中編5
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トラウマ温泉

小学生の頃、祖母に連れられ(ほぼ強制的に…)、夏休みを過ごしたY温泉での話です。

短く要約出来ず、ダラダラ書いてしまいました。長めです、すみません。

T県にあるY温泉はホテルタイプの洋館とG楼という和館に分かれている。

現在の宿泊システムはわからないが、当時のG楼は素泊まりOKで、自炊可能だったので、比較的安値で長期滞在も出来た。

祖母はG楼がお気に入りだった。夏には数週間単位の宿泊をしていたと思う。

私も小学生の頃は毎年のようにそこで夏休みを過ごしたのだが、当時の私にとっては、嬉しくもあり、やや苦痛でもあった。

というのは、一つは同行メンバー。たいていは祖母、母、私の三人。

小学生の私は、山奥の温泉を、遊び相手ナシで満喫出来る程成熟してはいなかった。

もう一つの理由はG楼の雰囲気にあった。

良く言えば、風情ある……、悪く言えば古めかしい建物で、いかにも「和」のテイストがなんとなく無気味に思えた。(あくまで当時の話です。)

とにかく昼間でも暗かった記憶がある。洋館と比べ、こっちはこじんまりとした造りで、地下もあった。

地下の一部の通路は岩が敷き詰められた壁で出来ており、その壁のすぐ下にチョロチョロと水が流れる小川なんかも細工されていた。

この通路もかなりの暗さで、所々にぽつぽつと光る灯と、突き当たりに立っている笹だか柳だかの植物が風に揺られて、なんとも幻想的な空間だった。

大人になった今なら、素直に「情緒」を感じ取れるかもしれないが、子供の私にはまるで肝試しでもされているかのような感覚しか無く、そこを通るのはひたすら怖かった。

「明るいホテルの方に泊まりたいよ…」

と祖母にお願いした事もあったが、結局、いつもG楼に宿泊…となるのだった。

G楼には至る所に、私の苦手な「ツボ」がある。

さっきの地下の通路を先に進むと、蜘蛛の巣が張った小さな橋、そこを渡ると、これまた暗くて狭い通路。

確か、かまくら風呂?だったか、白くて丸い物がいくつか並んでいた。

別館の夢殿と名の付いた風呂の下には更に別の風呂があり、らせん階段で下りていくのだが、そこも暗さと湿気(まぁ、温泉ですから)で苦手な場所だった。

が、私が以後トラウマになって、Y温泉に行けなくなったのは、その夢殿ではなく、かまくら風呂での出来事のせいだ…。

その夏も、同世代の遊び相手がいないY温泉で退屈していた。

祖母も母もマイペースで、風呂に入っては寝るの繰り返しだったから私はほったらかし状態。

怖がりの私も、余りの退屈さ加減に負けて、いつもは母と探索していた建物内を、一人で歩き回るようになっていた。

昼間なら、なんとか柳の通路や蜘蛛の巣橋も歩けた。ただ、そこから先のかまくら風呂には何故か足が進まなかった。理由はわからない。

ある日、橋の上で、私と同じ年くらいの女の子と出会った。

その子も遊び相手がおらず、暇を持て余していたようで、私達はすぐに仲良しになった。

名前はさすがに忘れてしまったが、仮にサユリちゃんとしておこう。

田舎臭い私とは対照的な、どこかオシャレな感じのする子だったと思う。だが、着ているものが毎日同じ?(に見えた)で、不思議に思いながらも、汚いな…という印象は全く受けなかった。

その子に誘われ、毎日、館内を遊び歩いた。

「かまくら風呂入ったことある……?」

と、唐突に聞かれ、

とっさに

「え〜あるよ〜!!私、毎年ここに来てるんだよ。もう全部のお風呂入ったもんね〜」

と、変な競争心が湧き、思わず嘘をついてしまった。

「ふ〜ん………」

その子は、つまらなそうな顔をしたが、すぐにこう言ってきた。

「ねぇ、じゃあさ、今からかまくら風呂入って、お互い何分我慢出来るか競争しようよ」

「………」

まさか今更、かまくら風呂の前を通るのすら怖いとは言えなくなっていた。

観念した私は、かまくら風呂の入口で彼女に尋ねた 「勝負に勝ったら、どうしてくれるの?」

彼女は

「今は言えな〜い。でも面白くてビックリするもの見せてあげるよ」

とだけ言った。

その言い方が何かシャクに触り、絶対負けない!!と気を持ち直した所で

「スタートッ!!」

と彼女が叫んだ。

私は狭い入口を開けて、中に入った。

ゴザのような物が敷いてあり、どうやら蒸し風呂らしかった。

下に腰を降ろそうとかがむと……

「バタンッ」

自分で扉を戻す前に、外から思い切り閉められてしまった。

キャキャキャと笑う声がする…。

「ちょっと…サユリちゃん??…サユリちゃんっっ??」

ガタガタと扉を動かしても、一向に開く気配はない。

焦った私は

「えーっなんでっ!?

なんでこんなヒドイ事するんっ??

サユリちゃーん!!

サユリちゃーーーんッッ!!!」

子供のプライドも捨て、泣いて叫んだと思う。

わぁんわぁん、大声で泣き、助けを求める私を無視し、そのキャキャキャという笑い声は段々遠のいていってしまった…。

じわじわと蒸す、狭い石のかまくらの中で私は泣き疲れ、次第に意識が薄くなりかけていたその時、サァーッと冷たい風が体中を包んだ。

扉が開いていた。

誰かが中に入ってくる。

喉が渇き過ぎて、私は上手く喋れなかった。

「ちょっと大変!!中で子供が倒れてるよっ!!」

多分、そんな様な会話が聞こえた。

体がふわっと浮いたと思ったら、ゆらゆらと揺れ始めた。誰かが私を外に抱え出してくれたみたいだ。

どこかの部屋に運ばれ、水をゆっくり飲ませてくれた。

…いつのまにか眠ってしまったらしい。

私の布団の周りにはたくさんの知らない大人の顔があった。

「あーっ良かったーー!!」

「目ぇ覚ましたけ??」

一斉に話しかけられ、怖くなった私は、せっかく助けてくれた人達の前でまた泣いてしまった。

無事で本当に良かった…だけど、どうして風呂から出なかったの?…と大人達に聞かれ、私は事のいきさつを全て話した。

とんだガキがいるもんだと、みんな憤慨していたが、その後、サユリちゃんを館内で見かけることはなかった。

気まずくなって早々に帰ったのか、洋館の方に泊まっていて、たまたま会う機会がなかったのか、それとも……いずれにしろ、あんな恐ろしい子には二度と会いたくなかった。

母と祖母は激怒して、相手の親に一文句つけたかったようだが…。

15年以上も前のG楼に行った事がある方、このサイト利用者の中にどれくらいいらっしゃるかわかりませんが、当時の独特な雰囲気をご存知の方なら、あのかまくら風呂でこんな体験をしたら、かなりのトラウマになること、解って頂けるのではないでしょうか。

現在も営業しているなら、昔の面影が残っているのか、今一度確かめたいものです…。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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