友達3人とキャンプするため富士五湖の西湖に来た。
特にすることも無く、度胸試しのために樹海を探索をしようという事になった。
スーパーで梱包用ビニール紐を大量に買い込み、樹海を通る山道の入り口まで車で移動。
天気にも恵まれ、山道を歩いている時はちょっとした森林浴気分だった。
「この辺りから入ろう」
という友達の提案で、山道から樹海に踏み入れた。
鬱蒼と繁った木々で昼でも薄暗い。
噂や伝聞のせいか、森林浴気分は吹き飛び心に不安が芽生え始めた。
一人ずつビニール紐の端を、道脇の木にしっかり結び探索を開始。
10メートルも入ると今来た山道は分からなくなる。
4人がバラバラの方向に進むと、すぐに友人達が見えなくなる。
「何か面白いものあったかー?」
不安を和らげる為に大声を出してみる。
程なくして声が3つ聞こえてきた。
三人とも「何もない」的な返事だった。
苔で滑る足元に苦労しながら奥へ進むと
一瞬人影が見えた気がした。
怖いながらも見えた辺りに目を凝らす。
木々の間に人が立っていた。
スーツを着たサラリーマン風の若い男の人。
こちらを見ている。
こんな所にサラリーマンがいるはず無いのは瞬時に理解できた。
しかし僕は逃げ出さなかった。
彼の表情が見えたからだ。
彼はとても悲しげな表情をしていた。
そしてその表情からは悪意を全く感じなかった。
まるで僕に何かを訴えかけているようだ。
彼に対して不思議と恐怖心は芽生え無かった。
叫びながら逃げ出してもおかしくない状況の中、僕はゆっくりと彼の方に近づいた。
彼はふっと見えなくなった。
慌てて僕は彼を探す。
気づくともっと先の方から彼がこちらを見ている。
僕が近づいた事で、彼が少しだけ微笑んだ気がした。
また少し近づくとふっと彼は見えなくなり、更に先の方に現れる。
その繰り返しだった。
ビニール紐を伸ばしながら、僕は彼の誘導についていった。
僕は線香を持って来なかった事を少し悔やんだ。
途中咲いていた綺麗な花を、この先に待つ「彼」のために少し摘んだ。
花を摘んだり、ビニール紐が無くなり新しいビニール紐を結びつける間も、彼はずっとこちらも見て待っていた。
用意していた5巻きのビニール紐が無くなりかけた頃
ふっと消えた彼が、消えたままになった。
心の準備をして彼が立っていた辺りに近づく。
太い木の枝からロープが垂れ下がっていた。
先は少し大きな丸い形。
見つけて欲しかったのだろう。
いたたまれない気分になりながら、せめて花を・・・と付近にいるであろう「彼」を探す。
朽ちた木と苔のせいか、中々見つけることができなかった。
風や動物のせいで少し離れてしまう事もあるかと、ロープの真下から探す範囲を少し広げた。
足下を探す目の端に、何かヒラヒラしたものと靴先が見えた。
顔を上げると少し先に彼が立っていた。
彼は満面の笑みで僕の後ろを指差す。
指し示す先には、さっきの垂れ下がったロープ。
耳元に笑いをこらえたような低い声が聞こえた。
「もう出られないから 使っていいよ」
振りかえると彼の姿は無く
彼がいた場所には、切れたビニール紐の端がヒラヒラしていた。
終
怖い話投稿:ホラーテラー からくりさん
作者怖話