お婆さんは小泉八雲や浜田廣介の話が得意で
私は話を聞くのが楽しみだった。
父や母は忙しくなると帰宅は夜中の1時が当たり前になり
私はいつもお婆さんと一緒に昔話を聞いて寝ていた。
そんなある日。
何時ものように寝床で私に話し始めると障子に黒い影が出来て
おじいさんが悪さをしていると思っていた。
お婆さんも「おじいさんが寂しくて障子の陰で聞いている」と言うと
「爺さんこっち入って、孫の相手しなさい。」と
お婆さんは障子を思い切り開けた。
するとそこには誰もいなかった。おじいさんは障子が空く音を聞いて
自分の部屋の障子をあけて顔を出した。
それを見たお婆さんの顔色が変わった。
「魔物が覗いていた。大変な事が起きる」と言うと急いで仏間に向かった。
私はちょうど眠くなり、目をこすりながら仏間に向かい廊下を歩いていた。
仏間に向かう途中は二つ部屋の前を通らなくてはいけない。
一つはおじいさんの部屋もう一つは、物置に使っている部屋でした。
物置部屋の前を通る時でした。物置部屋の戸が少し開いていて私は何気なく
障子に手を掛けました。するとその隙間から私の手を同時に握る
男の手が伸びてきた。私は驚き叫ぼうとしましたが、男は私の口を
抑えると、物置部屋に連れ込みました。
男は「歯をむき出し気味の悪い声で笑いました。ヒヒヒヒヒ」
その声を聞いたとたん私は、怖さでただ震えていました。
男は私に向かい「騒ぐな、お前が騒ぐと俺はお前を殺さなくては行けない。俺は
何年も倉の中の掛け軸に閉じ込められていた。昨日お前の親父が運良く俺が中に居る
掛け軸を開けたのだ。俺はもう100年近くの間この日を待っていたのだ。
お前が騒ぐとこの絶好の機会を失う。言いかしゃべるな。」
と言うと男は口にあてた手を離した。
私は男の顔を見た。しかし鼻から上がぼやけて煙のようになっていて
全体を見ることは出来なかった。
男は私を見ると「お前あの婆さんの孫か?婆さんをしのぐ霊力がある。」と言うと
「俺の姿も見えるだろう」と言うと私を見降ろした。私はうなずいた。
すると思い出した様に男は話した。「お前の婆さんもだがその前の婆さんも霊力が強く
それにより俺は封じ込められた。これから俺の一番憎い相手に仕返しをするために
俺は出かける。」そういうと私の前から消えた。
私は怖さでお漏らしをしていた。
おばあさんが居る仏間に入ると、思い切り泣いた。
お婆さんは、怖い目に会ったことを告げなくても判っているように
「もう怖くない。私が離れたのが悪かった、今日はおじいさんとお休み」と言うと
私のパンツを取り替えて、おじいさんの部屋で休んだ。
次の朝。お婆さんは倉にある男が抜け出した掛け軸を持ってきて仏間に掛けると
お経のほかに何やら聞いたこともない呪文を唱えて拝むと
掛け軸に仏壇の水を口に含め吹き付けた。
吹き付けて濡れた個所の色が見る見るうちに白く濁ったように周りの色に
溶け込み、大きな穴のようなものが出来た。
私はそれを見て驚いてお婆さんに聞いた。「お婆さんそのシミは何」
「これは、昨日抜け出した魔物を封じ込める穴だよ」
さ、「お前は魔物と昨日しゃべっている。正直に昨日の事をお話」というと
お婆さんは聞き耳を立てた。私は昨日の事を正直に話した。
お婆さんの表情が急に変り「和尚が危ない、早く行かないと殺される」と言うと
掛け軸を丸め、私に掛け軸を持たせると仏壇の裏から色々な物をだした。
それを持つとお寺に向かう道を急いだ。
お寺の門の前に着くと、いつもはそのまま入るのだが今日は裏口に回り
裏口の門の中に私が入りお婆さんは門の外で和尚を待っていた。
間もなく私と和尚が裏門の前に着いた。
お婆さんは和尚の顔を見て何時もの通りだと確認するとホッとして
和尚に話し始めた。「昨日この掛け軸から以前和尚の親父殿と私の母親が
が封じ込めた魔物が抜け出した。」と言うと和尚の顔が引きつって来た。
「魔物はどこに」和尚がささやくとお婆さんは
「もうこの寺のどこかに隠れて和尚の隙を狙っている。」と告げた。
「お婆さんどうすればいいのでしょうか?私は言い伝えは聞いていたが
3代目で何もわからない。」と言うと
お婆さんは「私に任せなさい。先代が封じ込めたように私が封じ込めましょう」
と言いお寺の本堂に向かった。
お婆さんは本堂に着くと、ビンに入った水と百目ロウソクと何やら粘土のような
塊を出して、仏像の前に置き百目ロウソクを立てると火をつけて拝み始めた。
和尚もそれにつられるように拝み始めると風もないのにロウソクの炎が長く延び始めた。
私はそれを見て驚いた。炎は30cm以上伸びて細くなり、風もないのに揺れていた。
私は目を凝らして周りを注意深く見まわした。
「居た。」昨日見た男がロウソクの炎にあぶり出されるように
私を見てわらっていた。
和尚とお婆さんに居る場所を教えると、和尚が掛け軸を手で開き
その男にかざした。そしてお婆さんは、いき良い良く男の影めがけて
口に含んだ、仏壇の水を吹き付けた。
私は怖さのあまり「お堂の柱にしがみつき、怖々見ていた。
男はギャーと言う声と共に吹き付けられた水と一緒に流れ
床に水たまりが出きその上に先ほどの掛け軸を覆うように和尚がかけた
男は掛け軸の中に吸い込まれるように消えて行った。
お婆さんは叫んだ「和尚封印じゃ。」
和尚は掛け軸を素早く丸め、ひもを結んだ。
お婆さんはそのひもの上から素早く百目ロウソクのロウを
ひもが埋まるぐらいかけてロウの塊が出来たところに
薬指にはめていた、指輪の印を押した。
お婆さんは「和尚この掛け軸をいつも供養している無縁仏の墓の納骨室に
入れて、だれも手を出さないようにしなさい」そう言うと
和尚は拝みながら、納骨室の奥へ掛け軸を納めた。
お婆さんは私の顔を見ると「終わったね」と言うとにこやかにほほ笑んだ。
お婆さんは家に着くと父を呼び叱りつけていた。
父は何が起きたのか判らず、お婆さんに謝っていた。
私とお婆さんは顔を見合わせて、「秘密、秘密、」と人差し指を口に立てた。
作者退会会員