昨年まで、私の一家はとある団地に住んでいました。そこは子供が少ない団地で、少子化もやはり深刻なのかしら…と思ったものです。我が家には5歳になる息子がいますが、遊び相手が少なく退屈しているようでした。
ある日、息子とスーパーに行く途中、団地内にある小さな公園の前を通ると、
「ボーチャン、今日いない」
と息子が呟いたんです。
私は初めて聞く名前だったので
「ボーチャンって、だあれ?新しいお友達出来たの〜?」
と聞くと、息子は嬉しそうに笑って
「うん、できた〜」
と小走りで駆け出していきました。
息子の友達が増えるのは私としても喜ばしいことだったので、今度うちに遊びに連れておいでとその時は伝えたのでした。
それから、息子の話には度々ボーチャンの名前が出てきたのですが、その子を家に連れてくることは一度もありませんでした。
ある日、近所の奥さん方と話していて、ふとボーチャンの名が浮かび、ご存知かどうか伺ってみると、皆さん知らないとのこと。
息子は多少滑舌が悪いのもあって、本当は「ボーチャン」ではなく、別の名前なのでは…とも思いましたが、結局詳細はわからず仕舞いでした。
途端になんだか不安になり、息子にボーチャンは何号棟に住んでいるのか尋ねてみると
「ボーチャンは住んでないよ。時々、公園にいるから一緒に遊ぶの。面白いよ」
と息子はニコニコして答えるだけ。
団地外の子が公園で遊ぶのは不思議ではありませんが何故か理由の無い胸騒ぎを覚えたので、息子には風邪が流行っているから当分の間公園には近付かないよう告げたのです。
次の日から息子はおとなしく家の中でおもちゃで遊んでいました。ちょっと可哀想かな…早く家事終わらせて相手してあげなきゃ…と部屋に様子を見にいくと、なにやら小さな声でブツブツ独り言を言っています。
そして突然、
「もうっ!うるさい!!」
と大声で怒り始めたんです。
私は何事かと驚いて
「ユウチャン、どうしたの?」
と駆け寄ると、息子はワーンと泣き出してしまいました。
理由を聞いても何も話さず、ただ泣くばかり。その日は最後まで怒り泣いた訳を聞き出すことはできず…。
年が明けて、久しぶりに息子と公園へ遊びに行くと、すっかり忘れていたボーチャンのことを思い出し、息子に
「今日はボーチャン来るかな?」と聞くと、
「もう来ないよっ!」
と顔をぷいと反らして走ってブランコへ行ってしまいました。
その後何日経っても息子がボーチャンの名前を再び口にすることは無くなってしまったのです。
あれだけ楽しそうに話していたボーチャンの話題がパタリと消えて残念なような、正直ホッとしたような、なんとも複雑な心境です。
私が引き裂いてしまったかもしれない二人の仲。
結果として良かったのか悪かったのか……。
息子の単なる空想上の友達であったのか、私を不安にさせる別の何かが存在したのかは引っ越した今、確認の術を見つけられません…
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話