中編3
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野井戸

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私の生まれ育った土地には地面に直接穴を掘って作った野井戸と言うものが有りました。

当時水道がすっかり普及してましたから、井戸として使われているものは有りませんでした。

主に山手に集中しており、私達子供は大人から井戸の辺りには近づくなと口酸っぱく言われました。囲いもなく、深さは5メートルに及ぶ為昔は転落事故が頻発していた様です。

子供は専ら浜の方に有る海浜公園を遊び場に しており、私達の世代では野井戸による事故も無かったんです。

五年生の頃にグループに分かれて自分達の住む町の歴史を調べて発表をする事になりました。

席の近いもの同士がグループとなり、私達は6人の班に成りました。別段問題の無い面子で社や砦跡が有る山手を散策しようと、話し合いもスムーズに進みました。

散策を翌日に控え、同居していた祖母におやつ代をねだるべく散策の事を話しました。

野井戸のある辺りを再度伝えては近寄るなと再三いわれました。

子供ながらに、井戸の形状を想像しただけで危険な事は分かります。比較的早熟な子供でしたし、言われずとも近づいたりはしなかったでしょう。班のメンバーも似たタイプだったので万が一の事も無いだろうと、軽く聞き流していました。

翌日、6人で史跡巡りをしたり老人に話を聞いたりしました。

かなりスムーズに進み、後は模造紙に纏めれば終了となりました。一番家が近い女の子の家に行く事になり、帰路に付いたのですが私はどうしても尿意を押さえられず用を足す事に。

恥ずかしさからそそくさと済ませましたが、ふと、その場所が野井戸に近い事に気付きました。辺りを見渡すとぽっかり穴が空いてます。

これが…と思いました。落ちている石を掴み 穴目掛けて投げてみました。

吸い込まれる様に穴に石が落ちました。

音がしない…

固唾を飲んで見ていたら 皆が来ました。

遅い!!とせっかちな子が痺れを切らしたそうです。

何やってんの?

あれ…ほら あの穴…野井戸だよ。石投げたら何も音しなかったんだ。

底なし?

まさか、5メートル位て聞いたよ?

と、初めて見た野井戸に別段テンションを上げるでもなく会話しました。

一人の女の子が石を2つ穴に投げ入れました。

ぶぶぶぶぶぶ!!!

辺り一面に唸り声とも機械音ともいえぬ音がしました。

何!?

今の何の音!?

流石に驚き焦った私達は一斉に駆け出そうとしました。

ぶぶぶぶぶぶ!!!ぐぐぐぐぐぐ!!!!!!!!

又変な音です。キョロキョロと音の出所を探ればあの穴からです。

行こう!!と再び駆け出そうとした時です。

ぐちゃぐちゃ…と粘着質で不快な音がしました。

見たく無い…見ちゃいけない…絶対見たら後悔する!!

と思いつつも穴の方を私は振り返らずにはいれませでした。

私ともう一人、足を止めて穴を注視しました。

ぶぶぶぶぶぶ!!!

穴の縁に骨ばった腕が伸びていました。

歯の根が合わない経験は初めてでした。

ぐぐぐぐぐぐぐぐぐ…

唸り声の様な声を上げながらソレは穴から少しずつ出てきます。

泥に塗れた人型をしたそれは明らかに生きたモノでは有りませんでした。

そこからは小枝に引っ掛けてあちらこちらに切り傷を作りながら一心不乱にはしりました。

無事逃げ仰せた私達は半ば放心状態でそれぞれの帰路に付きました。

私にはまだ後日談が有ります。又の機会に…

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