201×年春…僕は三度目の大学受験に失敗した…人一倍勉強したつもりだ…でも何かが僕に足りない…それが何なのか僕は知らなければならない…今度こそ合格してやる。
そのアパートに越したのは受験に失敗した翌週の事だった。
大学受験に三度も失敗した僕は、これ以上親に迷惑をかける事は出来ない、もっと安くて勉強に集中出来る部屋に引っ越さなくてはと、街の不動産屋に相談した。
「これなんかどうですか?家賃は、破格ですよ?と言うかこれ以上安い所は無いですね~。」
と不動産屋が提示したのは駅から徒歩三分、エアコン無し、風呂トイレは共同で25000円。
確かに安い、駅から三分でこの値段。
しかし、安すぎないか?
僕は不安になり不動産屋に何故こんなに安いのか、何かいわく等が無いのかと問い詰めた。
「あぁ、いわくですか?そうですね、特に詳細には書かれてないんで、無いと思いますよ?でもまぁ強いて挙げるとしたら、駅が近いことですかね?」
駅が近い?駅が近い事は良い事では無いのか?遠くて困る事は有っても近くて困る事は無いのでは無いか?
そう僕は不動産屋に聞いた。
「いや、言い方が悪かったですね。近いと言うより近過ぎると言った方がいいですね。このアパートの目と鼻の先を丁度電車が通るんですよ。だからねまぁ騒音とかそう言う話です。」
成る程それなら納得出来る。
音なら我慢すれば良い、僕はそのアパートに決める事にした。
実際に住んで見て、成る程確かに線路が近い。
しかし、窓を閉めれば言う程音も気にならない、これは案外儲け物だぞ。
と思い僕は早速勉強を始めた。
だが流石に夏ともなると暑くて窓を開けないと勉強どころでは無い、僕は窓を開け時折走る電車などを眺めながら勉強に励んだ。
そしている内に僕は有る事に気が付いた。
丁度午後3時過ぎの電車の先頭車両のドア付近に毎日同じ女の人が乗っているのだ。
その女の人は黒く長い髪で尚且つ終始俯き気味なので顔はよく見えないが、所謂今時の若い娘と言うよりは、何処か清潔感が有ってお嬢様と言った感じだった。
何故か僕はその女性が気になり何時の間にか毎日来るその電車を楽しみにする様になっていた。
恥ずかしながら、僕は今迄受験ばかりで恋なんてした事が無いし勿論女性と付き合った事も無い。
でも、淡い気持ちを毎日の息抜きにしてもいいでは無いか。
そう僕は、少しの罪悪感を感じながら毎日を過ごしていた。
そして、今日も電車が来ようとしている。
あっ。
僕は思わず声をあげてしまった。
彼女が窓の外を見ている…
僕はその瞬間本当に恋に落ちてしまった…
わずかに開いた口元…決して大きくは無いが切れ長で綺麗な瞳…そして次の瞬間僕は再び声を上げた…
その娘は間違い無く僕を見ていた。
お互いの視線が絡み合い一瞬が何分にも感じられた…
僕の心の中は彼女で一杯になってしまって勉強など全く手に付か無くなってしまった。
いや待て、僕を見ていた訳じゃ無いかも知れないじゃ無いか。
勘違いかも知れない…明日もう一度、もう一度…
そう思いながら僕は残りの長い一日を終えた。
次の日、又あの電車が来る…
先頭車両の…いた…あの娘だ…やっぱり…見てい…あっ…笑って…いる?
僕は、もうどうしたらいいか分からなくなった…お互いに見つめ合い更に彼女は僕に微笑んでいる。
僕は、僕は…
一晩悩み僕は決着を付けると決意した。
3時過ぎの電車僕はあの電車に乗る。
その日僕は何時もより二時間程早く起きると念入りに身だしなみを整え午後2時にはホームに立っていた。
周りから見ればさぞかし不審に思われていただろう…
待つ事一時間やがてホームにあの電車がやって来た。
高鳴る鼓動…手には終始汗をかいている…先頭車両に、彼女は…いない?
と言う事はこの駅から乗るのか?
途端に僕は全身が緊張する。
後ろにいるのか?僕はゆっくりと振り向いた。
そこにも…いない?
僕は混乱してあたりを見回す。
と、何時の間にか目の前に彼女がこちらを見て立っていた…
「あっ、あの…」
僕は続きが言葉にならずただ呆然としていた。
その時不意に彼女は僕の手を握り、
「一緒に来て。」
こう言って電車の乗車口に僕を引っ張って行った。
「あの…僕…」
「いいから…来て…一緒に…」
彼女は僕の耳元で囁くと、一歩を踏み出した。
次の瞬間僕の中で何かが弾けた。
世界はこんなにも美しい…
それから僕は毎日彼女と3時過ぎの電車に乗り克つて住んでいたあのマンションを一緒に見ている…
「こんばんわ6時のニュースをお知らせ致します。
今日○○駅構内で22歳男性がホームに飛び込むと言う事故が有りました。
目撃者によると、飛び込む瞬間に髪の長い女性がいた等と言う声も有り警察では事件性もあると見て現在調査中の模様です。
尚この事故が原因で、全線に1時間程度のダイヤの乱れが生じ5000名程の足に影響が出ている模様です。
次に、一足早い夏の訪れを見せた○○海岸では、今年も多くの観光客が………」
僕は今生まれて初めて幸せを感じている…
怖い話投稿:ホラーテラー かつをさん
作者怖話