中編3
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乗り降り

pm4:00

この頃の私は公共事業社に営業に行く仕事をしていた関係で、いわゆる工事現場に行く事が多かった。当時、高速道路関連の工事が多く、その現場は山奥が多かった。

季節は冬。明日の朝アポが取れた業者の現場事務所を探しに、車で山に登った。

当然今からできる物なので、ナビにも出て来ず、目印もない。大まかな場所を聞いて、下見をしておかないと現場にたどり着かない事もあったので、その予防策である。

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少し日も落ちてきた。

よくある話だが、薄暗くなった山道を走っていると道を間違える。

この日も間違って、右に曲がる道を、左に行ってしまった。

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PM5:30

本格的に当りも暗くなってきた。雨もぱらついている。

辛うじて舗装された細い道を車で走っていく。

段々細くなっていく道と、ラジオも途切れて、携帯も圏外。Uターンもできそうにないから、とりあえず広い所まで。この時道を間違っている事にはなんとなく気がついている。

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PM6:00

ゆっくりとくねくねした道を走りながら、お目当ての工事看板(工事現場にある、内容や工期、施工業者が書いてある看板)は見つからない。

雨も強くなってきた。 すると小さな洞窟の様なトンネルが見えてきた。

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恐らく10m無いくらいの短いトンネル。

そのトンネルの途中で、ライトの先に工事看板が見えた。

「やっと帰れる」

トンネルの中で車を止め、その先にある看板を見に行った。

大粒の雨が傘にあたり、うるさい。

しかし車のライトに照らされたその看板は、違う工事の物で、やはり道を間違っていたことを確信した。

少しがっかりしたのと、もういいやっていう諦めから、もう帰る事にした。

振り返り、車に戻ろうとした時だった。

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トンネルの中なので、車のドアを開けたまま来た私。

ただなぜか、助手席側の後部座席のドアも開いていた。

古い車だったし、そんな事は気にしない。

それもよりもそのトンネルの両サイドの壁が、石で穴が塞がれているようなところが各2ヶ所くらいあってそちらの方が不気味であった。

後部座席のドアを閉め、元来た道を帰っていく。

少し慣れたので、帰りは早かった。

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PM6:30

細い道を抜け、少し大きい道に出た時、仮設の時差式の信号に引っかかった。

すると前から警備のおじさんがやって来た。

「すいません、この雨で前の方でトラックがぬかるみにはまって動けなくなってしまったから、ちょっと待っててくれないですか?10分程なんで」

私は了解して、連絡を待った。

しかし、10分どころか、20分待ってもおじさんは来ない。

もういいかと発進すると、前から「ピピピピピ」と笛を鳴らしたおじさんが走って来た。

窓を開け話を聞くと、少し動いてまた動かなくなってしまったらしい。

おじさんは泥だらけになっている。

道路は通れるとの事なので、そのまま通って帰ろうとし、再度発進した時だった。

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「ピピピピピ」

車を止めて窓を開け振り返るとまた笛を鳴らしたおじさんが走ってくる。

「後ろのドア開いてますよ」

すると、後部座席のドアがまた開いていた。

「さっきも開いたんですよ。これ古いからガタ来てるんじゃないですかね?」

私がそういうと、おじさんは続けて言った。

「そうなんですか、危ないですね。ところでさっき後ろに乗ってた人はどちらに?」

「私は、ずっと1人ですよ」

私がそういうと、おじさんは気まずそうな顔で「あーそうですか」と言って頭を下げた。

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