俺が高校生の時の話。
俺に霊感なんて物は無いと思っていた。
金縛りにはたまに遭うこともあったが、科学的に証明できることだということを知ってからは、金縛りを楽しむ余裕すらあった。
初めて金縛りに遭った時は漏らしそうなくらいビビったのだが。
その日の夜も俺は金縛りに遭った。
ただいつもと違い、心の底から恐怖した。
数少ない俺の心霊体験、良かったら聞いてくれ。
その日の夜、いつものようにアホ面で寝ていた俺は、夢を見ていた。
古ぼけた卒業アルバム、どこの学校なのかも分からない卒業アルバムを俺は手に取って見ていた。
やはり相当古い時代のアルバムの様で、白黒の写真が使われていた。
そして、あるクラスの集合写真を見ていた俺は、ある異変に気がついた。
生徒と生徒の顔の間に、何かシミの様な物が付いている。
俺はその部分を凝視した。
よく見ると顔のようだ。
怒りの形相の男。
顔だけが浮いている。
ソレに気付いた瞬間、ソレから目が離せなくなった。
そして顔が俺に近づいて来る。
夢の中は何でもアリだ。
視界を徐々にソレが覆い尽くす。
そいつとの距離がいよいよ無くなる。
するとそいつは写真から勢い良く飛び出し、俺の左手の薬指に噛み付いた。
その瞬間俺は目覚めた。
この時点で俺はめちゃめちゃビビってた。
全身から冷や汗をかいてるのが分かった。
噛み付かれた指が尋常じゃなく痛む。
しかも金縛りだ。冗談じゃない。
だけど目の前にはもっと冗談じゃない物がいた。
夢のあいつ。顔だけ浮いた状態で俺を睨んでやがる。
俺は泣きそうになった。
そいつは夢の通りゆっくり、ゆっくり近づいて来る。
やばい、これマジヤバい。
逃げ出そうにも身体が動かない。
声も出ない。
奴は相変わらず俺を睨みつけながら近づいて来る。
渾身の力で叫ぶ。出ない。
頼む。早く解けてくれ。
叫ぶ。
叫ぶ。
ヤツはもう目の前だ。
声よ出ろ。出てくれ。頼む。
「あぁ〜ん・・・」
うおおおお!と出すつもりが何とも情けない声が出た。我ながら恥ずかしすぎる。
しかし金縛りは解けた。
奴も消えていた。
夢の中で噛み付かれた薬指がパンパンに腫れていた。
一ヶ月程で腫れは引き、その後そいつと会うことも無かった。
しかし、噛み付かれた左手の薬指。
あいつに噛み付かれたせいで25になる今でも結婚したいと思える女性に巡り会えていないのではと考えると恐ろしい。
そしてこんな言い訳をしてしまう自分が恐ろしく情けない…
作者鬼トン
初投稿。実話です。