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中編4
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謎のバアサマ

12月、風がやたら冷たくて、雪もちらちら舞っている暗い午後。

買い物から戻り、車から降りた途端、一際強い北風が吹いた。

そのせいか、私の右目の下まつげ辺りに違和感を覚え、「ゴミ?」…確認しようと手を伸ばすとポロリッと何かが目から落ちた。

一瞬にして右目の視界がボヤけ、「ウワッ、コンタクト落としちゃったよ…」

気付いた私は慌てて地面にしゃがみ込み、必死でコンタクトを探し始めた。

ああ…すっごくわかりづらい!!

普通、真っ平らな所にレンズがあれば、光の角度によって反射し見つけ易いのだけど、地面は凹凸がある上、その日は道路が濡れていたから表面全体がキラキラ光って見え、全くレンズの反射がわからなかった。

空は増々暗くなる一方。おまけに風の勢いも強くなりだし、私は半べそかいてコンタクトを探していた。

地面にベッタリへばり付く様に探していたら、遠くからキィッ…キィッ…という音が段々近づいてくるのが聞こえた。

…聞こえたけど、私の神経は『コンタクト探し』に集中していたから、そんな音はまるっきり無視して、目は地面を見つめたままだった。

『アンタ、何しとるの? 具合でも悪いんか?』

突然、肩を触られてビックリ。

地面から目をそらすと、小さい車輪が付いた手押し車みたいな箱型鞄、

それにもたれ掛かかりながらお婆ちゃんが立っていて、私を心配そうに見つめていた。

『あ…、大丈夫です……。

コンタクトレンズ落としちゃって……』

お婆ちゃんコンタクト解るかなぁ?と思いながら一応説明すると、やはり解らなかったのか、

『どんくらいのもんよ?』と聞き返してきた。

『小指の爪くらい…いや、もっと小さいかな。黒目に乗せるモノなんで…』

私はお婆ちゃんの声かけが有難くもあり、少々迷惑でもあった。

早くレンズを探したかったし、万一踏まれたりしたら…と不安だったのだ。

『本当、大丈夫ですよ!

心配して下さってありがとうございます!!』

私がそう言うと、お婆ちゃんは見つかるといいねぇ…と大きな鞄を押して去っていった。

日が落ちかけても私は寒空の下粘った。

家から懐中電灯を持ち出し、かじかむ掌で地面をひたすら撫でていると、また遠くからキィッ…キィッ……と音がしてくる。

振り返ると、さっきのお婆ちゃんだった。

私はペコリとお辞儀をして、また地面に顔を戻した。

お婆ちゃんはゆっくりゆっくり車輪のきしむ音と共に遠ざかっていった。

………が。

またしばらくすると、キィッ、キィッと近づいてきたのだ。

私に何か話しかける訳でもなく、ただ横を通り過ぎていくだけ。

始めのうちは「私を心配してくれてるのかな」と、申し訳なく思ったけど、どうやら違うのに気付いたのは、お婆ちゃんが数回目に通り過ぎた時だった。

しゃがんでいる私をうとましそうに見ていた……。

その佇まいは薄気味悪く、なんだか背中の辺りがゾッワ〜。

レンズ探しにいい加減疲れていた私は中断して数メートル先の自宅に戻ることにした。

コンタクトは悔しかったけど、それよりも近所では見かけないさっきのお婆ちゃんが、何度も何度も行き来していた事が妙に気になった。

その夜。

私は帰宅した父からコワイ話を聞いた。

『今、ウチの駐車場の所に変な婆さんいたぞ。

お前の車の横から大っきい乳母車みたいなもん持って出てきて、ガタガタ動かすから、「人ん家の敷地で何してんだっ!!車傷付くだろうがっ!!」って怒鳴ってやったら、そそくさと逃げてったよ…。

なんだったんだ、あの婆さん……』

…私は本気で怖くなった。すぐにコンタクト事件の話を父にした。

父が見たお婆さんの感じと(背はそんな低くなく、割とシャンとした感じ)、私が遭遇した人とは特徴がよく似ていた。

あのお婆ちゃんは私に何か恨みでもあるのっ!?

だって初対面だよっっ??

一体ナニ……!?!?

わけがわからない……。

次の朝、明るくなってから私は車の様子を確かめに我が家の駐車場に行った。だが特に目立つような傷は見当たらなかった。

ふと、駐車場の脇に植えてある木に目がいく。

父が夏みかん?かスウィーティー?か、とにかく柑橘系の種を植えておいたらいつの間にか実を付け、何十個となっていたのだけど、今見たら残り数個しかない。しかも小さいの…。

………!!

お婆ちゃん………。

大きな乳母車って……。

このみかん盗むためかよーーーーっっ!!!

私は拍子抜けした。

あのしつこい往復は、「みかんの偵察」だったのだ…。

確かにみかんは大きく育ち、丸々として食べ頃を迎えていた。

父は自分で植えたくせにみかんの存在に関心が薄かったようだ。

かくいう私もそうだけど。

……みなさん、どうか怒らないで下さい!

私、謎が解けるまでの一夜、本当に心底ビビッていたんです…。

お婆ちゃんの私を見る目が恐ろしくて、いろんな妄想したんです。

きっと、いつまでも家の周りをうろつく私を、みかん泥棒の「ライバル」と、お婆ちゃんは思っていたのかもしれません。

私がそこの家の娘とは知らずに。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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