江戸時代後期の東北地方にあったある山間の村でのこと。
その村には貧しいながらも幸せな家族が住んでいた。
家族思いの父、優しく美しい母、幼いながらも賢く快活な娘。
人当たりが良く、村中の人々から好かれた家族だった。
ある日父がいつも通り田畑の手入れをしていた時、山賊と思われる何者かに殺されてしまった。
その亡きがらは見るも無惨な姿になっており、母の精神を破壊するのは容易だった。
最愛の夫を亡くし、かつての明るさを失いふさぎ込む母。
亡きがらを見せられなかった娘には、父が亡くなったという事実が理解できず、また母の変化の理由も全くわからなかった。
「おかあさん、あのね、おはなつんできたの。きれいだよ?」
「おかあさん、またおばちゃんからお魚もらったよ。やさしいね」
娘がいくら話し掛けても、母は生返事を返すだけ。
自分のせいだと思い込んだ娘は、母に許してもらおうと謝った。
「ごめんね、おかあさん。わたしがこんなふうだから、おかあさんがつらいんだよね」
それを聞いても母は、暗い表情を全く変えず、娘の方を見ることもなく
「あなたは悪くないの。謝らなくていいの」
そう呟いて泣き腫らした目に再び涙を溜めた。
それから数日後、娘は「お父さんは遠くにいるけど、いつも見守ってくれている」と村長に聞かされた。
娘が、お父さんはどこにいるの?と尋ねたためだ。
娘はこのことを母に話した。
「ねえねえ、おかあさん、おとうさんはいつもみてくれてるんだって。やっぱりおとうさんはやさしいね」
母は娘の方を見て
「そうね、お父さんは・・・優しいわね・・・」
と小さく微笑みながら言った。
父の死以降、初めて娘の声が母に届いた。
しかし母はすぐに暗い顔にもどり
「でも、あなたはもう・・・・・・」
などと呟き始める。
娘は父の事を話せば、母は自分のことを見てくれる。
そう考えるようになった。
翌日、娘は村人に母のことを心配された。
しばらく外に出ていない様だが大丈夫か、と。
そこで娘はあることを思いつく。
父を見たと言えば、きっと母は外に出てくれる。そして元気になるはず、と。
娘は家に走って戻り、母に叫んだ。
「おかあさん!さっきはたけでおとうさんにあったよ!」
「嘘おっしゃい。お父さんは、もう・・・」
「うそじゃないよ!だからいっしょにきてよ!」
「もうやめて、もうやめて・・・」
娘は母の側にいき、さらに声をかける。
「ねえおかあさん。おとうさんまってるからいこう!」
すると
「もうやめてって言ってるでしょう!あの人はもういないの!もう会えないの!もう・・・会えないのよ・・・・・・!」
母は頭を抱えながら叫んだ。
「おかあさん?」
「お願い。もう苦しめないで」
「おとうさんにあえないって」
「・・・・・・」
「ねえ、おとうさんはどうしたの?」
「・・・そう・・・・・・」
「え・・・?」
母は立ち上がり娘を抱っこし、奥に進んだ。
「そんなに知りたいなら、教えてあげるわ・・・」
母は娘を降ろすと包丁を手に取り、娘の左肩に突き立てた。
「ッ・・・!!」
驚きと痛みで声を出せない娘。
母は暴れる娘を押さえ付け、包丁に体重をかけて娘の左肩を少しずつ切断してゆく。
「お父さんは、こうやってッ・・・殺されたのよ!」
やめてよ
「こんな風に・・・こんな風に・・・!」
おかあさん
ゆるして
「あの人は死んでいったの!もう会えない!」
おかあさん・・・
「愛してたのに・・・あんなに・・・あんなにッ!」
おかあさん
ごめんね
わたしも
しぬのかな?
包丁が娘の左肩を完全に切り落とした時、娘は意識を失った。
翌日、村人の一人が娘の家を訪ねると、そこには父と同じく両手足を切り落とされた娘の亡きがらを抱いて薄く微笑んでいる母の姿があった。
母の服に着いた返り血から、その惨劇は母が起こしたものと容易に想像がついた。
娘の葬儀を村人全員で済ませたが、母は完全に発狂してしまっていた。
その晩のこと、母は変な音を聞く。
ズッズッ・・・ズッ
という何かを引きずるような音。
しかし母は気にせずに、俯いたままでいる。
ズッ・・・ズッ・・・ドン
何かが家の引き戸を叩いている。
ドン・・・ドン・・・ガシャバタン!
引き戸が破られたようだ。
ズッズッズッ
そして母の視界に『何か』が入る
「オカアサン・・・オカアサンン」
それは両手足の無い娘の姿。
母の悲鳴を聞き付けた村人達が家に行くと、そこには事切れている母がいた。
家の中には何かを引きずったかのような泥の跡が。
その翌日から、村人が一人一人毎晩謎の死を遂げるようになった。
その亡きがらの回りにはやはり何かを引きずったような跡が残されていた。
村の危機を感じた村長は祈祷士を読んだ。
その祈祷士によると、
死んだ事を理解していない娘が、母から受けた愛を他の村人達にも伝えようとしている。
とのこと。
なにか防ぐ術はないか、と村長が問うと祈祷士は
「その娘が愛を注げる寄り代を作る事。あの子に似せた人形を作り、すべての家に置きなさい」
それを聞いた村長は、村で最も器用な者に手足のない小さな人形を作らせた。
木の筒の上に小さな頭を載せたもので、各家庭に配られた。
その人形の頭が落ちたら、あの子が来た証。
すぐに新しい人形を作り、置くことが村の新たな掟となった。
その人形には、娘の名前『芥子(かいこ)』からとって、『小芥子(こけし)』と名付けられた。
そして芥子の事を『這子(ぼうし)』と呼ぶようになった。
これがこけしの始まりである
って妄想を授業中してた
長文読んでいただき、ありがとうございました。
是非私の以前の投稿も読んで下さい。
怖い話投稿:ホラーテラー 『新任教師』さん
作者怖話