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中編5
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動物霊

一つ、動物霊のお話をいたします。

これは、数年前。

私がまだ社会人になる少し前のお話でございます。

大学から車を飛ばしておよそ20分程度の山の中に、

小さな鳥居と粗末な祠が置いてある神社がありました。

神社のなれの果て、と申しますか、誰に管理されることもなく、

しかしどこぞの誰かが花を進ぜていたり祠を掃除している、なんとも不思議な場所でございました。

よく学生も肝試しに来ているような場所でした。

なにしろ、今ここにきている私たちも肝試しに来たのですから。

メンバーはお調子者のA。

Aと付き合っているB子。

B子と仲の良いC子。

そしてAの親友の私。

時刻は深夜0時ころでした。

「…怖いね。」

「え、俺はワクワクするぜ!」

B子の言葉とは裏腹に張り切るA。

「肝試しもいいけどさ、何するの?」

「そ~なんだよ~。鳥居とお堂しかねえでやんの!」

C子の問いにAも同意いたします。

「ねえカイン君。」

Aがこんな風に私を呼ぶときは決まって何かを頼む時でございます。

「君、試しにあのお堂の中に入ってみてはくれないかね?」

「普通、鍵とかかかってるもんじゃないの?」

「物は試しだろ!」

「カイン君、いけー!」

AとB子が私をしきりに囃し立てます。

「…気が進まないけど、覗くだけだよ。」

お堂の前の階段の前に立ちますと、足元の賽銭箱は完全に朽ちていて、直方体をなしておりません。

すぐ後ろに足音を感じまして、振り返るとC子でございました。

「怖くなった?」

「ううん。私も中がみたいだけ。」

ゆっくり扉を引いてみますと、

バキッバキッ!と途中大きな音を立てながら、扉は開いたのでございます。

中には6畳分くらいのスペースがあり、さらに奥にはまだ部屋があるようでした。

森に囲まれているのと暗いこともあって気づきませんでしたが、ずいぶんと奥行きはあるように見えました。

私とC子の携帯の明かりでその奥の部屋を照らします。

すると大きな長い机があり、その両端に白いキツネの置物があったのでございます。

ひっ!

とC子が声を出しました。

「大丈夫、稲荷様だよ。

このさらに奥の神様を守る役目を仰せつかった、

偉い狐さんなんだ。」

「そ、そうなの。でもなんか怖い。」

普段は冷静なc子もこの時ばかりは女の子でした。

「これ以上先に進むとお怒りに触れるかもしれないから、引き返そう。」

と、私はC子の手を取りお堂をあとにし、イチャつくAとB子のもとに戻ってまいりました。

「お、どうだった?」

「いやー、普通のお堂じゃないかな?あまり奥に行くと罰当たりそうだから、ちょっと見て帰ってきた。」

「なんだよーだらしねえな!じゃあ俺が奥に行ってくるよ!」

「え、あ!止せって!」

豪快にお堂の中に躍り込むAでした。

「なんだこの人形だっせーwww」

私とC子はお互いを見合わせ、いやな予感に駆られていました。

B子はと言いますと、お堂に駆け寄って、その人形を見ようと外から中をのぞいておりました。

しばらくして、AとB子が戻ってきました。

Aの片手には稲荷様が握られています。

「こいつ超ださくね?猿見てえwww」

どうして、Aという男は、こうも見栄っ張りなのでしょう。好きな女性の手前、強く出るのでしょうか?

こともあろうに稲荷様を地面にたたきつけたのです。

首の部分と胴体が分かれました。

C子は口を覆ってショックを受け、B子はやりすぎだとAに詰め寄ります。

突然、風が吹きました。

いえ、もはや、台風が来たかのような強風でした。

風はひとしきり吹いた後、徐々にやみました。

その場の4人は皆嫌な予感しかしませんでした。

突然、私の右腕にC子が飛びつきました。

「ど、どした?!」

C子は地面を指さしています。

視線をそちらにやりますと。

稲荷様の首がカタカタと揺れているのです。

そして、目の部分は黄色く光り、次の瞬間には首が回りだし、Aのほうを向いて止まりました。

B子が悲鳴を上げます。不と周囲を見回しますと、

何かに囲まれていたのです。

「お、鬼火!?」

C子がつぶやいたので、私は目を凝らしてみてみました。

無数の黄色い光が私たちを取り囲んでいます。

しかし鬼火にしては嫌に小さく、炎独特の揺らめきもありません。

「…違う、眼だ。」

無数の狐の眼だったのでしょう。この世の狐のものかどうかはわかりません。

「うわ、うわあああああ!」

叫び声をあげて、Aが自分の車に飛び乗り、そのまま山を下ります。

刹那、黄色いその眼も真っ直ぐに、Aの車に向かって飛んでいきます。

その後、山はいつもの静寂に戻りました。

B子は号泣、C子は恐怖に震え、私は茫然自失でした。

とりあえず、稲荷様のお頭と胴体を被服科のC子からボンドを借りてくっつけた後、元あった場所へ置きに行きました。1体残っていたはずのお稲荷様はどこにもありませんでした。

次の日、Aは講義に来ませんでした。

するとB子から電話があり、すぐにAのアパートに来てほしいとのことでした。

私がAのアパートにつくと、ちょうどC子も来たところでした。

アパートに入ると、玄関先で転げまわりながら咳をするAとどうしたらよいかわからずその場に泣きわめくB子。

昨日の夜。残った3人は、私の車で下山しましたが、B子はAのアパートで降ろしてほしいと私に頼み、昨日の夜からAといるのですが、

昨日から咳が全く止まらないらしいのです。

「バカ!早く救急車呼びなさいよ!」

C子がどなりつけ、急いで119に連絡を取ったのでございます。

こうしてAは救急車で搬送されましたが、

咳の原因は全く不明。

喉の荒れもなければ、ウィルス感染もないのでございます。

Aはその後も半日もの間咳に苛まれました。

夕方、ようやく咳が止まったころには、Aは激しい咳をし続けたためか、声帯は完全に機能をしなくなり、声を失ったのでございます。

また、肋骨が4本折れ、肺にも異常をきたし、これから一生咳と付き合わなければならないと医者は申しました。

わたくしは気づいておりました。Aがアパートの玄関で咳をしている間、奥の部屋から覗く2つの黄色い怒りに満ちた目を。

そしてAの咳が、狐のコンコンという響きに酷似していたことを。

おそらくは、稲荷様の怒りに触れ、憑依されずーっと鳴かせられていたのでしょう。死ぬまで・・・

Aですが、その後も頻繁に咳が続き、ついに折れた肋骨が治らず、そのまま肺に突き刺さり、あの夜から2か月後に他界しました。

皆様も、動物霊にはお気を付けを・・・

怖い話投稿:ホラーテラー カインさん  

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