ある夏の夕方でした。
僕は買い物に出かけていて、その帰りだった。
空はどんよりとした灰色の厚い雲に覆われていて、そのうちポツポツと雨が降ってきた。僕は急ぎ足になって帰り道を歩いた。
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30分くらい歩いて、僕は違和感を覚えた。
いつまで経っても家に着かないのだ。おまけに、さっきから誰ともすれ違わない。
運よく、土砂降りだった雨は小雨になっていたものの、僕はずぶ濡れだった。
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はやく帰りたい気持ちもあり、焦ってそこらの道を行ったり来たりしているうちに、陽はどんどん沈んで行き、ついに夜になってしまった。
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小雨は止むことなく降り続いていて、夏だけど僕は体を冷やしてしまい、頭痛などの症状にも見舞われた。
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ついに、僕はその場にへたり込んでしまった。
だがしばらくして、へたり込んでいる僕の前に誰かが手を差し伸べた。
見るとそこには、街灯の白い光に照らされた、綺麗な黒髪の女性がずぶ濡れになりながら僕に手を差し伸べていた。
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僕はこの時、とてつもない安心感に見舞われた。「ありがとうごさいます」と、彼女の手を取り立ち上がった。
白いワンピースを着こなしている彼女は何も言わない。ただ微笑んでいるだけだ。本当に綺麗な人だった。
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「あ、すみません。どうも道に迷ったみたいで。」
と、僕は苦笑い。彼女は口元に手をやってクスクスと笑った。
そして僕の手を掴んで歩き出した。
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こんな美人な人に手を引っ張って歩いてもらっている。
そう思うと、今日、道に迷ったことがラッキーであるように感じられる。僕はただ微笑んで歩く彼女に手を引かれながら歩いた。
まるで夜のデート気分だった。
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しばらく彼女に手を引かれながら歩いていたが、買い物袋がないことに気がついた。
おそらく、へたり込んでいた場所に置いてきてしまったのだろう。
僕は一つのことに気がつくと、他のことにも頭が回り、連鎖していろいろなことに気がつく人間だった。
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気がつくと、小雨も止んでいる。
僕は彼女に手を引かれるまま歩いていたが、周りは民家以外に建物がなく、民家の他には街灯がポツポツとあるだけだ。
そして、へたり込んでいた場所から歩き始めて以来、僕は彼女の顔は見ていないし、僕はいつの間に彼女の顔を思い出せなくなっていた。
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さすがに少々、不気味になってきたので、話しかけようとするが、ついに周りに街灯がなくなり、辺りは暗くなった。
それでも彼女はなんの迷いもなく、僕の手を引いて暗闇を歩き続けている。
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「あのぉ、ここはどこでしょうか」
と、僕は尋ねた。しかし彼女からの返事はない。
彼女が急に立ち止まり、僕もそれにつられて立ち止まった。
そろそろ目が暗闇に慣れて来たので僕は目を凝らした。
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どうやらここは橋のど真ん中らしい。橋の下には川が流れているが、見たこともない景色だ。
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すると彼女は川に目をやる僕の背後に周り込み、僕の背をポンポンと軽く押した。
僕はわけがわからず彼女の方を振り向いた。
最初のうち軽く押す程度だったが、彼女の力はだんだん強くなっていく。
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僕は身の危険を感じて、その場から逃げ出した。
道とかまったくわからなかったが、とにかく走った。
数十分のあいだ僕は後ろを振り向くことなく走り続けた。
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しばらく走っていると、見覚えのある道に出てきた。街灯に照らされて、買い物袋が置いてあるのがわかる。
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あれは間違いなく、僕の買い物袋だ。そう思って買い物袋を手に取り、また走った。
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あれからどれくらい走ったかわからないが、前方にローソンが見えてきた。
涙が出そうになったが、僕はその涙を堪えて、ローソンの駐車場で休憩することにした。
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買い物袋の中はグチャグチャだ。
家路に着くため僕は再び歩き出した。
このローソンから僕の家までは近い。僕は早歩きで、家に向かってあるいた。
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そのまめ何事もなく家に着き、鍵を開けて中に入った。玄関の電気をつけようと、スイッチに触れた時、僕はゾッとした。
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スイッチが濡れている。
僕の手が濡れているだけだと思い出い、電気をつけると、廊下はビショビショに濡れていた。唖然としながら、廊下の突き当たりにある部屋へのドアを見た。
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ドアの曇りガラスに白い人影が見えた。
僕は急いで玄関のドアを開けようとしたが、鍵が掛かっていないはずなのにドアが開かない。
すると、
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廊下の突き当たりのドアがゆっくりと開いた。そこにはさっきの白いワンピースを着た女が突っ立っていた。だが、その顔は紫色に変色していて、目は白く濁っている。
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僕は大声をあげた。
その瞬間、女が物凄い勢いで走って来て、僕に飛びかかってきた。
僕はそのまま意識を失った。
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その後、僕は普通に目を覚まし、まるで何事もなかったように家の中も濡れてはいなかった。
頭が痛かったので、洗面台に行き鏡の前に経つと、
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僕の顔は紫色に変色していて、目は白く濁っていた。
作者もきち
まだまだ、未熟者ですが、よろしければ読んでみてください。