死神ゲームの続きです。
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ペアを作れといわれ、思うが侭に各々ペアを作りはじめる。
とりあえず俺たちは隣にいたもの同士ペアを組むことにした。
俺のペアは俺よりちょっと年上っぽい感じの男で、そいつはガタガタ震えながら、
「死にたい…殺してくれ…死にたい。」
とつぶやいていた。
いまから一体何が始まるんだろうか…。
不安をむねに俺はカウンセラーの言葉を待つ。
そしてペアを作り終え、カウンセラーが再び喋りだした。
「ペアを作ったな。それでは、いまからちょっとしたゲームを行う。」
そういうとカウンセラーは何かを取り出した。
「!!」
虚ろな目が一気に開き、周りに衝撃が走った。
そう、それは紛れもなく、拳銃だった。
本物を間近で見たことはないし、偽者の可能性もある。しかし、その形はなんだか禍々しくて、どうみても本物にしか見えなくなっていた。
(まさか…これを使って殺しあうのか…?)
緊張感が走る。
そしてカウンセラーが口を開く。
「それではゲームの説明をしよう。今ペアを組んでもらったわけだが、まず片方が目隠しをし、もう片方がここにある銃を持つ。そして5分間与える。目隠しをしてもらう方は身動きが取れないように拘束し、銃を持っているものは、その間は何をしてもらっても自由だ。自身を銃で撃つのもよし、ペアの相手を撃つのもよし、何もせずボーッとしているのもよし。もし何事もなければ、5分後、もう片方と立場を入れ替えて、同じことを行う。簡単だろう?尚、これは全ペア一斉では行わず、1ペアずつ、この相談所の地下にある密室で行う。下手に次のペアに緊張感を与えたり、狂われて、ここで乱射などされても困るのでな。ルールは大体分かったかな?」
狂っているとしか思えなかった。
(ゲーム?ふざけるな!こいつは今の俺たちの状態を分かって、こんなことを言ってるのか?
俺たちは今「死」を望んでいる。誰よりも、死にたいと願っている連中だ。そんな連中に銃を渡して、自由にしてくださいなど「死んで下さい」といってるようなもんだろ…狂ってる…。)
そう思っている最中、一人の男が口を開いた。一番最後カウンセラーと共に、部屋にきた『10人目』だ。
「いくつか質問したい。まず、パターンA『銃を持つものが自身を撃ってしまった場合』だ。この場合、5分待たずに、ゲームは終了するのか?
そして、パターンB『銃を持つものが相手を撃った場合』も同様に、ゲームは続くのか?
それとパターンC『お互い何もせずに終わった後』はどうなるんだ?お帰りくださいとでも言うのか?」
重苦しい空気のなか、こいつはやけに冷静だった。
カウンセラーは答える。
「それでは、補足をしようか。まず、この銃についてだが、銃弾は2発しか入ってない状態で行う。単純に考えれば、ペア1発ずつだ。密室空間には、私と、ペア一組だけ入り、時間の管理、終了の判定は私が行う。
今から言う状態になれば、5分経っていなくても、その時点で終了だ。
1、銃弾が二発なくなる
2、片方が死ぬ
つまり、銃弾を一発撃っても死にさえしなければゲームは続くわけだ。
これでパターンA、Bの質問の答えにはなっただろう。
そして、パターンC、何事もなく、終わった場合は、全ペアが終わった段階で、残ったものが第2ゲームに突入する。これでOKかな?」
カウンセラーが一通り説明を終わる。しかし、こんな説明で周りが納得するわけがない。
「ふざけんじゃねえぞ!もし死人が出たら、その後どうするんだよ!責任とれるのか!おめえ!」
『そうよ!どこまで人を馬鹿にすれば気が済むのよ!あんた何様よ!』
カップルと思われる男女が抗議する。
さっきまで、操り人形のごとく、言うとおりにしていた連中も、さすがにここまで狂気じみた説明を受けては、われに返るのだろう。
「くくく・・・」
そんな連中の苦情、抗議をものともしない静かな笑い。まるで人を人と見ていないような嘲弄。
カウンセラーはそんな笑いを浮かべた後、こう言った。
「死にたい、死にたい、いってた連中が、何未来とか考えちゃってるんだい?
死ねば無だし、未来なんて存在しないのだから、とやかく考える意味はないだろ?
まだ他人のことを考える余裕があるんだとしたら、死にたいなんてまるで嘘だな。未練たらたらじゃないか。くくく…」
そうだ。ここで死ななければ、死にたいなんて大嘘だ。
死にたいと言って自分を保とうとしているだけ。
心の奥底で死を享受していない。
本当に死にたかったら、頭を銃弾で打ち抜けば終り…。終りなんだ…。
死んだ後のことなんてとやかく考えても仕方ない・・・・失ったものはもう二度と戻らないのだから・・・。
カウンセラーの言葉を聞き、各々がそれぞれの思いを秘めている中、俺は決断しようとしていた。
「死ぬ」と、今ここで死ぬきっかけが生まれたのだと。
問題はこのペアの男だ。
一部が抗議している最中、こいつは最初と変わらず、
「やった…死ねる…待ってて…みんな…すぐいくから…」
とつぶやいている。もしこいつが先に死んだら、俺は死ねない。
だが、第二ゲームがあるということは、そこでもまた死ぬ機会があるのでは?
他力本願、まるっきし人任せな発想だった
死ぬことは簡単だ。周りを気にしなかったら、電車にでも飛び込めば、まず死ぬし、タイミングなんていつでもある。
それなのに、俺は今、頼ってしまっている。
こいつに、カウンセラーに死ぬ「きっかけ」を、作ってもらっている。全てを委ねてしまっている。
そんな心境の中、一人は別のことを考えていた。
そう「10人目」だ
(第二ゲーム…か。この男の目的がまるで理解できないな…。殺人ゲームだったら、全員に銃を渡して、自分は遠くから傍観すればいいだけだ。しかしこいつは、密室空間に自身も入るといっている。銃を持ったものは何をしても「自由」だったら、自分が撃たれる可能性もあるってことだろう。まして、一部は、貶されて苛立っている。あいつに発砲する可能性も十分にある。あいつは、一体何を考えているんだ…
。)
色々な思いを抱いている10人目のほうを見て、カウンセラーが呟く。
「無駄だよ」
「!?」
10人目はビクっとしてカウンセラーを見る。
「死にたがりの連中の中にも、頭の切れるやつはいるもんだ。
だが、それは結局無駄。お前らの浅知恵なんて、常識の範囲内さ。常識は通じない。このゲームに参加してしまったらな・・・。まあ、そのうち分かるさ。くくく。」
(見透かされたのか…表情や仕草で…いや違う…こいつは読んでるのか…俺の心の中を…いや、そんなわけがない、考えすぎだ。そんな人間の域を超えたことができるわけがない!落ち着け!冷静になれ!)
自分にそう言い聞かせ鼓舞する10人目。
そしてカウンセラーは言う。
「どうこう言い合っていても仕方ない。そろそろ始めようじゃないか…。」
カウンセラーの一声とともにゲームが始まりを迎える。
そのとき見たカウンセラーの表情は、俺たちの命を掌握している死神のようだった。
続く
怖い話投稿:ホラーテラー 7さん
作者怖話