1年前の夏の夜の話。
上手い言い回しが分からないのでちゃんと伝わるか分からないが、自分の意識が止まる感覚って、分かってもらえるだろうか。
無の境地というと大げさなのだが、数年前からリラックス方法として自分の意識を止める努力(?)をしてきた。
何も考えない何も感じない様に、フッとスイッチを切る様に脱力する。
自分では電源を切る、なんて言っているがやってみると意外と難しい。
一番近いのが驚いた時に思考が止まる。暗がりから突然何かが飛び出してきたら、一瞬誰もがハッとするだろう。
そして数秒後に状況を把握して、全身から汗がにじみ出てくる。
その数秒間は体から精神のスイッチが切れたと言えば、お分かり頂けるだろうか。
実際には、仕事柄時間と納期に追われる毎日の中のリラックスとして平和的に行っていて、余程疲れている時の気分転換等に、調子のいい時でパチッと2、3秒自分の意識の電源が切れる様になったんだ。
その技の後は集中力は高まるし、感覚的な寒い暑い、痛い、だるい、眠いなども意識の外に置くことができる。
その日も暑い夜だった。会社泊が続き漸く納期にメドがついたので、いったん自宅に帰りシャワーと着替えをして会社に戻るつもりだった。
A県N市に会社はあり、東京大阪とはいかないが夜中でも街は無人にはなることではない。会社と自宅の距離は車で10分程度。
繁華街から一駅といった所だ。
仕事の見通しも付き、数日振りに少しのんびりした気持ちになっていた。
気持ちから焦りがなくなると、どっと疲れが湧いてくる。
疲労困憊は事実、激しい眠気が僕を襲ってきた。
腹も減った、こんな日はゆっくり風呂にも入りたい。
本当は帰ってゆっくり寝たいけど、もう一踏ん張りだ。街行く人々をぼんやり眺めながらも帰りを急いだ。
しかし気持ちは仕事に向けているのだが、眠くてしょうがない。
そこで誘惑を断ち切る為に、帰途の交差点での信号待ちの間にいつもの方法で気付けを行う事にした。
パチッ・・・
意識の電源を落として数秒後、再び意識を取り戻すと同時に、全身から滝の様に汗が噴き出した。心臓は激しく脈を打ち、呼吸も荒く、全身から震えが止まらなくなった。
まさに身も凍る、といった状況だろうか。
意識は落としていても、体はそこにある訳で、呼吸もしていれば、目も開いている。つまり目に映った数秒間の出来事はちゃんと記憶しているんだ。ビデオの様に映像として。
その日の数秒は、今でも思い出す度に胸が締め付けられる映像だった。
あの時、交差点で待っている間、信号方向を見ていた時に電源を落とした。
その瞬間自分の視界の右端から、もの凄いスピードで真っ白い女が自分めがけてまるで猛獣の様に襲いかかってきた。もともとなのか、その勢いによる残像なのか分からないが、記憶の映像では白い女以外のはっきりした特徴は分からない。
その女が飛びかかる様に眼前に迫った瞬間に意識を取り戻した。
何だったんだ、アレは。
結局その日は帰宅後倒れ込み、会社に大きな迷惑をかける事になってしまった。
あの女が何だったのかは今でも分からないが、やはり僕を襲おうとしていたのだろうか。もしくは体をのっとろうと・・・。
後日談がある。
慎重にはなっているが、案外図太い様で通勤ルートは変える事はしなかった。
しかしその数ヶ月後その交差点で交通事故に出くわした。歩行者と
自動車の衝突だが、とても痛ましい状況だった。
その交差点を通過する際に何となくうすら寒さを覚えた。
そして本筋とは関係のない話だから割愛したが、これ以前より僕は見える体質ではある。ただ無駄に見える程度なので深く考えた事はなかったのだが、この交差点で見えたのはその1回だけだった。
これが一年前の夏の夜の体験だ。結局何が何だかは分からない。
しかしもう二度と意識を落とす様なマネはしない。
気分転換は大人しく、タバコにコーヒーだ。
ナーバスになっているのかもしれないが、次に意識を落とした時には・・・。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話