昔は、テレビ局も今みたいにじゃんじゃん予算が使えるわけじゃなくてさ。
ビデオテープもよく使いまわしてたらしいんだよ。特に、テープをいっぱい使うドキュメンタリーとかだと。
だけど、一本、使いまわしても上書きする前の音声が影響を及ぼして、使いまわせないテープがあったらしいんだ。
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ハウリング音、ってわかるかな?
あんな感じで、「ピーッ」って聞こえる高い音が、上書きしても残っちゃったんだ。
テレビ局も怖いからお払いしてもらってから焼いたらしいんだけどね。
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うん。お払いしてもらわなきゃいけないようなことがあったんだよ。そのテープにはね。
なんと言っても、その映像を取ったスタッフのほとんどが死んじゃったくらいだから…。
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音声さんがロケの帰り道で発狂したり、カメラマンが交通事故で死んだり、プロデューサーが脳卒中で倒れたりしたときは、誰も本気では怖がってはいなかったんだけど…。
朝、テレビ局の編集室で変死体になって見つかった人が出て、テレビ局もこれが…例のテープのせいだと思って本格的に調査しようと思ったわけだ。
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それで、何人かでそのテープをチェックしようということになった。
そして、これはその人たちから漏れた話なんだ。…もちろん、その人たちももうこの世の人間じゃないけど。
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その件のテープってのは、ワイドショーに使おうとしてたテープだった。
そのころ、とある家で一家心中と思われる死体が見つかったんだ。家族4人、両親と小学生の姉妹ね。
で、その家を撮りに行こうってことになった。
家と行っても、数部屋しかない平屋建ての小さい…小屋と言っても差し支えないような建物だった。
で、テープは当然編集前だから、スタッフの話し声も入ってるのね。
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「あまりその辺のもの触るなよ、失礼だろ」
「いいだろ、別に…」
「なんか、いやな感じがするから早く帰ろうぜ?」
とか、そんな会話が入っている。
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で、いよいよ一番最後の部屋…心中があった部屋に入ろうとしたとき、音声さんが他のみんなを必死に止めはじめるんだ。
「聞こえないのかよ、ここは止めよう」
って。
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で、テープをよく聞くと、ぴーって甲高いハウリングのような音が入ってる。
これは現場でも聞こえていたらしい。
「ハウリングだろ?気にするなって」
「ハウリングなんかじゃねえよ!」
とかなんとか言い争いしてる間に、カメラマンが襖を開けて中を撮りはじめていた。
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中は、たった今まで人が住んでいた、って感じだった。
ビデオにも…算数のドリルとか、畳んだ夕刊とか…そういうのが転がっているのが映ってた。
絞殺と首吊りが死因だったんで血痕は残ってなかったんだけど、部屋のあちこちに暴れて物を倒したような跡があって、すごく生々しい光景だったんだ。
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そして、部屋をバックにリポーターの締めが録画される。
「おい、大丈夫か?」
正規の録画が終わった後、他の人が音声さんに声を掛けているのが聞こえる。
音声さんは、なんか震えるような声で、こう繰り返してるんだ。
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「殺される…殺される…」
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って。それでテープはおしまい。
で、全部見終わったあと、チェックしてた人たちの中の一人がこう言い始めた。
「例の部屋に入る直前のハウリング、襖を開けた途端に低くなりませんでした?」
って。
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どうも、音声さんが怯え始めたのはそのハウリングが聞こえてからみたいなんで、みんなそれが気になってはいるところだった。
んで、そこのシーンだけ何度か繰り返して再生してみたんだけど、何に音声さんが怯えているのかがわからない。
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で、誰かが何を思ったのか、スロー再生してみたんだよ、そのシーンを。
音声さんやカメラマンの言い争いが、スロー特有のあの低い声で再現される。
で、少しずつスピードを落していってそれが聞こえたとき、見ていた人たちは背筋が凍るかと思ったそうだ。
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ハウリングだと思っていたのは、実はすごく速く、何かが喋っているみたいなんだ。
で、だんだんスピードを落すと…現場では音声さんだけが聞こえていたらしいその言葉の内容がわかってくる。
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「…コノヘヤニハイルナコノヘヤニハイルナ…コノヘヤニハイルナ…」
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そう、スローに落すと、はっきりこう言ってるのが全員に聞き取れた。
「この部屋に入るな」
って。
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もう、それだけでチェックしていた人たちは怖くてテープを止めたかったんだけど、誰も動けずに…カメラマンが襖を開けるシーンになった。
確かにそこでハウリング音の質が大幅に変わっていたようだ。
言葉の内容がこう変わっていたから。
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「殺してやる…殺してやる…」
作者ペンネ
こちらからの転載となります。
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