長編8
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パンドラの話

複雑で難しい話なので文章にするのがとても大変でした。

理解できた部分を中心に私なりにまとめたつもりですが、それゆえ説明不足になってしまっている部分なども多いと思います。

また、私がパンドラについての詳細を知ったのはつい最近ですが、全容を聞けたわけではありません。

ここに書かれていない部分などは私も知らない事だと思ってください。

代々、母から娘へと三つの儀式が受け継がれていたある家系にまつわる話。

まずはその家系について説明します。

その家系では娘は母の「所有物」とされ、娘を「材料」として扱うある儀式が行われていました。

母親は二人または三人の女子を産み、その内の一人を「材料」に選びます。

(男子が生まれる可能性もあるはずですが、その場合どうしていたのかはわかりません)

選んだ娘には二つの名前を付け、一方は母親だけが知る本当の名として生涯隠し通されます。

万が一知られた時の事も考え、本来その字が持つものとは全く違う読み方が当てられるため、字が分かったとしても読み方は絶対に母親しか知り得ません。

母親と娘の二人きりだったとしても、決して隠し名で呼ぶ事はありませんでした。

忌み名に似たものかも知れませんが、「母の所有物」であることを強調・証明するためにしていたそうです。

また、隠し名を付けた日に必ず鏡台を用意し、娘の10、13、16歳の誕生日以外には絶対にその鏡台を娘に見せないという決まりもありました。

これも、来たるべき日のための下準備でした。

本当の名を誰にも呼ばれることのないまま、「材料」としての価値を上げるため、幼少時から母親の「教育」が始まります。

(選ばれなかった方の娘はごく普通に育てられていきます)

例えば…

・猫、もしくは犬の顔をバラバラに切り分けさせる

・しっぽだけ残した胴体を飼う

(娘の周囲の者が全員、これを生きているものとして扱い、娘にそれが真実であると刷り込ませていったそうです)

・猫の耳と髭を使った呪術を教え、その呪術で鼠を殺す

・蜘蛛を細かく解体させ、元の形に組み直させる

・糞尿を食事に(自分や他人のもの)など。

全容はとても書けないのでほんの一部ですが、どれもこれも聞いただけで吐き気をもよおしてしまうようなものばかりでした。

中でも動物や虫、特に猫に関するものが全体の3分の1ぐらいだったのですが、これは理由があります。

この家系では男と関わりを持つのは子を産むためだけであり、目的数の女子を産んだ時点で関係が断たれるのですが、条件として事前に提示したにも関わらず、家系や呪術の秘密を探ろうとする男も中にはいました。

その対応として、ある代からは男と交わった際に呪術を使って憑きものを移すようになったのです。

それによって自分達が殺した猫などの怨念は全て男の元へ行き、関わった男達の家で憑きもの筋のように災いが起こるようになっていたそうです。

そうする事で、家系の内情には立ち入らないという条件を守らせていました。

こうした事情もあって、猫などの動物を「教育」によく使用していたのです。

「材料」として適した歪んだ常識、歪んだ価値観、歪んだ嗜好などを形成させるための異常な「教育」は代々の母娘間で13年間も続けられます。

その間で三つの儀式の内の二つが行われます。

一つは10歳の時、母親に鏡台の前に連れていかれ、爪を提供するように指示されます。

ここで初めて、娘は鏡台の存在を知ります。

両手両足からどの爪を何枚提供するかはそれぞれの代の母親によって違ったそうです。

提供するとはもちろん剥がすという意味です。

自分で自分の爪を剥がし母親に渡すと、鏡台の三つある引き出しの内、一番上の引き出しに爪と娘の隠し名を書いた紙を一緒に入れます。

そしてその日は一日中、母親は鏡台の前に座って過ごすのです。

これが一つ目の儀式。

もう一つは13歳の時、同様に鏡台の前で歯を提供するように指示されます。

これも代によって数が違います。

自分で自分の歯を抜き、母親はそれを鏡台の二段目、やはり隠し名を書いた紙と一緒にしまいます。

そしてまた一日中、母親は鏡台の前で座って過ごします。

これが二つ目の儀式です

この二つの儀式を終えると、その翌日〜16歳までの三年間は「教育」が全く行われません。

突然、何の説明もなく自由が与えられるのです。

これは13歳までに全ての準備が整ったことを意味していました。

この頃には、すでに母親が望んだとおりの生き人形のようになってしまっているのがほとんどですが、わずかに残されていた自分本来の感情からか、ごく普通の女の子として過ごそうとする娘が多かったそうです。

そして三年後、娘が16歳になる日に最後の儀式が行われます。

最後の儀式、それは鏡台の前で母親が娘の髪を食べるというものでした。

食べるというよりも、体内に取り込むという事が重要だったそうです。

丸坊主になってしまうぐらいのほぼ全ての髪を切り、鏡台を見つめながら無我夢中で口に入れ飲み込んでいきます。

娘はただ茫然と眺めるだけ。

やがて娘の髪を食べ終えると、母親は娘の本当の名を口にします。

娘が自分の本当の名を耳にするのはこの時が最初で最後でした。

これでこの儀式は完成され、目的が達成されます。

この翌日から母親は四六時中自分の髪をしゃぶり続ける廃人のようになり、亡くなるまで隔離され続けるのです。

廃人となったのは文字通り母親の脱け殻で、母親とは全く別のものです。

そこにいる母親はただの人型の風船のようなものであり、母親の存在は誰も見たことも聞いたこともない誰も知り得ない場所に到達していました。

これまでの事は全て、その場所へ行く資格(神格?)を得るためのものであり、最後の儀式によってそれが得られるというものでした。

その未知なる場所ではそれまで同様にして資格を得た母親たちが暮らしており、決して汚れることのない楽園として存在しているそうです。

最後の儀式で資格を得た母親はその楽園へ運ばれ、後には髪をしゃぶり続けるだけの脱け殻が残る…そうして新たな命を手にするのが目的だったのです。

残された娘は母親の姉妹によって育てられていきます。

一人でなく二〜三人産むのはこのためでした。

母親がいなくなってしまった後、普通に育てられてきた母親の姉妹が娘の面倒を見るようにするためです。

母親から解放された娘は髪の長さが元に戻る頃に男と交わり、子を産みます。

そして、今度は自分が母親として全く同じ事を繰り返し、母親が待つ場所へと向かうわけです。

ここまでがこの家系の説明です。

もっと細かい内容もあったのですが、二度三度の投稿でも収まる量と内容じゃありませんでした。

なるべく分かりやすいように書いたのですが、今回は本当に分かりづらい読みづらい文章だと思います。

申し訳ありません。

本題はここからですので、ひとまず先へ進みます。

実は、この悪習はそれほど長く続きませんでした。

徐々にこの悪習に疑問を抱くようになっていったのです。

それがだんだんと大きくなり、次第に母娘として本来あるべき姿を模索するようになっていきます。

家系としてその姿勢が定着していくに伴い、悪習はだんだん廃れていき、やがては禁じられるようになりました。

ただし、忘れてはならない事であるとして、隠し名と鏡台の習慣は残す事になりました。

隠し名は母親の証として、鏡台は祝いの贈り物として受け継いでいくようにしたのです。

少しずつ周囲の住民達とも触れ合うようになり、夫婦となって家庭を築く者も増えていきました。

そうしてしばらく月日が経ったある年、一人の女性が結婚し妻となりました。

八千代という女性です。

悪習が廃れた後の生まれである母の元で、ごく普通に育ってきた女性でした。

周囲の人達からも可愛がられ平凡な人生を歩んできていましたが、良き相手を見つけ、長年の交際の末の結婚となったのです。

彼女は自分の家系については母から多少聞かされていたので知っていましたが、特に関心を持った事はありませんでした。

妻となって数年後には娘を出産、貴子と名付けます。

母から教わった通り隠し名も付け、鏡台も自分と同じものを揃えました。

そうして幸せな日々が続くと思われていましたが、娘の貴子が10歳を迎える日に異変が起こりました。

その日、八千代は両親の元へ出かけており、家には貴子と夫だけでした。

用事を済ませ、夜になる頃に八千代が家に戻ると、信じられない光景が広がっていました。

何枚かの爪が剥がされ、歯も何本か抜かれた状態で貴子が死んでいたのです。

家の中を見渡すと、しまっておいたはずの貴子の隠し名を書いた紙が床に落ちており、剥がされた爪と抜かれた歯は貴子の鏡台に散らばっていました。

夫の姿はありません。

何が起こったのかまったく分からず、娘の体に泣き縋るしか出来ませんでした。

異変に気付いた近所の人達がすぐに駆け付けるも、八千代はただずっと貴子に泣き縋っていたそうです。

状況が飲み込めなかった住民達はひとまず八千代の両親に知らせる事にし、何人かは八千代の夫を探しに出ていきました。

この時、八千代を一人にしてしまったのです。

その晩のうちに、八千代は貴子の傍で自害しました。

住民達が八千代の両親に知らせたところ、現場の状況を聞いた両親は落ち着いた様子でした。

「想像はつく。八千代から聞いていた儀式を試そうとしたんだろ。八千代には詳しく話したことはないから、断片的な情報しか分からんかったはずだが、貴子が10歳になるまで待っていやがったな。」と言って、八千代の家へ向かいました。

八千代の家に着くと、さっきまで泣き縋っていた八千代も死んでいる…住民達はただ愕然とするしかありませんでした。

八千代の両親は終始落ち着いたまま、「わしらが出てくるまで誰も入ってくるな」と言い、しばらく出てこなかったそうです。

数時間ほどして、やっと両親が出てくると「二人はわしらで供養する。夫は探さなくていい。理由は今に分かる。」と住民達に告げ、その日は強引に解散させました。

それから数日間、夫の行方はつかめないままだったのですが、程なくして八千代の家の前で亡くなっているのが見つかりました。

口に大量の長い髪の毛を含んで死んでいたそうです。

どういう事かと住民達が八千代の両親に尋ねると、「今後八千代の家に入ったものはああなる。そういう呪いをかけたからな。あの子らは悪習からやっと解き放たれた新しい時代の子達なんだ。こうなってしまったのは残念だが、せめて静かに眠らせてやってくれ。」と説明し、八千代の家をこのまま残していくように指示しました。

これ以来、二人への供養も兼ねて、八千代の家はそのまま残される事となったそうです。

家のなかに何があるのかは誰も知りませんでしたが、八千代の両親の言葉を守り、誰も中を見ようとはしませんでした。

そうして、二人への供養の場所として長らく残されていたのです。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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