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中編3
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彼女のハコ

彼女はとても寂しがり屋だった。彼女はそれ故に、彼に対し重すぎるほどの愛情を求めた。

彼女は繰り返し堕胎をした。その胎児は、全て彼の子供だった。

そして、彼女は彼に捨てられた。

彼からの愛情を一身に受けるため、彼の望むままに体を開き、彼の言われるままに子供を殺した結果、彼は彼女を「簡単に子供を殺す最低な人間」と自分のことは棚に上げ、彼女をゴミのように捨てた。

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彼女はオカルト関連の話が好きだった。いわば、これは必然とも言える話だったのかもしれない。

彼女の中に宿った四人目の命は、流産という形で消えていった。

彼女はかなり落ち込んだが、しらばくして、彼女は彼女の唯一ともいえる友人に電話をした。友人は常々彼女に忠告はしていたが、やはりこの事実は悲しいもので、彼女のために泣き、彼に対し憤った。だが彼女は笑っていた。

とても楽しそうに。

「あのね、私、作ったよ」彼女は弾んだ声音で言う。

なんのことかと友人が電話口で首を傾げる。

その様子が伝わったのか、彼女は明るい調子で笑う。

「コトリバコ、案外簡単に作れるんだね」

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コトリバコ

その言葉を聞き、友人の背筋に怖気が走った。

それはネットでまことしやか囁かれている怪談。

実話なのか創作物なのかは分からない、しかし触れるにはあまりにも危険な『箱』の話。

材料さえ手に入れることができれば、確かに作るだけなら簡単だろう。

だが、その材料が問題なのだ。

誰もが閲覧可能なネットの話。もちろん、友人も話としては知っていた。

友人は閉口し、口の中に溜まった唾を飲み下す。

「あ、大丈夫! 材料は全部私のだから! あ、寄木だけ通販だった」

彼女は友人が黙っていることを気にせず話し続ける。

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「赤ちゃんってね、簡単に出てくるんだよ。お腹ばんばんしてたら、血と一緒に流れてくるの」

友人は想像する。にんまりと下弦の月のように目を細め、激しく己の腹を打ち付ける彼女の姿を。

「びっくりするよね、お風呂が血の海になるの」

腹にアザを作り、ぼろぼろの姿でニコニコと聖母のような笑みを浮かべる彼女。

「でも、ちゃんと洗面器に溜めたよ」

偉いでしょ?と友人が褒めるのを待つ彼女。

その場にもいないにも関わらず、友人には無邪気な笑顔を浮かべる彼女の姿が見えていた。

「ハラワタを絞った血、って書いてあったけど、お腹のあたり潰した血でいいよね」

あまりにもおぞましいその光景に、友人は口元を手で覆う。

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彼女は恥ずかしげに言う。

「直接持って行ってあげた方がいいかな? でも、私、彼に嫌われたみたいで――」

「直接持って行ってあげなよ」

彼女の声を遮るように、友人は声を上げた。その様子に、彼女は嬉しそうに笑った。

「うん、そうだよね! 宅配がいいかなって思ったけど、やっぱり直接がいいよね……」

うっとりと、まるでプロポーズの言葉を待っているかのように、彼女は言葉を呟く。

「私、シアワセになるね」

友人は、それ以上の言葉が聞けずに通話を切った。

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彼女は実行した。自作の箱を彼の家に持って行き、通報され、精神病院に入院させられた。

「きっと、彼女はシアワセなんだろうね」

私に話し終えた友人は、ひどく寂しそうな笑顔を見せた。

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