中学2年生にあがる手前の春休み、私は家を引っ越しました。
東日本大震災の被害が著しい地域に住んでいたため、仮設住宅への引っ越しでした。そのため通う学校が変わったりはしていません。また家族7人で棲むには小さすぎたため、仮設のほかに借家も借りていて、仮設住宅には、私、姉、祖母、祖父の四人で暮らしていました。
それでも小さい仮設住宅。私は姉と二人部屋になり、二段ベッドの下段で寝ていました。
秋ごろだったでしょうか。いつもは二段ベッドの上段に姉が寝ていますが、その夜は姉は彼氏の家にいて、部屋には私一人でした。
その頃は部活命!!!な生活だったので、10時くらいに寝て、朝まで爆睡な毎日でした。
しかし、その日はなんとなく、トイレというわけでもなかったのですが、夜中に目が覚めてしまいました。(今何時だ…)そう思って枕元の携帯を見ようとしたその時、金縛りにあいました。部活疲れだろうと思ってはいるのですが、やはり金縛りとは慣れないもので、姉がいないことと相まって凄く怖くなりました。すると隣の茶の間にある時計の音が聞こえました。何もできない私は時計の鳴る回数で、いまが何時なのか把握しようと思いました。
ボーン、ボーン、ボーン……ボーン。
12回なりました。
つまり今は深夜12時。
深夜12時ぴったりに金縛りにあっていると考えるだけで私は泣きそうでした。
すると信じられないことが起きました。
最近温泉などの売店に売っている、パカパカと動きながらまわりの音や声を可愛い声で真似する人形があるのですが、あれを私は枕元においていました。お尻のあたりにスイッチがあって、ONにするとまわりの物音を何でも真似してうるさいので、普段はOFFにしていました。もちろんその夜もOFFにしていました。少しぶつかったりしただけでONに切り替わるようなスイッチではありません。
しかし、時計が鳴りやんだ途端、枕元の人形から、
shake
「ボーン、ボーン、ボーン」と茶の間から聞こえた時計の音が、可愛い声に変換されて聞こえてくるのです。その可愛さもこの状況下では大変気持ち悪かったです。また、いくらまわりの物音を拾うからといって、たまたま夜中でシーンとしていて私の耳に届いというだけで、この人形が時計の音を拾うには音が小さすぎる。まずなんでこいつはONになってるんだ。狂ったように上下しながら
shake
「ボーン、ボーン、ボーン」という奇声を発し、人形はベッドから転げ落ちました。そしてベッドの下で12回目のボーンを言い終わると、あたりはまたシーンとしました。
今思えば、ベッドから落ちるほど激しく動くような人形ではなく、大変恐ろしいです。が、このときは正直ベッドからいなくなってくれたことに安堵していました。
その間も金縛りはとけません。
気づくと私は寝ていました。
朝起きて、私はすぐに枕元の人形を確認しました。やはりいません。ベッドの下をみると、それは横たわっていました。
夢ではないんだな。そう思いました。
しかし拾い上げた人形のスイッチは入っていませんでした。
はぁ…嫌な感じだ…
そう思いながら茶の間に入り時計をみた私はあることに気付いてさらに恐怖に突き落とされました。
震災前に住んでいた家の茶の間の時計は、たしかに音のなる時計でした。しかし、今私が住んでいる仮設住宅の時計は全世帯に支給された白くて丸い普通の壁掛け時計で、何時になったって音などならないんです。14年間住んでいた前の家の記憶が染み着いていた私は昨日の夜は気づけませんでした。我が家に音のなる時計なんてないんです。
私は一体何を聞いていたんでしょうか。スイッチの入っていない人形は一体なんの音を真似て暴れたのか。今となっても何もわかりません
作者あべっち
実体験です。