと私への思いやりで起こさなかったんだろうと考えると納得できたので

夫には聞くのをやめました。

これからの事で話し合わなければいけないことがたくさんあったからです。

それからは

薄暗く、テレビもなく、不安で満ちた病室で、

ようやく抱いても泣かなくなったKを抱き、

母乳を欲しがって泣くのを小声の子守歌であやそうとするも効果なく、

泣き疲れて寝付くまで抱いている

という日を過ごしました。

髄液を抜く間にシャワーを浴びて、あの泣き声が聞こえないようにしていました。

夫は仕事の前後に病室に来ては、色々と用事をしてくれました。

2日目の夕方、Kに添い寝して休んでいると、耳元でぬるい風を感じました。

全身から汗が吹き出て、明らかにそこにある気配を目をつむったまま感じていました。

目が開けられないのに

そこにある黒い影がハッキリわかりました。

ぬるい風が吐息であると、

匂いでわかりました。

何だか覚えがある匂い…

汗が気持ち悪くてたまらない

「はっ」

黒い影は短いため息をついて、私の後ろから移動し、ベッド脇に立ちました。

目が開けられないのにやっぱり気配で分かるのが不思議で、

この記憶が何だろうと一生懸命考えていると、コレだ!というものにたどり着きました。

それは、この病院で去年亡くなった私のおじいちゃんの匂いです。

煙草好きなおじいちゃんは

煙草を吸ってない時も

ほんのり香ばしい香りがしていて、私は嫌いじゃない匂いでした。

ひょっとしておじいちゃんが黒い影?

Kが生まれる前に亡くなったおじいちゃん。

生まれたら抱っこさせろって約束したおじいちゃん。

Kを助けに来てくれたのかな…

そういえばおじいちゃん

おしっこが近くて、しょっちゅうトイレに行ってた。

死んでもおしっこちかいのかな

Kにかぶさったのは

頑張れって言ってたのかな

色々と黒い影がおじいちゃんに適合している気がして、

次に見たら怖がらずに声をかけてみようと考えているうちに、眠ってしまいました。

やがて先生に言われた3日目の峠を越え、Kの熱が下がり始めました。

7日目にKがニッコリ笑った時には、今度は嬉しくて涙が溢れました。

おじいちゃんのおかげだぁ

と嬉しくて

Kが助かった事が

何より嬉しくて

ロビーの公衆電話から

丁度時間的に

職場から病院に向かっているだろう夫に電話しました。

出ません。

運転中かな

もうすぐ来るから

その時にKを笑わせてびっくりさせよう

とあっさり諦めて病室に戻りました。

エレベーターを降りると

廊下までKの泣き声が聞こえます。

ナースを呼ぼうとしても、

ナースステーションにはナースはいません。

慌てて病室のドアを開けると

ベッドのKの上に黒い影がかぶさっています。

おじいちゃんだ!

Kは絶叫に近い泣き方をしています。

黒い影は消えません。

Kを抱き上げようと黒い影の上から腕をKに伸ばしたとき、

あのぬるい風の匂いがしました。

おじいちゃんの煙草の匂い。

Kを抱いた瞬間に、

ドアがバンって開いて

夫が血相を変えて入ってきました。

Kの泣き方は少し落ち着いて、黒い影は見えなくなっていました。

夫に話しかけようとするより早く、

夫が紙袋から小さな白い包みを取り出し、

Kのお腹の上に乗せ更に小さなビンから液体をKの額に数滴たらしました。

「間に合ったか!?どうだ!?お前は何ともないか!?」

普段穏やかな夫からは想像出来ない剣幕に驚いて、ただKと夫を交互に見ていると、

「びっくりしたか。何も教えてなかったからな。すまん。もう大丈夫だ。」

と夫は疲れた顔で笑いました。

その後夫に全て説明して貰うと、

私の大きな勘違いが発覚しました。

夫の家系はある宗教を代々やっていて、夫は小さな頃からその霊的能力が人並みはずれていたのだそうです。

ですが、

私が宗教嫌いなのを知って黙っていたんだそうです。

夫も小さな頃に命に関わる大病にかかり、

姑と舅は

夫の能力を恐れる悪い霊が

弱った夫に襲いかかるのを払うために

今の夫と同じ事をしたそうです。

最初に病院に来たときに、夫はKに集まってきた悪い霊に気づき、

私がウロウロとしている間にKの周りに結界を張って、

私が戻るより先に戻ってきたところに診察室の中に入る許可がでたんだそうです。

その後、病室に移り、病室にも結界を張ったが、

手ごわい霊が一体いて直に破ってしまうので、

実家から守護札と聖水を取り寄せるまでの間は

朝晩結界を張りに病室にきたのだそうです。

そして今日届いた守護札と聖水を持って病院に着くと、

悪い霊が融合してパワーアップしていて、これはいかんとダッシュで病室まできた…という説明でした。

にわかには信じがたい内容でしたが、他につじつまの合う説明もできないので一応納得する事にし、残った疑問を尋ねました。

「じゃあ、あの黒い影が悪い霊?」

「見えたか?結構手ごわい奴で、僕の力だけじゃ無理だった。オヤジの守護札が必要だったんだ。」

おじいちゃんじゃなかったんだ…

「なんでKちゃんが襲われたの?」

「こいつの能力を恐れる悪い霊が、弱ってる今のうちにやっつけようとしたんだよ」

「…?Kちゃんにも能力が?」

「ああ、僕より強いかもな(笑)」

ガビーン(T_T)

「あともう一つだけ。…なんで霊の事や宗教の事、教えてくれなかったの?」

「…お前に言わなくても僕がなんとか出来ると思ったしそれに…」

「…それに?」

「…お前に嫌われたくなかったんだよ。お前が宗教嫌いだって言ってたからさ(照)」

その後Kは順調に回復し、心配された後遺症もなく、人並みに成長してくれました。

但し、能力がどうなったかは夫やKは秘密にしていて、

教えてはくれません。

男同士の秘密なんだそうです。

多分、私に嫌われたくないのが本音だと思いますが(笑)

長くなりましたが、最後まで読んで下さってありがとうございました。

怖い話投稿:ホラーテラー 猫年生まれさん  

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