短編2
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赤い登山道

これは親戚の登山家から聞いた話です。

私の親戚は登山家で週末になると決まって山へ出かけて行く。

そしてよく私はその時の話を聞いていた。

その日は標高6000mの山の登頂を試みた。

山頂付近は猛烈な風でまっすぐ歩くことも困難なくらいだ。

ふと周囲に目をやれば、ロープにつられたままの遺体がある。

まさに「死の領域」と言っても過言ではない。

そこで彼は不思議な体験をしたと言う。

それは、6合目あたりの最後の休憩地点あたりでの出来事だ。

ここまで来るとあらゆる生物は存在することはできない。

しかし、真夜中2時を回ったぐらいの事だ。

彼は大勢の足音で目を覚ました。

先ほどまでテントの外は風の音しかない静寂の世界だった。

しかし、その時は雪道を歩く無数の足音でいっぱいだった。

仲間たちも異変に気づき、目を覚ました。

彼らは恐る恐るテントを開いて見た。

するとそこには大勢の人間たちがただひたすらに雪道を歩いていた。

その行列は先が見えないほど続いていた。

しかし、その人間たちの目はもうろうとしていてこの世のものとは思えないような面相でじっとこちらを見ている…。

顔や足には無数の傷…

そして顔の半分はぐちゃぐちゃで骨が見えている。

あきらかにその人間たちは死んでいる…

しかし、不思議と怖いという気持ちはなかった。

ただじっとその行列を見ていた…。

気づくと朝だった。昨日とは大違いの晴天の青空が広がっていた。

夢だったのか…と心の中でつぶやいた。

そしてまた登頂に向けて身じたくを済ませ、テントを出た。

するとそこには夕べ見た赤く染まった雪道が広がっている。

彼らはその時初めて恐怖を感じた。

結局彼らは登頂を断念した。

さすがに登る気にはなれなかったのだ。

それ以来親戚は登山をきっぱり辞めてしまった。

幸い、彼はいまでも元気に暮らしている。

でも…この話を話してくれた彼の顔は忘れられない。

shake

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