夜、夢を見た。
夢と、信じたい。
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私は母と同じ部屋で寝ている。
ある夜、目を覚ました夢を見た。
ぼんやりとしていた。だが、何故か起きたようなリアルさ。夢の中にある羊膜に包まれてでもいるような邪魔で透明なフィルタの無い、夜のヒンヤリとした空気さえ感じたのだ。
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ムニャムニャと何か寝言を言う母が見えた。
母さんが寝言なんて珍しい、疲れているのだろう。
そう思って目を瞑ろうとした。
「お前なんか要らない」
ハッキリと聞こえたその言葉に目を開けた。
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しかし母の声の下に暗く低い声が重なっているように聞こえた。地の底から響くような、暗がりを這うような声が、母の喉を借りているようだった。
その声はなおも続く。
「お前は頭がおかしいんだ。」「お前がいるべきなのは精神病棟だ。」「お前なんてここに必要ない。」
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朝、目を覚ました。
気が付くと母は一階にいて兄弟達とリビングにいた。
なんとは無しに聞いてみた。
「母さん、僕はここにいても良いのかい。」
母は悲しそうな顔をして。
「何言ってるんだい、怖い夢でも見たかい?」
私は夢を見たことを話した。
正確には、夢なんだか夢ではないのだか分からないと、母と別の声が私を詰るのを見たと。
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「それは悪魔の声だ、大丈夫、アンタは必要だ。アンタは私の子で、かけがえが無いのだから。」
その言葉で、一瞬は安堵した。
だが、あの言葉が母の本心だとしたら?
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悪魔の声にお気をつけください。
甘く誘う言葉の他に、人に暗がりを歩かせるような事も、人の何かをいとも簡単に奪うのだから。
作者一条亜喜人