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コオリノ怪談・偽リナキ体験談

長編8
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コオリノ怪談・偽リナキ体験談

 この話は、私、コオリノ本人が体験した話です。

思えばこの体験を期に、私は怪談というものに興味を持ち始めたのかもしれません。

初めに言っておきます。この話には霊などといった類はでてきません。多分……違うと思います。

偶然の産物。

私はそう思う事にしています。

それでは、お読みください。私が小学6年生の頃に体験した話を。

§

私はその日、H県K市にある戸畑商店街にいました。

目的は、その商店街の中にある本屋です。

程なくして本屋に着いた私は、目的の本を探す為、本棚の周りをグルグルと徘徊していました。

その本屋には、中に大きな四角形の柱がいくつかあって、四角形のそれぞれの面が、全面鏡張りになっていました。

私は本屋に入ると長居するたちでして、その日も何度も同じ場所をグルグル周りながら、目新しい本を物色していたんです。

やがて、ふと違和感を感じました。

それはあの柱にある鏡です。

見ると、そこには私が映っています。当たり前ですよね。が、もう一人、私の他に映っている人物が居ました。

これもまあ当たり前です。だって他に客がいるんですから。

でも私が感じた違和感はそこじゃありません。

さっきから、不意に視界に入るその鏡の中に、まったく同じ人物が、私の後ろにいたのです。

まるで、私の後をつけているかのように。

その人物は男でした。黒縁の眼鏡を掛け、頭部は少し禿げていたと思います。

水色の半袖姿で、小太りの男性。

年は30後半から40代といったところです。

ちなみにその時点で、私が本屋に入って既に2時間ほど立っていました。

私は何だかそれが面白くなり、わざと誘導してみようと考えました。

正直その時はまだ、本気でその男が、私をつけているなんて思っていなかったから。

私は直ぐに踵を返すと、婦人雑誌コーナーに向かいました。

男が読むようなものはもちろんありません。

本を物色する振りをして、私はふと、鏡を見ました。

いました、例の男が。

婦人雑誌コーナーに、私の後をついてくるようにして。

ドクドクと、血管の中の血が、物凄い勢いで流れるのを感じます。

高揚しているのか頭に血が上り、その場に居ても立っても居られず、私は本屋を飛び出しました。

早歩きで本屋を出ます。

そして頭の中であれは私の勘違いだと、何度も強く念じました。

アーケードの中をしばらく進むと、タイトーと書かれたゲームセンターの看板が、私の目に飛び込んできました。

衝動的に、私の足は店の中へと向かいました。

手前にあった格闘ゲームの台に腰掛けます。

必死に心を落ち着かせ、冷静になろうと考えたその時、

ゲームセンターの自動ドアが開くのが見えました。

そしてそこには、例の男が居たのです。

バクバクと心臓が鳴り、吐き気すら感じるほど、私はパニックに陥っていました。

ですが何を思ったのか、私はもう一度試す事にしたのです。

あの男の行動を。

財布からお金を取り出します。

コインを投入し、ゲームを開始します。

そして斜め向かいにある、起動していない機台のディスプレイを利用して、そのディスプレイに僅かに映りこむ男を、目の端で追いました。

私の後ろ約3m程、後ろのゲーム機台に、男が腰掛けました。

財布からお金を取り出し、それを投入しています。

軽快な音と共にゲームのスタート音が、後ろから響いてきました。

どうやら男は麻雀ゲームを始めたようです。当時流行っていた脱衣系のものだったと思います。

私はその動きを見計らって、すぐさま席を立ち上がり、店を出ました。

そこですぐに走って帰れば良かったものを、私はまたもやあの男を、最後にもう一度試してみようと考えてしまいました。

こんな恐怖に晒されながらも、私の好奇心はその恐怖を上回ってしまったのです。

私はすぐさま行動に出ました。行き先は決まっています。

商店街の中にある、確かサンリブという名のデパートです。

入り口に入ると、すぐさま目の前にあるエスカレーターに乗りました。

昇った先、2階の踊り場には、ガチャガチャが置いてあります。

当時ガチャガチャにはまっていた私は、これでもやって落ち着こうと考えました。

全ては偶然。自意識過剰な私の早とちりなんだと、思い込もうとしたんです。

けれども、浅はかな私の思いはすぐに、裏切られる事となってしまいました。

あの男です。

エスカレーターに乗って、こちらに昇ってきたんです。

私とは目も合わせず、どこか遠くを眺めるようにしながら、徐々にこちらに近づいてきたのです。

急いでその場を離れました。私は身を隠しながらフロアの隅に移動し、階段を利用して更に上の階へと移動しました。

婦人服売り場。しかも下着売り場に、私は入りました。

私自身は怪しまれる事はありませんが、男性一人がここに来る事はまずないでしょう。

しかし、男は来たんです。

まっすぐ他には立ち寄らず、婦人服売り場にある、女性用下着売り場のコーナーに。

逃げました。

エスカレーターを駆け足で降りました。

足がもつれこけそうになりながらも、私は走りました。

ですが、私は子供だったのです。

浅はかで、たいした知恵ももたない、衝動的に身動きしてしまう、矮小な子供だったのです。

デパートを出た私は、何を思ったのか、そのデパートの裏に逃げ込んだのです。

そして目の前にある、赤茶けた錆まみれの非常階段を駆け上がったのです。

無我夢中で昇りました。

来ないで、来ないで、来ないで!

何度も胸の内でそう叫びながら、上へ上へと駆け上ったのです。

やがて行き止まると、4Fと書かれた鉄の扉に手を伸ばしました。

ガチャガチャと鈍い金属音が響きます。が、扉は私の意に反して開きません。鍵がかかっていたのです。

当たり前ですよね。ですがそんなことすら、当時の私は予測できなかったのです。

扉のドアノブから手を離しました。一瞬静まり返ります。が、

カンカンカンカンカン、

下から音が響いてきます。

靴音でした。

カチカチと音が鳴ります。私の歯音でした。歯と歯がすごい勢いで触れ合い、カチカチと音をたてていたのです。

膝が折れ、その場に私の体は座り込むように崩れ落ちました。

真ん中の支柱の隙間から下を覗き込みました。

水色の服が、チラチラと見えました。

カンカンカンカン、と、昇ってくる靴音はどんどん近づいてきます。

涙と鼻水で私の顔はぐしゃぐしゃでした。

どうしてこうなったのか、どうすればいいのか?何も考えられません。叫ぶ事すら忘れて、私は嗚咽を漏らしながら、その場にうずくまりました。

が、その時です。

ガチャン、と金属音が鳴ったかと思うと、目の前の鉄の扉が開いたのです。

そしてそこから、デパートの制服を着た20代くらいの男性が現れたのです。

「こんなとこで何してるの?泣いてるの……?何、どしたん!?誰かにいじめられてんの!?」

大きな声で話しかけてくる若い男性。

すると下のほうから、

カンカンカンカン、と、

今度は凄い勢いで下っていく靴音が聞こえたのです。

「何あいつ?なんなん?あいつか?いじめてんの?」

そう言うと若い男性は私の返事も待たずに、急いで階段を駆け下り始めました。

「おいっ!ちょっ待て!」

二人の足音が遠ざかっていくのが分かります。

唖然としました、が私は力を振り絞り、フラフラと立ち上がると、ゆっくりと階段を降りました。

デパートを出て商店街の中に戻ります。

周りから聞こえてくる喧騒が、私のズタズタになった心を癒してくれました。

ですが、商店街の入り口まで来て、私は立ち止まりました。

足が棒のように重い。これ以上は動かせない。

呆然と立ち尽くす私の目に、電話ボックスが映りこみました。

迎えを呼ぼう、さっきの事を話せば、きっと親も迎えに来てくれるはず、そう思ったんです。

ボックスに入り100円を入れると、直ぐに家に電話しました。

何回かのコールが鳴ったのち、聞きなれた母親の声が、耳元で聞こえました。

泣きそうでした。いや、泣いていました。そのせいでうまく喋れません。必死に説明するも、

親にはまったくと言っていいほど話が伝わりません。

受話器の向こうで母親が苛々しているのが分かります。どう説明すればいいんだろう、そう思った時でした。

目の前に、こちらに接近してくる一台の車がありました。それはまるで、私の目の前でスローモーションのように見えました。

対向車線をはみだしこちらに迫るタクシー、タクシーの運転手らしき男性が、歩道を走りながら、

「車泥棒!!」

と叫んでいます。そして次の瞬間、そのタクシーは、私のいる電話ボックスの手前のガードレールに、

ガッシャーン!!

と、けたたましい音と共に、頭から突っ込んだのです。

幸い、タクシーはガードレールを突き破る事はなく、電話ボックスの手前で停まりました。

辺りは騒然としています。私はその場でうずくまりまたもやガタガタと震えていました。

周りからは、

「運転手は!?」

「おらん!」

「どこいったんや!?」

「タクシー盗まれたー!!」

と怒鳴り散らすような声が飛び交っていました。

受話器からは母親が私の名前を連呼する声が聞こえます。

私は震える手で受話器を持ち直し、耳元へと運びました。

すると母親が、

「あんたいい加減にしなさいね!?何騒いでるの??まあいいわ……とにかく、今日はどうするの?泊まっていくの?帰ってくるの?」

「えっ?」

母親の声に、思わず聞き返します。

「泊まっていく?だ、誰が?」

私は声を振り絞り聞き返しました。すると母親は、

「アンタの事よ。30分前くらいに、今日は泊まるから帰らないよって電話してきたじゃない」

30分前?

私がまだあのデパートの、非常階段に隠れていた頃の時間です。当時携帯電話なんてものはありませんでした。

あってもポケベルくらいです。私が電話するなんてありえないしできない事なんです。

もう何がなんだか分かりません。

世界が意思を持ち、私に敵意を向けているかのような思いに駆られ、私は関を切ったかのように、その場で泣き叫びました。

§

以上が、私が過去に体験した話です。

脚色も誇張もありません。

ありのままの体験談です。

あまり怖くないですよね?正直訳の分からない話ですから。

ただ、一つだけ言える事があります。

私はこの体験をしたからこそ、怪談というものに興味を持ったんだと思います。

怪談は、答えのない不可思議な事ばかりです。

そう怪談は、不可思議連鎖の物語だと、私は思っています。

ただ……この話を友人にしたところ、その友人は私にこう言いました。

「お前、本当にコオリノだよな……?」

もちろん、

「そうだよ」

と、答えましたけどね(笑)

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よくわらからないけど怖い!
わからないのが怖いねε=( ̄。 ̄;)

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