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雨が降りしきり、夕日が差し始めたある夏の日。
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僕は隣県にあるとある心霊トンネルと呼ばれる場所に足を運んだ。
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ジメジメとした空気が足元からひんやりとした空気に包まれていくのが分かった。
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入口には立入禁止のゲートがあるが、まるで招き入れるかの如くその柵は中央に人が一人通れる口を開けていた。
ここは廃道である。
忘れられゆく運命にある
古めかしい隧道なのだ。
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中に足を踏み入れると、そこは漆黒の闇。
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手を伸ばせば、自分の掌が何処に在るのかもわからなくなるほどに。
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闇。
ここは…
そう、
ある一人の少女の命の灯火が消えた場所。
冷たい山水が天井から滴り落ち、地面に打付ける。
ただその音だけが闇に響き渡っている。
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…
目を瞑り、
静かに手を合わせた
「苦しかったよな…」
「辛かったよな…」
「助けを求めていただろうな…」
涙が
零れ落ちる
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少女は生きていたら僕と同い年だ。
あるとき、その罪無き少女はその短い人生を終えた。
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いや、終わらせられてしまったのである。
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誘拐殺人という罪を犯した一人の人間に。
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怖かっただろう
悔しかっただろう
寂しかっただろう
冷たかっただろう…
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合わせた手にいくつもの雫がおちてくる。
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僕の涙だろうか
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それとも
…彼女の涙だろうか
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…
彼女はまだ、1人で泣いているのだろうか。
助けを
…
求めているのだろうか。
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気付けば
地を打つ雫の音は
心なしか弾みをもって聴こえてくるように感じる
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…
彼女に
届いただろうか。
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…僕は
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「僕はここにいるよ…」
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一輪の花を壁に優しく添えると
僕は立ち上がる。
また来るよ。
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…
すると一呼吸もしない間に、
隧道の壁面がポロポロと崩れ、
一輪の花を覆い被した。
同時に、地を打つ雫の音が増えた気がした。
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「…もう泣かないで。」
そう一言言い残し、
僕は光に戻ってゆく。
後ろから聴こえる水の音は
穏やかだった。
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…
「泣き虫は嫌われるぞ」
そう言ったあの懐かしい夕暮れが鮮明に思い出される。
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ヒグラシが鳴き、夕立が降っていたあの日。
足を擦りむいた君の手を繋いで家路を急いだあの日を。
「また明日な、もう泣くなよ。」
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…それが最後の一言だった。
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君は今でも泣いているのだろうか。
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崩れゆく闇の中で。
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…
今日もまた
ヒグラシが鳴いている
夕日が差してきた
夕立が来たみたいだ。
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そんな時僕はまた、
君を思い出しては
ぽつり、
またぽつりと、
雫をこぼすことしかできないでいる。
作者凌生
この物語は、フィクションです。