俺の部屋にピンポーンというチャイムが鳴り響いた。
時間は夜11時。
人が訪ねてくるには、かなり非常識な時間帯だ。
当たり前だが、出る気などない。
「俺は寝ているんだ」と自分に言い聞かせながら、訪問者を無視した。
幸い部屋の電気は消してあり、俺のついている嘘に矛盾点はない。
カーテンだって閉じているから、ベッドに横になって使用している携帯の明かりを外から見られる事もない。
俺のついている嘘が、相手には真実として伝わっている。
その為か、チャイムが一度だけ鳴って少しした後で、人の足音が聞こえてきた。
帰ったのだろう。
その日は、知らぬ間に眠りについていた。
今日は仕事は休みだ。
目を覚ました俺は外に出かけようと、準備を済ませ玄関へ。
ドアを開けた。
女がいる。
不気味な女だった。
このアパートの人間か?
でも見た事がない。
「おはようございます。」
とりあえず元気よく挨拶をする。
「・・・」
女は何も言わない。
無愛想だな。
そう思いながら女の視界から消えようと歩き始めた。
と、その時だ。
「・・・なんでですか・・・」
え?
突然女が口を開いた。
「どうかしました?」
「昨日・・・あたしがあなたの部屋を訪ねた時、あなたは出てきてくれなかった・・・」
昨日の訪問者はこの女だったのか。
俺はまたしても嘘をつく事になった。
「昨日は誰も来てなかったですが。」
「夜訪ねました・・・」
「何時くらいですか?昨日は9時にはもう寝ていましたが。」
「・・・11時くらい」
「あ、すみません。それなら寝てました。」
「あんなにチャイム鳴らしたのに!」
え?
確か一度しか・・・
俺は女が怖くなってきた。
一度しか鳴らしてないのに何度も鳴らしたなんて、ボケてるのか?
2回鳴らしたか3回鳴らしたのかわからなくなってしまったと言うなら話はわかるが。
「気づかなくてすみませんでした。」
夜遅くに訪ねてくる方が悪いのだが、相手が女性だという事で俺は一歩引いて謝った。
「なんででないんですか!」
こっちが大人しく謝っているのに、女が偉そうに言ってきたのではっきり言ってやった。
「ならもう少し早い時間に訪ねてください」
「・・・なんですかその言い方・・・あたしはあなたがこんなに好きなのに!」
は?
どうやら女は俺に好意を抱いているらしい。
「は・・・はぁ・・・はい」
「これからは出てくださいね!」
言い方にムカッときた俺ははっきり言ってやった。
「俺はあんたに興味はない。あんたを見た事もない。もう構わないでくれ。」
「あたしはあなたを見た事がある。」
女は俺をアパートで見た事があるのかもしれないが、俺は女を見た事がない。
女はそう言って、部屋が二階にあるのか階段を上っていった。
俺はイライラしながら歩き始める。
話を聞いていたのか別の住人が部屋から出てきて言った。
「あなた少し前に引っ越して来た人よね?」
「あ!おはようございます。」
俺は1ヶ月前にこのアパートに引っ越して来た。
住人全員に挨拶をして回ったが、あんな女は知らない。
「あの女の人、ここの住人からは嫌われてるのよ。一週間くらい前に来たばかりの人なんだけど、挨拶もしないし、頭もおかしいみたいだし。」
やはり最近引っ越して来たようだ。
「俺も好きではないです。」
「そうよね~。気を付けて。」
「ありがとうございます。」
住人は部屋に戻っていった。
その日は夕方まで部屋に戻らなかった。
ピンポーン
チャイムが鳴った。
女かもしれないと思って、覗き穴から外を見る。
女だ。
嫌だったが出た。
「はい?」
「この時間なら大丈夫ですよね?」
「は・・・はい」
「・・・上がってもいいですか?」
女はそう言いながら上がって来た。
「ちょ!ちょっと困りますよ!」
女を押し出す。
「何するんですか!」
「それはこっちの台詞だ!」
俺はもう我慢できなかった。
「もう来ないでくれ。」
ドアを閉める。
俺は某巨大掲示板で、今回の事を相談しようと思い、アクセスした。
すると気になるスレがあった。
「ふられた」というタイトルだ。
覗いてみる。
スレを開くなり驚いた。
「死ぬ」と連呼しているスレ主。
しかも死ぬ時間まで書いている。
要するに自殺する時間だ。
俺は本来の目的を忘れて、その時間までスレを閲覧していた。
正確には「早まるな」などの書き込みもした。
他の掲示板利用者も「死ぬな」などの書き込みをしている。
そして時間になった。
ガ
掲示板を閲覧している俺の耳に妙な音が聞こえたが気にしなかった。
自殺の時間になっても書き込みが絶えない。
一つ気がついた事がある。
スレ主の書き込みが、無くなった。
自殺の時間が過ぎてから、書き込みがない。
俺は本当に死んだのではないかと怖くなり、閲覧をやめた。
何気なく窓の外を見た。
部屋の窓の前に何かがぶら下がっている。
俺は悲鳴を上げた。
女だった。
二階の自分の部屋のベランダから首を吊っている。
俺の真上の部屋だったようだ。
俺に自分を見せつける為に、ベランダから首を吊ったのだろう。
その死に顔は不気味にニヤリと笑い、俺を見つめていた。
怖い話投稿:ホラーテラー 黒猫さん
作者怖話