この話は、だいぶ前に友人から聞いた話です。
なぜか忘れられない話だったので、皆さんにも聞いてほしいと思い投稿しました。少し脚色して、私目線で書いています。
私は友人たちから引越し魔といわれていた。
多い時には1年に3回も引越しをしており、友人たちをその手伝いにまきこんでいた。
引越す理由は様々だったが、たいていは住宅情報誌の広告を見ていて衝動的にここに住みたいと思い、ふらっと現地を見に行き気に入ると契約をしてしまう。
ある日、新築物件のハイツの広告が目に止った。まだそれは工事中で3月完成予定となっていた。
写真には周辺の写真だけが載っており、「自然がまだまだ残っています。駅までは少し遠いですが、○○小学校はすぐそば、子育ての環境にはいいところです」みたいな紹介がしてあった。
独身だった私には子育ての環境はどうでもよかったが、何故か懐かしい自然の風景に惹かれ、現場を見に行った。
現場は2階建のハイツで、ハイツの敷地の目の前は地元の人の畑のようで、簡易ビニールハウスや、桜、梅、桃の木、そのほかいろいろな花が植えてあり、梅以外花は咲いていなかったが、春になればさぞみごとな花畑になるだろうなという想像ができた。
私が、工事中のハイツを見ていると現場のガードマンらしきおじさんが私に近づいてきたので、私もおじさんに「ここに住もうと思うのだけど、どうですか?」と話しかけたら、おじさんはびっくりした顔をして少し後ずさりをした。
私は何か変なこと言ったかな?と少し首をかしげニコッとほほ笑んで見せると、そのおじさんもニコッとしたがそのまま何も言わず小走りに現場に戻ってしまった。
変なおじさん……
私はまた、畑の方に行き、その向こうにある線路の近くまでいった。
ここからハイツまでの距離なら、電車の音もさほど気にはならないだろうなと思いながらハイツを振り返った私は、奇妙な違和感を覚えた。
ハイツの屋根いる大工さんや、さっきのガードマンらしきおじさん、工事のトラックの人がみんな手を止めて、こちらの方をみている。
正確には私を見ている?いや、考えすぎ?
でも、周辺はおじさんたちが手を止めて見るような物は何もない….
まだ完成もしていないのに、見に来る物好きに思われたのかな?
私はここに住むことを決め、帰りに不動産屋により仮契約を済ませた。
私がそのハイツの1番乗りだと思ったが、2番目だった。
2階東側の端部屋は先約されていたので、西側の端部屋に決めた。
入居は3月中頃になり、友人たちはそれぞれ多忙なこともあり引越しは
業者に依頼をした。
契約は2番目だったが、入居は私が1番だった。
引越しのあいさつも不要で気楽である。
とりあえず必要な荷物だけ出して、外に出ると畑にお婆さんがいた。
畑の持ち主のようだ。
「こんにちは」
私はお婆さんに、あいさつをした。
お婆さんもにこにこして「ああこんにちは、あんたここに引っ越してきた人かい?」と言った。
お婆さんは、畑で作っているいろいろな物を教えてくれ「夏になったら、たくさんの収穫があるから持っていくよ」と言ってくれた。
とれたての新鮮な野菜がいただけるのはありがたい。
ここに越して来たのは正解だったな。
私は部屋に戻り、ウキウキした気分で片づけを再開した。
しかし、夜になるとウキウキした気分はなくなってしまった。
静かだ…
あまりに静かすぎて怖いのである。独身女性の一人暮らしには危険かも..
テレビの音を少し大きくするが、そうすると余計に静かさが増し怖さも増す。
この広い建物には自分一人しかいないのだという恐怖がぬぐいきれない。
ここで幽霊でも出ようものなら……….
早くみんな引越してこないかなあ、一人は気楽でもさすがにこれはいやだ。
2日目…..3日目….1週間もすると慣れはしたがやはりさびしい。
多忙な友人たちはしばらく来れないみたいだし….
1番に契約した人はどうしたのだろう?
もし子持ちなら、新学期も始まるしそろそろやってきそうなものだが…..
ベランダで洗濯物を干しながらそんなことを考えていると、子供の泣き声が聞こえた。
下を覗くと、駐車場のところに親子連れと思われる3人がいた。
小学生らしい女の子が泣き叫んでいるのを、父親と母親が困った様子でなだめている。
もしかして、1番に契約した人かな?やっと引越してきたんだ。
私はうれしくなり、ベランダから声をかけた。
ところが父親と母親は一向に気がつく様子もなく、子供はますます泣き叫び、
とうとうその親子連れは車に乗り、去って行った。
引越してきた人たちじゃないのか?
しかし、子供はなんであんなに泣いていたのだ?
それから4月も過ぎ、5月になり前の畑はみごとな花畑になり、野菜の方も
お婆さんが手入れをしており、すくすくと育っていた。
お婆さんは階段が苦手だからと、取りに降りておいでとハイツの前に野菜や花を置いてくれる。
おいしい野菜を食べ、きれいな花を飾りそれなりに楽しい毎日であったが
相変わらずハイツには誰も引越してはこない。
私は不動産屋に電話をした。
すると思いもよらなかったことを知らされた。
1番に仮契約をした家族はキャンセルしてきたと。
何故?
不動産屋はそれには答えず、私に住み心地はどうかとたずねてきた。
別に…..新築だし快適ですよ。
ただ、私以外誰もいないので夜ちょっと怖いですが、まあ慣れましたけど。
不動産屋の話では、この前の3人の親子連れがどうやら1番の契約者だったらしい。
引越しの前日に掃除に来たのだが、子供が中にはいる前から泣き出し怖がってどうしようもなく、キャンセルしたそうだ。
確かにあの子供の泣き方は今思えば異常だった。
子供はなにを怖がっていたんですか?
ここ、何かいるんですか?幽霊とか?
不動産屋にそんなこと聞いても1番嫌がられる質問だ。
まして、新築物件にそんなことがあるはずはない。
でも土地はどうなんだろう?前はここに何があったの?
私の思いに反し、不動産屋はきちんと答えてくれた。
子供は、ベランダにおばけがいると怖がっていたこと。
そのベランダは、私の部屋のベランダである。
ベランダはたくさんあるのに….何故私の部屋のベランダなの?
このハイツが立つ前はここには昔からの長屋作りのアパートがあり、それを取り壊してハイツを建てる計画だった。
そして、取り壊し前日まで残っていた若い女性が、その夜起こった火事で亡くなった。
めまいがしてきた…….
建物は新築でも、火事があった後に建てているなんて…
それも、一人亡くなっている。
私は畑に行った。お婆さんに不動産屋に聞いた話をした。
お婆さんはうんうんとうなずき私の話を聞いていた。
そして花を切り、花束を作りハイツの方に行き花を置き合掌して言った。
あんたがここにまた現れた時にはびっくりしたけど、なんかうれしかったよ。
かわいそうに、あんたはまだ成仏できていないんだね。
あの火事からもう2年も経ったのにね。
そんなにここが好きだったんだね、私の野菜も良く食べてくれたしね。
でもね、もうあんたはこの世の人じゃないんだよ。
いつまでもここに住んでいちゃいけない。
あんたが住むところは別の世界にあるんだよ。
さあ、もうおかえり。
もちろん、私の畑にはいつでも遊びに来てもいいんだよ。
ありがとう…お婆さん….
私はその日のうちに、引越しの支度をした。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話