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中編6
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子煩悩の執念

心霊とかじゃなくて、生きてる人間って怖いな系の話。

俺が小学4年の時、転校生がきた。名前はW。

お調子者で馬鹿な事をやるくせに、妙にプライドが高くて、ちょいちょい嘘を吐くのが嫌な奴だった。それから、妙にヨダレが多くて喋ると唾が飛んでくるのと、鼻糞を食べるのが汚い奴でもあった。

うちの学校では奇数学年に上がる時にクラス替えがある。転校以来、勝手にライバル視されてウザかった俺はWと離れたかったが、また同じクラスになってしまった。

小学5年となると、4年とはちょっと一線を画すっつーか、勉強に一生懸命になったり、少年団なんかに入って運動を頑張り始めたりして、急に対抗意識が増加する。

思春期ってのもあって、女子は男子よりもこの頃マセるから、妙に色気づいたりして、微妙に男子と女子の間には隔たりができていたし、好き嫌いがハッキリして、前述のように汚い事をするWは女子に嫌われた。

転校以来ウザかった一方的ライバル視もウザさを増した。

手を繋いでゴール、みたいな生ぬるい平等意識は当時無く、教師の教え方も競い合わせて高めるような方法を取っていた。例えば計算プリントを誰が一番最初に全問解いてかつ全問正解か、とか、漢字ドリルを誰が一番練習したとかだ。テストも点数こそ発表されないが満点の奴から順に返されたし、学級委員や委員会委員、班長なんかは成績の良い奴から担任が決めていた。

自慢のつもりはないが、親が教育熱心だった俺は勉強に関しては(運動音痴だからあくまで勉強のみ)クラストップを走り続けていた。だから、なんらかの役職から外れたことも無かった。

一方Wは、勉強も運動もそこそこ悪くはないが常に中の上ってところで、やりたいやりたいと騒いで委員会委員に選ばれることもあったが、必ず選抜されるというわけじゃなかった。

そんなある日、何時ものように計算問題早解きをやって、答え合わせの為に教卓へ持って行こうとしたら、Wが叫びながら俺を突然、シャープで刺してきた。

シャープは俺の手に刺さってぶら下がり、芯が折れて床に落ちた。勿論クラスは騒然として、女子の中には泣き出す子も居た。

怪我は大したことなく、折れた芯が皮膚から少しハミ出してたおかげで病院に行くまでもなく抜くことが出来たし、痛かったが洗って消毒すれば内側についた黒炭汚れも落ちた。傷口も小さいからすぐ塞がった。

だがこの一件から、Wはますます嫌われた。

担任もWがまたプッツンして奇行に走らないように警戒したし、対抗意識を掻き立てるような授業方法を少し緩和させた。

まぁ当然っちゃー当然だ。シャープだから大事にはならずに済んだが、これがカッターや鋏だったら洒落にならないし、図工の時には彫刻刀や錐、鋸、金鎚なんかも使うんだからヤバすぎる。

なにせ俺は、Wのライバル視がウザいから極力接触しないようにしていたんだ。挑発するような事も言っていない。なのに、自分より早く計算問題を解いたからといって刺してきたんだから、いつキレるともしれない。

だがWはそれを、自分が悪いとは微塵も思っていないようだった。

学級会の時には俺が女子を扇動して自分を嫌われ者にしたと訴えるし、Wの母親が俺を電話で一方的に怒鳴りつけてきた時もあった。

参観日にはW母が俺の母親に文句を言ったり、睨みつけたり、他の保護者に訴えかけたりといったこともあったそうで、親も親なら子も子だ、と俺のうちでは家族ぐるみでW家を嫌いになった。

だがそんなW親子から、俺は解放された。6年になる時、親の都合で隣町に転校したんだ。

転校先の学校は、男女の仲も良かったし、程よく対抗意識を燃やして高め合うことはあっても、陰険な事をする奴やウザい奴の無い、物凄く居心地のいい所だった。

そしてそのまま中学に上がり、俺はトップ爆走は出来なくなったが上位は保って、地元で一番の進学校へと進んだ。

ある日廊下で声を掛けられた。

「久し振りね。覚えてる?Wの母です」

なんと、W母は教師として高校に居た。

俺の覚えているW母は俺を見る時鬼のように睨みつけてきたものだが、気持ち悪いくらいニッコリとした笑顔だった。

そして聞きもしていないのにWはS高校(地元で2番手の学校)に進んだと話し始めた。

だがおかしい。

何故W母が居るのか。小5当時、俺は公団住宅に住んでいたが、W家も同じ公団の隣の棟に住んでいたから、生活環境や家族構成はだいたい筒抜けだ。たしか、専業主婦だったはずだ。

なのに、教師として居る。しかも公立だ、教員免許を持っていたとしても、ピンポイントでうちの学校のみの採用試験を受けることは出来ない。年齢的に、新人と違って、家庭や住宅の有無を考慮して採用地を選ぶことは出来るかもしれないが…。

「あの頃は色々あったわね」

悪寒がした。

地元一が公立だから、わざわざ私立に入る奴はいない。成績を保ったまま進めばその学校、少し落ちたとしても息子の居るS高校……どの高校に進学するかの推測は、田舎では難しくもない。W母は、俺に復讐をする為に来たんだ、と思った。

勝手に俺を敵視して対抗し、挙句は苛められたと被害者面をしたW。Wの言い分を微塵も疑っていないW母。息子の受けた理不尽な仕打ちを、立場を利用して俺に仕返ししようというのではないだろうか。

だがここで怯むのは癪だった。被害者はどっちかといえば俺だ。何をしたわけでもないのに勝手に敵視されて、刺されて、悪者だと訴えられて、W母に怒鳴られた。思えば思うほど腹立たしかった。

「そうですね、シャープでいきなり刺してきたりとか。S高ですか?あの公団からだと遠いですね」

W母の笑顔が消えた。

だが知ったこっちゃない。皮肉を言って少しばかり留飲の下った俺はその場を立ち去った。W母はなんらかの牽制をする為に声を掛けてきたんだろうが、俺にはなんの用事も無い。

そしてもう一つ、強気に出れた理由があった。W母の担当教科は俺の得意科目で、中学で成績が下がり、高校では更に下がったとはいえ、その科目だけは落ちていなかったからだ。

その科目の初授業の時、教科担当は5人居るのに、俺のクラスの担当はW母だったってところに、ああやっぱり、と意図を感じた。

W母も、もはや隠す気もないのか本人は自然なつもりなのか、俺への当たりはやたら厳しかったし、どこかに荒を探して難癖つけようとしてくる様子が見られたが、生憎と俺はそんな隙は見せなかった。

ペーパーを返す際のW母の悔しそうな顔と、指先に力が入って皺になったテスト用紙。

これで低い成績をつければ不自然だ。一学年10クラス教科担当5人なのに、W母は俺のいるクラスを3年間受け持ったが、俺はとうとう手出しする隙を与えないまま卒業を迎えた。

卒業式の日。

卒業生は体育館を出る際、教師達が両脇で花道を作った中を通る。W母に対して完全勝利を収めていた俺は、その時にはW母なんか眼中になく、卒業する感慨に浸っていたが、強烈な視線を感じてその方向を見た。

W母が、無表情だが目だけは俺を睨みつけていた。

担任を持っているわけじゃない教師は、こういう時はお互い様ってことで、自分の子どもの式へ行く。WもS高校で卒業式のはずだ。だがW母はS高校へ行かず俺を睨んでいた。

この卒業で今度こそ縁切れのはずなのに、そこまで執着するW母に、俺は最後の最後で後味の悪い思いをして卒業することになった。

余談だが、俺には弟が居て、弟も同じ高校へ進学した。

一応W母が何をしてくるか解ったもんじゃないから油断するな、とは言っておいたが、弟は担当をもたれなかった為、手出しされなかったようだ。

だが弟自身には何もないが、W母はまだ諦めていないらしい。

弟に「お兄さん元気?」「お兄さん今何してる?」と卒業後の俺の動向にしょっちゅう探りを入れていたから。

自分の子どもに対して盲目な母親の執念は恐ろしい。

Uターン就職をして地元に帰ってきた今、何処かから俺が地元に帰ってきた情報が伝わって、刺しに来ないかが心配だ。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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なんで最近こういう馬鹿な親が増えたんだろ?

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