私は子供の時から少女マンガが大好きで、よく学校帰りに近くの本屋さんで立ち読みなんかしていました。
あれは、私が小学3年生だった時の事です。その日、学校が昼過ぎに終わると一目散に本屋さんに走りました。
そこは個人が経営してる小さな本屋で、お店のウィンドウからレジに座るおばさんのいる店内が見えました。
店の中には入らず、店先に平積みになってるお気に入りの雑誌を手にとって読み始めました。
あまり長く立ち読みすると、おばさんに怒られます。今日はこれを買おうとレジに持って行こうとした時です。
店の入り口の引き戸の前で、サラリーマン風の男の人が店の中を見て立っていました。
髪をきちっとセットして、ビジネスバッグを片手にし、スーツも着ています。
その男の人は、開けて店に入るでもなく、引き戸の前で微動だに動こうとしません。
もう少しで顔が引き戸につきそうなくらい接近しています。
人1人分の狭い入り口なので、男の人がどいてくれないと店の中に入れません。
少しむっとした私は、割り込んで店の中に入ろうかとも思ったのですが、失礼な事だと思い直しました。
仕方がないので、別の雑誌を読んでようかと向き直った時、車道を挟んだ反対側に同級生のKちゃんが見えました。
幼稚園の時からの知り合いで、一番の仲良しでした。Kちゃんはおまわりさんと話していました。
おまわりさんは、腰を曲げてKちゃんのほうに耳をかたむけ、うなづきながら熱心に話を聞いていました。
そして、手帳に何か書き込むと、Kちゃんにお礼を言って自転車でどこかへ走っていきました。
私は手にしていた雑誌を元の場所に戻し、道路を渡ってKちゃんのところへ駆け寄りました。
おまわりさんと何を話していたのか聞くと、最近この辺りで連続してる事件の犯人をKちゃんが目撃したらしいのです。
今朝Kちゃんが学校に向かっていると、スクーターに乗って車道を走っていた女の人が、歩道にいた男に突然突き飛ばされたそうです。女の人はあやうく反対車線まで飛ばされるところでした。
この近辺では、他にも数件同じような事件が起きていて、瀕死の重傷を負った人もいる様です。
私はその話を聞いて、ふとある嫌な考えが頭に浮かんできました。
さっきのサラリーマンは、歩道にいたおまわりさんに見られないように後ろを向いていたんじゃないか?
そして引き戸のガラスに映るおまわりさんとKちゃんの様子を伺っていたんではないかと。
「Kちゃん!その男スーツ着たサラリーマンじゃなかった?!」
突然身をのりだして聞いてきた私に、Kちゃんは少し気おされた様子で「ううん、工場の作業服みたいなの着てた」と答えました。
安堵のため息をつくと、私はKちゃんを公園で遊ぼうと誘いました。Kちゃんも喜んで行こうと言いました。
公園へ向かいながら、ふと気になって後ろの本屋さんの方を振り向いてみると、サラリーマンはまだ立っていました。
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ただし、体をこちらへ向けて・・・真っ赤な形相で私をにらみつけていました。
作者黒川丑巳