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長編9
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信じる者は…

先に言っておくが、俺は幽霊なんか信じていない。それは、この恐ろしい体験を経た今でも変わらないし、この先も変わらないと思う。もし、あなたが幽霊を信じている人ならば、この話は読まないほうが良いかもしれない。…何でかって?根拠は特に無い。単なる俺の勘だから別に気にしなくても構わない。

前置きが長くなったが、言いたい事は言ったので始める。

もう5年も前、まだ俺が大学生だった時の話だ。当時の俺は格好も性格もチャラチャラしていて、どちらかというと不真面目に見えるようなタイプの人間だった。しかし自分で言うのもなんだが、そこそこの大学の理系の学部に所属していて、頭はまぁ結構良い方だった。当然、幽霊なんて非科学的な物は信じてはいなかった。今もそうだが。

ある日、友人宅で飲んでいると、友人Aが「肝試しに行こう」と言い出した。その時はもう10月も半ばで、夜ともなると少し肌寒い季節だったので、俺は「今頃肝試ししてる奴がいるかよ。それに夜中は寒いぞ」と反対した。

すると友人Bが「むしろ逆に今だから良いんじゃねぇか?他に人もいないだろうし、寒さで恐怖感アップするだろ」などと言い出した。俺は確かにそれも一理あるな、と思っていると、友人Cも「暇だし行くべ」と言い出したので、まぁ満場一致とは行かないまでも、自然と肝試しに行くことが決定した。

「じゃあどこに行く?」とCが言うと、Aは地元でも有名な心霊スポット、S山に行こうと提案した。このS山は廃井戸とトンネルで有名な場所だ。TV番組等でも何度も紹介されているから、心霊スポットに詳しい人ならどこかわかったと思う。

Bは幽霊とか心霊現象が好きなタチで、一瞬「またあそこかよ」みたいなつまらなそうな顔をしたが、B以外のA・C・俺の3人はまだそこには行った事が無かったので、多数決でS山に行くことが決まった。

コンビニで酒とお菓子を買い込み、Aの車でS山に向かった。現地に着いたときには既に深夜1時を過ぎていた。

ここでS山について簡単に説明しておく。S山には2つの有名な怪談がある。

1つめは、トンネルの中で車の電気を消してクラクションを鳴らすと幽霊が現れるというもの。

2つめは、山の中にいくつかある廃井戸を全て見つけると呪われるというもの。

しかしこのS山、地元ではあまりにも有名過ぎて、夏になると地元の若者(特にヤンキーが多い)が肝試しに殺到して、山には人が溢れるという、その知名度故に全く恐怖を感じない心霊スポットになってしまっている(むしろヤンキーの方が怖くて、普通の若者はあまり近寄らない、違う意味で怖いスポットになってしまっている)。

今回俺たちは廃井戸巡りをしようと決めてきたので、車を駐車場に停め、徒歩で山の中に入っていった。

既に10月ということもあり人の気配は全く無く、Bの言うとおり、肌寒さがほどよい雰囲気を醸し出していた。

ここから、忘れもしない恐怖の一夜が始まるのだった。

俺達は車から降りると、懐中電灯で照らしながら山道を進んでいく。山道とは言っても足元は砂利道となっており、昼間はお年寄りの夫婦も散歩しているような歩きやすい道だ。

駐車場から歩いて5分もしないうちに、1つめの廃井戸が見えた。その左手奥には例のトンネルに続く道がある。かなりあっさりとした展開に俺は拍子抜けした。

Bが「だからここは嫌なんだよ。有名な割りにはつまんねーべ?」と水を差す。するとAが「この調子なら全部の井戸を見つけるとか余裕そーだな」と言った。俺も内心、「幽霊なんかいるわけねーし、早く帰りてー」と思っていたが、Bと違い空気が読めるので黙っていた。Cも無言だった。

まあそんなぐだぐだな空気の中、廃井戸の目の前に着くと、Aが「なあ、誰か井戸を覗き込んでみろよ」と言った。すると続けてBが「○○(俺)は幽霊否定派だったよな。○○がやって幽霊なんていないことを証明するべき」などと言い出した。

正直、俺は一瞬躊躇した。先にも言ったが、俺は幽霊なんか鼻から信じていない。しかし、人間というものは本能的に暗闇を恐れるものだ。それに、万が一にも足を滑らせて井戸に頭から落下してしまう可能性も否定できないし、俺が井戸を覗いている間にこいつらがふざけて俺を置き去りにしていく可能性もある。故に俺は井戸を覗くのをためらった。

するとAが俺を小馬鹿にしたような発言で挑発してきた。流石に頭に来た俺は、腹立ち紛れに井戸に駆け寄り、勢いよく中を覗き込んだ。

何もない。暗くて底が見えない、暗黒の空間が広がっているだけだ。当たり前だ。俺は井戸から顔を出すと、皆がいる所に戻った。

するとAが半笑いで「何か見えた?ビビり君」などと聞いてきたので、流石の俺も頭に来て「ああ!?じゃあお前も覗いてみろよ!!」と怒鳴った。

するとAは「じゃあ俺は覗くだけじゃなくて幽霊を呼んでやるよ!」と言い捨てて、井戸に向かっていった。

Aは井戸に頭を突っ込むと、「もーしもーし、幽霊さん。いたら返事してくださーい。ここに、幽霊さんの存在を信じない○○という不届き者がいまーす。出てきて、証拠を見せてあげてくださーい!」とかなりでかい声で叫んだ。しかし特におかしいことは起きない。まあ当然だが。

すると山に入ってからほとんど発言しなかったCがいきなり「もう良くね?帰ろう。ここつまんねーよ、マジ早く帰ろうぜ。」と言い出した。若干興奮気味になっていたAは、「なんだよ、Cもビビってんのかよ?なんも起きねーって。霊なんかいねーって」と言い、肝試しの続行を主張したが、今度はBが「いや、もういいだろ。もう帰ろうぜ。なんかよくわかんねーけどその方が良いって」と言い出した。

俺もそんな2人の様子を少し不気味に感じ、「なんかシラけたし帰ろうぜ。酒も余ってるし、飲みの続きやろうぜ。どうせここにいても何も起きねーって」と帰ることに賛成した。そんな場の雰囲気にAもすっかり興醒めしたようで、愚痴りながらも帰ることに同意してくれた。

そしてその後はAの車でAのアパートに戻り、飲みを再開した。時計は3時を回っていた。

Aのアパートで酒を飲んでいると、そのままみんな床で雑魚寝を始めた。俺は最後まで起きていたが、そろそろ寝ようと思い小便を済ませ、ベランダで寝る前の一服をしていた(Aは煙草を吸わないので、部屋の中は禁煙になっている)。

外の景色を眺めながら煙草をふかしていると、突然肩をボンッ!と叩かれた。

おれは思わず「うわっ!」と声を出してしまった。振り向くとAが立っていた。

俺が「おい、ビビらせんなよ」と言うとAは申し訳なさそうに「すまん」と言った。そして続けてこう言った。「お前には見えなかったのか?」Aは少し震えていた。さっきまでは元気にはしゃいでいたのに、目の下にはくっきりクマができていた。

「見たって何が?また馬鹿にしてんのか?」「いや、違うんだ、ごめん。違うんだ。じゃあ○○には見えてないのか…」Aは明らかに動揺していた。

明らかに異様なAの態度に、流石に心配になって俺は尋ねた。「井戸に幽霊でもいたっていうのか?」Aは首を横に振った。「違う。井戸には何もいなかった。俺もお前と同じで幽霊なんか信じてないクチだが、声を出して霊を呼ぶってのは流石に少し怖かったよ。でも、井戸からは何も出てこなかった。その時はちょっと安心した」俺はAに話の続きを催促する。

「で、お前らが帰ろうって言って車に戻っただろ?俺は帰る途中も少し不安で後ろを振り返って確認したりしたけど、何もついてきてる気配はなかった。だから安心してたんだけどさ…」Aは話しながら涙目になっていた。「車を出すとき、ルームミラーを見たらいたんだよ。写ってるんだよ、座ってるんだよ、後部座席に、変な女が!」

俺は絶句した。Aの話す内容は到底信じられるものじゃなかったが、その怯え方から嘘をついているとも思えなかった。「で、そいつはここまで着いてきてるっていうのか?」俺は尋ねた。するとAは本当に泣き出しそうな表情で言った。

「さっきからずっと、寝てるCに跨がってる」

俺には理解できなかった。なんでこいつじゃなくてCなんだ?作り話にしても意味がわからない。「はあ?なんでお前じゃなくてCなんだよ?」俺がそう聞くとAは「知らねーよ!気づいたらCに付きまとってたんだよ!車の中からずっと!!でも誰も気づいてないみたいだったし、怖くて言い出せなかったんだよ!!!」俺はAの尋常ではない取り乱し方に恐怖を感じ始めた。

「どうしよう!?Cを起こして伝えた方がいいかな!?お祓いとかした方がいいよな?なあ、でもそしたらC怒るかな!?どうしよう、俺のせいじゃん!?どうしよう…」Aは半ば錯乱しているようだった。

俺は半ば錯乱状態のAに煙草を差し出し、「とりあえず一服して落ちつけ。お前、山に行く前から大分酒を飲んでただろ?酔っぱらってんだよお前。幽霊なんて気のせいだ。」と諭すように言った。 

Aは煙草をくわえて大きく息を吸い込み、震える唇からふうと煙を吐き出した。いくらか冷静さを取り戻したようで、「そ、そうだよな!気のせいだよな」と自分に言い聞かせるように呟いた。 

「そうだ。幽霊なんかいるわけねえって。大体、井戸を覗いたお前じゃなくてCに取り憑くとか理論的におかしいだろ?幽霊に理論とか通じるのかどうか知らんけどさ…。いや、それ以前に幽霊とかいるわけねーから!!」俺がそう言うと、Aは部屋の中の様子を代わりに見てみてくれ、と言った。

俺はためらいなくカーテンを開け、部屋の中を覗き込んだ。

何もいない。酔い潰れたBとCが寝ているだけだ。当たり前だ、馬鹿馬鹿しい。 

俺はAに何も異変が無いことを伝えようとした。その瞬間、寝ていたCが跳ね上がり、 

「あははははは!!!あっはっはははは!!!!」

と気が狂ったように笑いだした。続けて、俺の後ろに立っていたAも大声で笑いだした。この時ばかりは俺もビビった。たぶん、小さな悲鳴もあげていたと思う。 

「いや〜、無理だわ。○○がここまで頑固だとは思わんかったわ」と今まで寝ていたはずのCが言う。

続けてAが「だなあ。こいつ、筋金入りの心霊現象否定論者だわ」とかのたまう。Bも起き上がり、「失敗か〜」とかほざいている。 

俺はすぐに状況を理解した。こいつらは、初めから3人で俺をはめようとしていたのだ。日頃から心霊現象の類いを否定していた俺をビビらせようとグルになり、山に連れ出し、迫真の演技で俺に幽霊の存在を信じさせようとしていたのだ。 

「あ、でも最後、Cが立ち上って笑いだしたとき、こいつ少し本気でビビってたよな?」 「あー、たしかに『うわあっ!!』とか言ってたわ」 「じゃあ俺達の勝ちじゃね?」

何やら3人で盛り上がっている。俺は一瞬でもビビった自分と、こんなふざけたイタズラを考えた3人に無性に腹が立った。

「お前ら馬鹿じゃねーか!?俺は本気で心配してやったのによ!!マジざけんな!!」俺が怒鳴ると、Aは「冗談通じねーなー」とか抜かしやがったが、Cは「悪い悪い。確かにやりすぎた、すまん。とりあえずコンビニ行って酒補充して飲み直そうぜ」と素直に謝ってきた。

しかし完全にふてくされてしまった俺は、「いらねーよ。3人で買ってこいよ」と言い放ち、そのまま横になって目を瞑ると、いつの間にか眠ってしまった。

目を覚ますと、部屋に朝日が差し込んでいた。時計を見ると朝の6時過ぎだった。しかし、3人の姿が無い。コンビニに酒を買いに行っただけのはずなんだが。

俺が眠たい頭でぼ〜っと考えを巡らせていると、外から何やらガヤガヤと声が聞こえることに気付いた。早朝にしてはずいぶん騒がしい。俺はカーテンを捲り外の様子をうかがった。

アパートの目の前の歩道に、大型トラックが乗り上げていた。周りにはパトカーが数台止まっていて、なにやら青いビニールシートも見える。それを沢山の野次馬が取り囲んでいた。

俺の頭に最悪な考えが浮かんだ。そしてその予想は当たっていた。

あの後、A・B・Cの3人は、アパート近くのコンビニに歩いて酒を買いに行くところだった。

そして、アパートの目の前の道路を横断しようとしたところに、居眠り運転の大型トラックに撥ねられた。3人とも即死だったそうだ。 

そして、3人の遺体にはある共通点があった。 

3人とも両足が車輪に巻き込まれ、切断されていたそうだ。 

その話を担当の警察官から聞かされたとき、俺は心の底から恐怖した。

あの夜、S山に行ったことを激しく後悔した。

3人は女の幽霊なんか見てないんだろう。あれは俺を恐がらせようとしただけの、ただのイタズラなんだ。この事故とは関係ない。それはわかる。 

でも、俺は見たんだ。たぶん、俺だけが見たんだ。

あの夜、あの山の駐車場で、両足のちぎれた男の子が這い回っていたのを。

俺は信じない。幽霊なんか、絶対に信じない。信じたら、あの男の子が俺の前に再び姿を現す気がするから。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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怖かった。
引き込まれました。
夢中で最後まで読んだの久しぶり。

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