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短編1
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家族

「おい、まだかよ?」 

俺は、女房の背中に向かって言った。 

どうして女という奴は支度に時間が掛かるのだろう。

 

「もうすぐ済むわ。そんなに急ぐことないでしょ。…ほら翔ちゃん、バタバタしないの!」 

確かに女房の言うとおりだが、せっかちは俺の性分だから仕方がない。 

今年もあとわずか。世間は慌しさに包まれていた。 

俺は背広のポケットからタバコを取り出し、火をつけた。

「いきなりでお義父さんとお義母さんビックリしないかしら?」 

「なあに、孫の顔を見た途端ニコニコ顔になるさ」 

俺は傍らで横になっている息子を眺めて言った。 

「お待たせ。いいわよ。…あら?」 

「ん、どうした?」 

「あなた、ここ、ここ」 

女房が俺の首元を指差すので、触ってみた。 

「あっ、忘れてた」 

「あなたったら、せっかちな上にそそっかしいんだから。こっち向いて」 

「あなた…愛してるわ」 

女房は俺の首周りを整えながら、独り言のように言った。   

「何だよ、いきなり」 

「いいじゃない、夫婦なんだから」 

女房は下を向いたままだったが、照れているようだ。

「そうか…、俺も愛してるよ」 

こんなにはっきり言ったのは何年ぶりだろう。

少し気恥ずかしかったが、気分は悪くない。

俺は、女房の手を握った。 

「じゃ、行くか」

「ええ」 

俺は、足下の台を蹴った。  

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