短編2
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帰ってきたお爺さん

俺が仕事してた時の話です。

今年の3月に東日本大震災がありましたね。今は辞めちゃいましたけど、地震があった当時 俺は土木関係の仕事をしていて被害にあった人の家の工事をしていました。

ある日、親方と二人で崩れたブロック塀の工事をしていた時にお昼近くになって親方がお昼を持ってくるのを忘れたと言うことでトラックに乗ってコンビニに弁当を買いに行ってしまったので、帰ってくるまでの間は俺が一人で作業をしていました。

親方が出掛けてから15分くらい経った時、作業をしている俺の後ろで「すみません…」っと、かすれた様な声でガリガリで白髪頭のお爺さんが喋りかけてきました。

俺が「なんでしょう?」と聞き直すと「私は貴方が作業してる家の隣に住んでる者なんですけど、よろしければ私の家のブロック塀も直していただけないでしょうか?」っと言われました。

ですが親方が留守中なので勝手に承諾する訳にもいかないので「今、親方が出先で居ないのであと15分くらいで帰ってきますので、そしたらまた来てください」と説明したら「そうですか。わかりました…私の名前は山田けんじ(仮名)と言いますので、よろしくお願いします」と言い残し、自宅へ帰って行きました。

それから間もなく親方が帰ってきたので、お爺さんに言われた用件を伝えて作業をしている中、お爺さんが来るのを待っていました。

ですが、何分待ってもお爺さんは全然現れません。作業を止め仕事を上がる頃になり、片付けをしていると隣の家からお婆さんが出てきて「すいません。私の家のブロック塀を直していただきたいのですが」と言われたので「あぁ山田さんですね。先ほどお宅の旦那さんの山田けんじさんが、いらっしゃってウチの若いのが対応してたみたいで、ある程度の話は聞いております」と親方がお婆さんに言うと、お婆さんは驚いた顔をして「山田けんじは私の主人ですが、私の主人は二週間前に亡くなりました…」と言われました。

驚いたのは俺達の方です…汗

親方は当時、現場には居ないので何がなんだかわからなくなってますし、俺は喋っていた相手がもう亡くなっていると聞かされて、じゃあ俺は誰と喋っていたんだろうと、もっと訳わからん状態です。

するとお婆さんが「私の主人は長く入院していて震災の後に仮退院で2日ほど家に帰って来た時に、ブロック塀を直したいなあと言い残し、病院に戻って数日後に亡くなったんです。」と俺達に教えてくれました。

「帰ってきたんですね」とお婆さんは笑顔で言っていました。

それから俺は新しい職を見つける事が出来て仕事を辞めたので、あのお婆さんの工事には俺は行っていません。

怖いと言うより、不思議でなぜか心温まる体験をしました。

Concrete
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